持続可能性に取り組む、ドバイのカフェを訪ねて。
世界から集まる人材とマネーにより、成長を続けるドバイ。ビジネスハブにして世界有数の観光都市では、近年、新しいカフェが増え続けている。カフェブーム沸騰中のドバイで、環境保全や社会貢献に積極的なカフェを訪れた。
Mokha1450
モカ 1450
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左から:客のそばでコーヒーを淹れるバリスタ。/ラテアートに愛情を注ぐ。
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左から:熱砂で沸かすトルココーヒー。/オリジナル・リユーザブルカップ小(左:46.25AED)と大(右:105AED)を使えばドリンク代金20%オフ。
高さ世界一のブルジュ・ハリファが突出した超高層ビル群を背景に、ドバイ中心部を走るアル・ワスル・ロード。その通りに1号店「ブティック」を構えるモカ 1450は、優雅なアラビア風の内装とシングルオリジンのコーヒーが人気で、白装束のカンドゥーラをまとってコーヒーに憩う男性客が多い。
「お客様の8割が飲酒しないエマラティ(UAE国民)なので、夜も賑やかです」とニューヨーク育ちのジャマイカ人経営者ガーフィールド・カーさん。
カーさんがコーヒービジネスに乗り出したきっかけは、ウォールストリートでファンドマネージャーを務めていたころに、友人に誘われて、政情不安が続くイエメンの女性ばかりのコーヒー農園の支援に協力したことだった。
「モカ 1450を開店した後も、その農園から継続的にコーヒー豆を買うことで支援を続けています」とカーさん。
現在は、イエメン、エチオピア、ジャマイカ、グアテマラからの6種のコーヒー豆を扱っており、そのうち4種は、女性が経営する農園のものだ。
「コーヒー生産者の多くは、厳しい労働を担いながらも、少しの利益しか得ていません。また女性は、コーヒーの多くの分野に携わりながら、経営や管理を担う人はわずかです。これらの状況を少しでも変えられればと思っています」とカーさんは情熱を注いでいる。
パンデミックの最中、バリスタを励ますために。
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アラブの接客・集会の間マジリスを模したコの字型のソファ席。アラブ風の幾何学模様の内装は、外国人客向けかと思いきや、地元のリピーターが多い。
新型コロナウイルス流行初期の今年3月、カーさんはバリスタが自宅でのコーヒーの淹れ方を競う「ホーム・コーヒー・ブリューイング世界大会」を主催した。これに応じて30カ国から集まった161の動画を審査した。
「多くのカフェが営業を中断、縮小するなか、存分に働けないだろうバリスタたちを励ましたくて大会を開きました」とカーさん。コーヒーを通じた社会貢献の足取りは軽い。
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左から:カンドゥーラ姿の男性客たち。/ガーフィールド・カーさん(右)が支援するイエメンのタロック女性コーヒー協会のメルヴァット・ハイダーさん(左)
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左から:ピッコロのダブル(23.10AED)とバナナブレッド(15AED)。/ケメックスで淹れたエチオピアの「アマロ・ガヨ」(73.50AED)とナツメヤシのお菓子デート(無料)。/小さな真鍮鍋イブリック(左)で注いだトルココーヒー(26.25AED)。
Mokha1450
モカ 1450
コーヒーを通じた社会貢献を進める2015年創業のカフェ。このブティック店に加えて、2018年にラウンジ店を人工島パーム・ジュメイラにオープン。アラビア風の内装と抑えめな照明が落ち着きを演出している。
■ https://www.mokha1450.com/
Kava & Chai
カヴァ & チャイ
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左から:アバヤ姿の女性客。/アニスとシナモンが入ったカヴァ&チャイ・ラテ(23AED)とハニー・ザータル・チーズケーキ(20AED)。/スターアニス・シェイク(25AED)とアレッポ・ペッパー・ターキーサンド(30AED)。
バール・ドバイとディラの旧市街地の間を貫くドバイ・クリーク。かつてその水路はペルシャ湾交易の要として賑わい、街の発展を育んだ。
