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COFFEE BREAK
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文化-Culture-
野鳥とともに生きる、ボリビアのコーヒー農園。
ボリビアのユンガス地方を舞台に、環境保護団体と生産者組合が二人三脚で取り組む、生態系を守りながらのコーヒー生産をレポート。
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樹木に囲まれて育つコーヒーノキ。従来のクリオーリョ、カティモールに加えて、さび病対策にカスティーリョ、IPR102などの亜種も栽培。
ペルーとの国境に接して、ボリビア北西部に広がるマディディ国立公園は、生態系が世界で最も豊かな自然保護区だ。特に鳥類が豊富で、236種が約190万haの敷地で確認されている。その生態系を守ろうと国際NGOの野生生物保護協会(WCS)ボリビア支部は、1999年より天然資源、保護区の管理や生物相の調査を行ってきた。また国立公園周辺では、開発や無計画な農業からの緩衝材となるよう、複数の集落で、有機農法によるコーヒーやカカオなどの生産を支援している。
国際的な環境保護認証「バードフレンドリー」を取得して、自然を守りながら行うコーヒー生産のあり方を探りにアンデス山麓のユンガス地方ラレカハ郡の生産者協会を訪ねた。
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左から:アプセルの生産者とWCSスタッフ。中央で「鳥のエコー」ブランドのコーヒーパッケージを手にするのは、4haの農地を営むアプセル現会長のフェルナンド・イラキタさん。/コーヒー鑑定士である娘のダイアナさんに、自ら栽培した豆でコーヒーを淹れてもらう父ベニート・ケアさん。
世界水準の認証を携え、海外のバイヤーに直接アピール。
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左上からトルコイシフウキンチョウ、ベニタイランチョウ、ナナイロフウキンチョウ、カササギフウキンチョウ。アプセルは、国の指定する野鳥保護重要区域の一つであるベジャ・ビスタ内に位置し、ボリビア全国で確認されている約1400種の野鳥のうち約17%がこの地域に生息する。
Photo by Javier Condori Cruz
ボリビアの一大コーヒー生産地カラナビから北北西に約40㎞。ラレカハ郡テオポンテ市チュチュカを拠点に活動するラレカハ地域エコロジック・コーヒー生産者組合(アプセル)は、周囲の8集落、35世帯の会員を統括している。組合会員を含むこの地域の農業生産者はみな、国が開墾し、分譲したこの土地に、1980年代から移ってきた。
米、とうもろこし、コカの葉など、暮らしのためには何でも植えてきたが、標高1200~1400mのこの土地は、コーヒーの栽培に適していた。
しかし、年に1度の収穫をカラナビの組合に納めても、安値で取引されてしまう。そこで差別化が図れるオーガニック栽培に取り組み、2001年にアプセルを設立したのだった。国立公園周辺域の保護の目的でWCSがアプセルを支援し始めたのは2009年。地域に電気が通される前のことだった。
「私たちは、コーヒー豆の品質の管理と改善、気候変動への適応、認証取得などにおいてアプセルをサポートし、エコなマーケットへの商品アピールを行っています」と語るWCSのコーヒー専門技術者ホルヘ・ロハスさん。真摯な人柄に加えて、2015年から5年間チュチュカに駐在した経験により、生産者たちから厚い信頼を得ている。
アプセルがバードフレンドリー認証を取得したのは2014年。農地の樹種を調べ、アプセルに最もふさわしい認証と判断したWCSが申請した。
バードフレンドリーは、アメリカの国立学術機関スミソニアン協会の渡り鳥センターが1998年に設立した認証だ。当時、渡り鳥の減少が確認され、それが中南米での森林伐採によるものだとわかると、渡り鳥の生息地の保全のために認証を創設したのだった。現在、中南米の国々を主に、11カ国58生産者組織がこの認証を取得している。
WCSは、認証を取得したアプセルのコーヒー豆の見本を送ることで海外の販路を探り、現在までに欧米3カ国のバイヤーと契約を結んできた。
コーヒー栽培が無農薬で行われていることはもちろん、農園の4割が12m以上の木々で覆われていることや農園に10種以上の樹木が生えていることなどがバードフレンドリー認証の規定だ。
