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COFFEE BREAK
インタビュー-Interview-
中村壱太郎【歌舞伎俳優】
仕事と私とコーヒーと。 Vol.22
中村壱太郎【歌舞伎俳優】
上方歌舞伎を中心に活躍する若手のホープ、壱太郎さん。コーヒーと共に過ごした10代、20代の思い出を中心に、楽しいお話をうかがいました。
コーヒーを飲み始めたのは中学生の頃。母が毎朝飲んでいるのを見て、真似をしたのが始まりだった。
「牛乳が嫌いな子供だったので、最初からブラックで。特に違和感はありませんでした。高校時代は喫茶店でコーヒーを飲みながら勉強したり、本を読んだり、歌舞伎の台詞を覚えたりして過ごす時間が大好きでした」
コーヒー好き、喫茶店好きが高じたのか、高校3年生(2008年)からは純喫茶でアルバイトを始めた。
「両親は"歌舞伎と学業と両立してやりなさい"ということで、自由にさせてくれていましたし、高校はバイトがOK。求人情報誌で見つけた渋谷の喫茶店へ面接に行くと、偶然にもマスターが同じ高校の先輩だったのです。知っている先生の名前が出て話が盛り上がり、"じゃあ明日からおいでよ"と言われて。ご縁を感じました」
大勢の人が行き交う渋谷駅からすぐの店は、席が24席。カウンターの中で一人で切り盛りするマスターに、コーヒーの淹れ方から食器や器具の洗い方、片付け方などすべてを教わった。
「店では当時珍しかったサイフォン式で、アイスコーヒーはネルドリップで淹れていました。豆は品種や原産地によって大きさや色合いも微妙に違うし、焙煎の仕方や挽き方、ちょっとしたお湯の量の違いなどでも味わいが変わってくる。そのようなことを一つひとつ知っていくたびに、さらにコーヒーの奥深さにはまっていきました」
大学生になると、一人で店を任される日も増えた。朝、鍵を開けて店に入り、すべてを自分の責任で決めて行うことにやりがいを感じた。そして、コーヒーを淹れて出しながら、お客さんとやり取りするのがとても楽しかった。コーヒーを介して、さまざまな出会いが。
お客さんに自分から素性を明かすことはなく、ある時には、こんなことが。
「渋谷の劇場で歌舞伎公演を見た帰りだという女性から、"歌舞伎まだ見たことないの?! 今、演っているのはあなたのような若い人でも十分に楽しめるわよ!"と、お勧めされてしまいました(笑)。昔の歌舞伎座の楽屋にあった床屋の店主さんが毎朝モーニングセットを食べにいらっしゃったのですが、1年くらい私のことに気づかなかったということもありました。他にもコーヒーを介してさまざまな会社にお勤めの方や学生さん、観光で渋谷に来た人など、多くの人たちの日常生活がある場所で、その時間を共有することができたのは、私にとってとても有意義な経験でした。大学卒業後もしばらくはそのまま、結局約7年間、その店でお世話になりました」
喫茶店好きは今も変わらず。地方公演の空き時間などを利用して、お店巡りをしたりしている。今年は歌舞伎以外の舞台にも挑戦、カフェでお気に入りの一杯を味わいながら、台本や資料を読んで過ごす時間もあった。
「最近は柑橘系の香りのする豆とか、チョコレートに合う豆など、何かと合わせて味わうコーヒーを楽しんでいます。以前は歌舞伎公演中も楽屋に道具を持ち込んで、コーヒーを淹れてふるまったりもしていました。コロナが落ち着いたら、またそんな時間を作ることができたらいいなと思います」