2017年に水路のバール・ドバイ側に新設された飲食・ショッピング街アル・シーフでは、伝統的な建築で統一された店が並び観光客を招いている。
ここに異国情緒漂う2号店を構えるカヴァ & チャイは、多角経営を行うCEクリエイツが展開するエコ・フレンドリーなカフェ・チェーンだ。
持ち帰り用カップやストロー、カトラリーなど使い捨てされる食器類や紙ナプキンには、生分解性素材やリサイクル素材のものを使い、店員の制服にはペットボトル由来の再生ポリエステル繊維を採用している。
「コーヒーは、人々が見識を交わす、いわば学びの場で嗜まれてきました。カフェはエコな取り組みを発信するのに最適なのです」とCEクリエイツのマネージャー、サアド・アブダラさん。
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左から:真鍮の緑青を表したシンボルカラー。/アラビアコーヒー(13AED)も楽しめる。
歴史を取り戻し、エコなカフェとして展開。
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屋上に通気孔のある伝統的な建築のアル・シーフ店。映画のセットのような飲食・ショッピング街は人気の観光スポット。
「コーヒーの文化はアラビアが発祥です。その歴史を取り戻すために、コンセプト新たなカフェを作り、それを広めたいというのがカフェ業界参入の理由です」とアブダラさんは続けた。
店舗展開を戦略的に進めるために他の店舗の立地には、大学キャンパス、国際金融センター、ショッピングモールという異なる環境を選んだ。
さて気になるのはメニュー。コーヒーにはエスプレッソ、カフェラテ、カプチーノなど一般的なものの他に、トルココーヒーとアラビアコーヒーを加え、フード類にはアラブの食材を使った品々を揃えている。
アラビアの味とコーヒー文化の歴史、そしてエコな取り組みの3つを軸に、フランチャイズ化と海外進出を視野に入れた、UAE発世界水準のカフェ・ブランドの確立を目指している。
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左から:気さくなフィリピン人スタッフたち。制服には再生ポリエステル繊維を使用。/対岸に望むディラ地区のビル群。ドバイ・クリークでは渡し船アブラが往来している。
Kava & Chai
カヴァ & チャイ
中近東地域で最も古い民間石油会社であるクレセント石油の関連企業CEクリエイツが2018年に創業したUAE発のカフェ・チェーン。アメリカ大学シャルジャ校内の1号店を皮切りに、現在4店舗を営業中。
■ https://kavaandchai.com/
Raw Coffee Company
ロウ・コーヒー・カンパニー
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ドリンク専用のキッチンでは、異なる国籍の若者たちが一杯のコーヒーに情熱を注ぐ。広い店内ではそもそも社会的距離が保たれている。
工業地区アルクオズで営業するロウ・コーヒー・カンパニー(以下ロウ)は、ドバイのコーヒービジネス繁栄を象徴するカフェだ。昨年開店したばかりの1200㎡の巨大な店舗では、焙煎室、コーヒー生豆保管庫、物販コーナーなど様々な業務を担うスペースが、中央のキッチンとその周りでコーヒーを楽しむ客を囲んでいる。
かつて、ジェベル・アリ地区のヨットハーバーでカフェを経営していたオーナーのキム・トンプソンさんにとって、悩みの種は、ドバイで美味しいコーヒー豆を入手できないことだった。
港湾地区の開発でカフェが取り壊されたのを転機に、2007年に自ら焙煎業を始めたのが、ロウの船出だった。その2年後にマット・トゥーグッドさんを経営陣に迎えて成長してきた。
ロウの主な業務は、焙煎コーヒー豆とエスプレッソマシンなどの器具の販売だ。現在は19種のシングルオリジンの豆と4種のオリジナルブレンドを取り扱い、飲食店を主とする市内260の取引先に販売している。
業界のリーダーとして、環境保全への取り組みも忘れていない。コールドドリンクに伴うストローには、昨年から生分解性素材のものを使用している。
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左から:焙煎室は3交代制で24時間稼働。/インド出身のバリスタが丁寧にコーヒーを淹れる。
パンデミックを機に、BtoCに方向転換。