アプセル副会長のサントス・アラノカ・コンドリさんの農地では、落ち葉に覆われた土壌に、コーヒーノキが木々の陰に植わっていた。セドロ、マホガニー、カポックなど樹木の種類は、認証の基準を優に上回る豊富さだった。
アプセル会員でバードフレンドリー認証を得ているのは13世帯。今年は新たに16世帯を追加で登録する予定だ。
コーヒーで伝える、生態系保護の大切さ。
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左から:ユンガス地方からアンデス山脈を上りラパスへと通じる国道3号線。ボリビア産コーヒーのほとんどは、このルートをたどって輸送される。/中央の樹木セイボは、カリウムを土壌に注ぐ生きた栄養源として、国の農業研究所CATIEの指導で植樹された。
後継者を育成し、国内にもエコなコーヒーを。
会員のベニート・ケアさんのお宅では、娘のダイアナさんが、父の畑で採れた豆でコーヒーを淹れてくれた。普段はカラナビで暮らすダイアナさんは、農業学校の企業コーヒー栽培科を専攻する学生だ。2018年にはWCSの助成を得てコロンビアでコーヒー鑑定士の資格を取得した。アプセルで農業技師を務める姉のシルビアさんも農学部での調査の際にWCSの助成を得た。次世代の育成もまた、持続的なコーヒー生産のためにWCSが行う支援だ。
さて、ボリビアでも都市部の富裕層を中心に上質なコーヒーを味わう消費文化が広まっている。ラパス市サンミゲル地区で営業する「オリヘン」は、国内市場を対象にWCSが生産を支援するオーガニック商品を扱っている。
オリヘンで焙煎されたアプセルのバードフレンドリー・コーヒーは、「鳥のエコー」のブランドで販売されている。
焙煎を担当して5年のサンドラ・アルコンさんも生産者子弟で、WCSの助成により鑑定士の資格を取得した。
このほかチョコレート部門でも生産者子弟たちが商品管理を担っている。
「生産地の若者が街に出てきて、収入確保を最優先して、他の人でもできる仕事に就くのはもったいないです。彼らが街でも家業に携われるように支援しています」とWCS生産企画部長のヒメナ・サンディさんは語る。
オリヘンはコロナ禍でしばし休業していたカフェを今年5月末に再開した。
「カフェの目的は消費者とつながることです。消費者に製品の産地や環境に配慮したものづくり、そして生態系保護の大切さを知ってほしいのです」とサンディさん。なるほど、源や産地を意味する店名のオリヘンにはトレーサビリティの意図が込められている。
「一方、生産者にとって、ヨーロッパのどこかへと出荷されるばかりだったコーヒーやチョコレートが、パッケージに入って国内で販売されることは、自らの仕事と商品へのより強い誇りと愛着につながります。これはとても大切なことです!」と締めくくった。
サンディさんの言葉の通り、アプセルの会員に「鳥のエコー」を手にした姿を撮影させてもらった際、みな誇らしげな笑顔を向けてくれた。
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左から:オリヘン焙煎担当のサンドラ・アルコンさん。/WCS生産企画部長のヒメナ・サンディさん(左)と同団体のコーヒー専門技術者のホルヘ・ロハスさん。
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左から:昨年4月に開店したオリヘンのカフェスペース。同じフロアにコーヒーの焙煎室とチョコレートの貯蔵室を構える。© Origen/鳥類図鑑のイラストレーターが手掛けた「鳥のエコー」パッケージ。上の4つは、生産者の名前入りスペシャルエディションのもの。
Wild birds of the coffee farms / コーヒー農園の野鳥
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左から:取材時にも野鳥を撮影していたクルスさん。撮影エリアで育ち、暮らし続けていることもあって、野鳥を見つける目は確かだ。/写真集『テオポンテのコーヒー農園の鳥』の表紙。
生産者子弟にして大学で農業技術を学んだハビエル・コンドリ・クルスさんは、2017年よりWCSの技術者としてアプセルの調整員を務め、そのかたわら2018年から野鳥の撮影を行ってきた。WCSは2020年12月に、クルスさんともう一人の撮影者で、大学院で生態系の研究を続けるカルロス・ミゲル・ランディバルさんが、アプセルの周辺で撮影した写真の中から56種の野鳥を紹介した写真集『テオポンテのコーヒー農園の鳥』を刊行した。野鳥の色鮮やかさに目を見張る一冊だ。バードフレンドリー申請の際に野鳥観測を行ったボリビアの野鳥研究者ビクトル・ウーゴ・ガルシアさんが序文を寄せた。