COFFEE BREAK

文化

文化-Culture-

2017.04.20

コーヒー焙煎士、パリの流儀 Vol.3

一杯のコーヒーは、一皿の料理と同じ。

Christophe Servell
クリストフ・セルヴェル

1968年パリ生まれ。祖父は焙煎士、母はコーヒー小売店を経営。広報の世界で働いたのち、焙煎の道へ進む。2009年「テール・ド・カフェ」をオープン。

パリのコーヒー業界に「テロワール」の視点を取り入れた焙煎士。その哲学は、「コーヒーの味は、人が決める」ということだった。美食の都で活躍する、個性豊かな仕事人たち。その流儀に迫る連載。

 2009年に「テール・ド・カフェ」を立ち上げたクリストフ・セルヴェルは、パリのシングルオリジン・コーヒーの先駆けの一人。コーヒーに関わる人は、農園からカップの中まで一貫して理解すべき、との理念のもと、産地巡りをライフワークとする。「コーヒーの土地」を意味する店名はそれを象徴するものだ。その哲学が培われた基盤には、ワインへの愛があったという。

「ワインでは必ず、テロワールを語ります。ぶどうの生まれた土地と、そこに生きる人々について。ではコーヒーのテロワールとは、何だろう?」
 そう考えて訪れた生産地には、当たり前の真実があった。それは「コーヒーの味は、人が決める」ということ。

「関わる手によって、コーヒーの仕上がりは驚くほど変わる。ベストなコーヒーを実現するには、生産者も焙煎士もバリスタも、同じビジョンを持つべきなのだと気がつきました。僕のパートナーたちにはみな、それぞれの仕事以外の工程をすべて伝え、イメージを共有してもらっています。産地では、農園内の仕事も細かく話し合う。先週まで滞在していたエチオピアの農園では、収穫時の注意点と収穫人の労働条件について話をしてきました。全工程で一つ一つの条件を改善することが、品質の最適化に繋がるんです」

 入手した豆を販売するパッケージに、セルヴェルは産地の情報を詳細に記載する。国や農園名はもちろん、地域、標高、生産者名、風味の特徴、試飲スコアの点数。彼の考える「テロワール」は、そのすべてに表れているからだ。パリの焙煎所で、彼ほど詳しく豆の情報を顧客に伝えるところは、他にない。

調和のとれた美味しさ、それがフランス式焙煎。

 フランス人であるセルヴェルにはもう一つ、強い願いがある。それはイタリアンローストに対抗できる「フランス式焙煎術」を確立することだった。

「フランスは美食の国なのに、コーヒーに対して長年無頓着でした。コーヒーにも、フランス料理と同じ価値を与えたいと願ったんです。生産者を尊重し、新鮮な素材から、精緻な技術で調和のとれた印象深い美味しさを作り上げるのが、フランス料理。これをコーヒーでもできないか?と」

 酸味・苦味・甘みのバランスが取れ、そのどれもが突出しておらず、響き合うような余韻をーー「シェフが料理をするように」とイメージしながら、セルヴェルは豆を焙煎している。

コーヒーミル
「挽きが精緻で、オブジェとしても美しい」と愛用するドイツ製コーヒーミル。ミル部分がかなり頑丈で、一生ものの耐久性がある。下のドリップセットと共に、産地巡りに欠かせない道具だ。

ペーパードリップセット
国外出張には、ペーパードリップセットを持参。日本製のカップがお気に入りで、ここ数年ドリップはこれのみ。「これとミルと豆があれば、世界中どこでも美味しいコーヒーが飲めます」

簡易エスプレッソマシン
愛車に搭載し、国内ではどこへでも持ち運ぶ手動のエスプレッソマシン。簡素な作りながら、プレス前の「蒸らし」もしてくれる。「細かくて綺麗なクレマができる、素晴らしいマシンです」

TERRES DE CAFÉ
テール・ド・カフェ

マレ地区の小道にあるカフェ。イートインのほか、自家焙煎豆と各種コーヒー機器を販売する。40 rue des Blancs Manteaux 75004 Paris
www.terresdecafe.com

文・髙崎順子 / 写真・吉田タイスケ
更新日:2017/04/20

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