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左から:コールド・ブリュー・オン・アイス(21AED)とひよこ豆コロッケのファラフェル(25AED)。/ルワンダのニャビフ郡のコーヒー(21AED)とギリシャ風串焼きのピタパンサンド(55AED)。
「政府の新型コロナウイルス対策に従い、3月22日から4月28日までカフェを閉めて、その間はオンライン営業に徹しました」とトンプソンさん。既にコーヒー豆などのオンライン販売を行っていたことが功を奏したという。
「売上は従来の93%まで落ちましたが、オンライン販売が好調で、新規のお客様が増えているのが嬉しいです」
オンライン事業においてロウは、これまで企業間取引(BtoB)を主に営業してきたが、パンデミックを転機と捉え、対消費者取引(BtoC)に切り替えて、この困難を乗り切る意向だ。
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左から:ニュージーランドとUAEの国旗を飾った店内。/器具とコーヒー豆が豊富な物販コーナー。
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左から:トゥーグッドさんの後ろには、淡水化装置。海水を淡水化した水道水を更に淡水化し、エスプレッソマシンなどの故障を防ぐ。/エスプレッソマシンの購入者に、マシンの扱いや手入れを案内する。
Raw Coffee Company
ロウ・コーヒー・カンパニー
ニュージーランド出身のオーナー2人によるコーヒー豆焙煎所兼カフェ。コーヒー豆や器具類の販売に加えて、カフェ人気上昇中の湾岸諸国で、出張コーヒー講座を行うなど多角的な経営で、ドバイのカフェ業界を牽引。
■ https://rawcoffeecompany.com/
Spill the Bean
スピル・ザ・ビーン
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カウンター内右側がハイダールさん。
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左から:ハロウミチーズと野菜を挟んだライ麦のサンドイッチ(27AED)とフレンチプレス(22AED)。コーヒー豆はロウ・コーヒー・カンパニーのブレンドを使用。/グルテンフリー、シュガーフリーのチョコケーキ(30AED)とフラットホワイト(20AED)。
太陽光パネルを張り巡らせたエコな集合住宅地「サスティナブル・シティ」は、周辺が未だ整備中のエリアに、2015年にオープンしたドバイ初のネット・ゼロ・エネルギー・タウンだ。
敷地エントランスに近い、飲食店の集まる一角で営業するスピル・ザ・ビーンは、健康的な食事と種類豊富なコーヒードリンクが人気で、朝食時には周囲の店より先に来客を迎える。
「以前、ジュメイラ・ビーチのショッピングモールで営業していたのですが、この地区のポリシーに惹かれて2016年末に移転しました」と経営者ハンナッド・アビ・ハイダールさん。
レバノン出身のハイダールさんは、そもそも土木エンジニアだったが、出張先のロンドンでコーヒーの美味しさに目覚めて2012年に開業した。
ドバイのカフェブームの先陣を切った店の一つだと自負するハイダールさんは、昨今のカフェが乱立する状況に「クレイジーだ!」と驚きを隠さない。移転には後発の店舗との違いを見せる意図もあったようだ。
街の商業エリアから離れたサスティナブル・シティを訪れる観光客は少なく、顧客はもっぱら住民と敷地内のオフィス・ワーカーだ。東京ドーム約10個分のタウンでのデリバリーには敷地内でシェアされている電動カートも使っている。
スポーツイベントで、ブランドをアピール。
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左から:環境への負荷軽減にシェアマグの使用を推奨。/タウン内には外国人駐在員も多く、帰国の際に寄付された書籍を貸し出している。
店舗ブランドのアピールと新たな顧客の獲得のために、行っていることの1つが、各種スポーツイベントへのフードトラックの出店だ。
スポーツイベントへの出店は、ヘルシーをうたうカフェとイベント参加者の双方にとって喜ばしいことのようだ。
「イベントへの出張営業に関しては、10月から3月の間は、ほぼ毎週末予定が入っています」と一台きりのフードトラックで奔走している。
1AED(ディルハム)=約28.75円(2020年9月現在)
取材・文・写真 仁尾帯刀
更新日:2020/12/28