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2022.06.30

【コーヒーと世界遺産】 ルアン・パバーンの町

ラオスの古都ルアン・パバーンで、癒しのコーヒーブレイクを

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16世紀に建てられたルアン・パバーンの寺院「ワット・シェントーン」は、町のシンボル的存在。本堂、レッドチャペル(赤堂)、立像堂の3つの建物で構成されている。建築はタイの影響を受けつつ、優雅に湾曲しながら幾重にも重なる美しい屋根はルアン・パバーン様式といわれる。壁面には伝説上の動物や仏教にまつわる物語が描かれている。Photo by Photo_N/PIXTA(ピクスタ)

 中国、ミャンマー、タイ、カンボジア、ベトナムの5か国と国境を接するラオス人民民主共和国。国土面積は24万㎢で、日本の本州より少し広い。その北部に位置するルアン・パバーンは、14世紀半ばにラオスを初めて統一したラーンサーン王国の都がおかれた場所で、特に欧米の旅行者に人気の高いスポットだ。ルアン・パバーンという名前は「大きな黄金の仏像」という意味で、建国にあたり、国王が仏教を国家の土台とするべくスリランカから請来した黄金の仏像に由来しているという。都として、そして仏教の中心地として栄えた町は、今現在も、ラオスの中で托鉢の規模がもっとも大きいことで知られている。

 この町全体が世界遺産に登録されたのは、1995年のこと。山々に囲まれた緑の中に、歴史ある仏教寺院をはじめ古都の繁栄を今に伝える建造物と、19世紀から20世紀にかけてのフランス植民地時代のコロニアル様式の建物が見事に融合している景観が評価されたのだ。そんなルアン・パバーンのもう一つの魅力に、カフェがある。

「フランス領の時代があったためか、町にはカフェがとても多く、歩いていると寺院の数に負けず劣らず目につきます。寺院巡りの合間にカフェのはしごをするのも、この町の楽しみ方の一つですね」

と語るイラストレーターの中村みつをさん。中村さんは山歩きをテーマにしたイラストを多く手がけ、最近では2020年にラオスを訪れている。メコン川とその支流のナムカーン川、という2つの川に周囲を囲まれているルアン・パバーンでは、町の中心部の通り沿いや川沿いにカフェが点在している。

「いい意味で近代化の波にのまれず、アジア最後の秘境ともいわれるラオス。ルアン・パバーンも高層の建物はなく、木々の緑にあふれ、日本の田舎を思わせるような景色が続いています。どこか懐かしい、素朴でほっとするような......そんな町並みに、コロニアル様式のちょっと洒落た造りのカフェが違和感なく溶け込んでいます。多くがテラスのあるオープンカフェで、とても開放的な雰囲気。心地よい風に吹かれながらのんびりといただくコーヒーが、町歩きの疲れをゆるゆるとほぐしてくれるのです。カフェのコーヒーに使われているのは地元ラオス産のコーヒー豆が中心で、1杯ずつドリップして淹れてくれるところが多いです。私は山歩きをしながらさまざまな国のコーヒーを飲んでいますが、芳醇な香りで程よい苦味とコクがあるラオスのコーヒーは、これまで飲んだ中で一番美味しいと思っています」 

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プーシーの丘から見たルアン・パバーンの町。  Photo by tom/PIXTA(ピクスタ)

地元ラオスの文化とフランス文化の融合を楽しむ

 ラオスにコーヒーノキが持ち込まれたのはフランス植民地時代の20世紀前半。冷涼多雨な南部のボーラウェン高原で栽培が始まったが、長引く内戦や不安定な国内政治の影響で、なかなか発展していかなかった。

「現在も、ラオスのコーヒー農園の大半はボーラウェン高原にあります。2000年代に入ってからはラオス政府が各国の援助を受けて、徐々に海外にコーヒー豆を輸出できるようになりました。日本でも少しずつ手に入るようになっています。また、ルアン・パバーンのナイトマーケットや露天の店でも有機栽培のコーヒー豆を買うことができます」

 カフェにはドリップ式のコーヒーだけでなく、昔ながらのラオス伝統のコーヒー「カフェ・ノム」もある。いわゆるコップコーヒーで、練乳と砂糖をたっぷり入れたコップに濃いめのコーヒーを注いだものだ。

「カフェ・ノムにはホットもアイスもあります。お隣のベトナムのコーヒーの飲み方に似ていますね。激甘かと思いきや、実際に飲んでみると甘さはそれほど強烈ではなく、むしろ暑い時期にはいいエネルギー補給になります。ラオスではもち米が多く食べられていて、もち米のスイーツもいろいろあります。もち米を笹やバナナの葉で包んだものや、もち米にココナッツを練り込んだもの、そして、中に餡を入れて揚げたものなど、どれもコーヒーによく合います。また、やはりフランス領だった影響で『カオ・チー・パーテ』と呼ばれるバゲット(フランスパン)の中に具材を挟んだサンドイッチがあるのですが、これもとても美味しい。コーヒーと食べ物のマッチングが良くて、のんびりした街の雰囲気もあってか、カフェではついつい長居をしてしまいます」

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川の畔のカフェに心地よい風が吹いてくる。 Photo by Mitsuo Nakamura

 ルアン・パバーンの1日は、早朝の托鉢から始まる。毎朝、何十人という僧侶が列をなして通りを歩き、待ち受ける人たちが炊きたてのもち米やお菓子を感謝の気持ちを込めて僧侶に手渡す。その規模はラオスで一番大きく、ルアン・パバーンの風物詩でもある。

「僧侶も、住んでいる人々も、生きている全てのものに祈り、感謝しているような気持ちがとても感じられる。そんな優しさが漂っているのも、この街の魅力だと思います。滞在中は、托鉢を見てすがすがしい気分になって、モーニングコーヒーを飲みにカフェへ、というのが私の日課になっていました」

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毎日、早朝に行われる托鉢。雨が降っても人々はもち米やお菓子を用意して僧侶たちを待っている。 Photo by Mitsuo Nakamura

お話:中村みつを/文:牧野容子

中村みつを(なかむら・みつを)

イラストレーター、画家。1953年東京生まれ。自然や旅をテーマにしたイラストとエッセイの作品を多く手がける。これまでにヒマラヤをはじめ、ヨーロッパアルプス、南米パタゴニアなどを旅する。読売新聞連載の「一歩二歩山歩」(文・みなみらんぼう)に1997年から2018年までの21年間、1000回の挿絵を描いた。主な著書に『のんびり山に日はのぼる』(山と渓谷社)、『山旅の絵本』(JTBパブリッシング)、『東京まちなか超低山』(ぺりかん社)他。日本山岳会会員。山の日アンバサダー。