COFFEE BREAK

世界のコーヒー

世界のコーヒー-World-

2023.05.31

海外支援と若手生産者らの奮闘。グアテマラの生産者組合でみたコーヒーの可能性(後編)

 グアテマラ北西部のウエウエテナンゴ県は、高地にあって質の高いコーヒー豆を生産する地域として知られる。同県のサンタ・クルス・バリージャス市(以下、バリージャス)で、長年オーガニック農法でコーヒー生産を行ってきたバリージャス農業組合(Asobagri:アソバグリ)を収穫真っ只中の2月上旬に訪れた。海外からの支援を受けながら、女性による生産と若手後継者の育成に注力する組合の現在とは? 後編ではアソバグリの商品ブランドの異なる目的とアメリカ支援の実情を紹介。

生産者の特色を押し出した商品ブランド

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手摘みされたばかりのみずみずしいコーヒーの実。

 グアテマラのおよそ最北端の高地に位置するバリージャスでの収穫期は、国内の他の生産地と比べて遅く、12月に始まり4月まで続く。訪れたプエンテ・アルト集落では、ピーク時の手摘みの収穫作業は連日、朝7時から午後3時ごろまで行われる。ピッキングする指先の確かさのみならず、夜露に湿った山肌の勾配で、コーヒー豆採集用のかごを前腰に下げながらの作業には、足腰の強さが不可欠だ。コーヒーの一消費者として、その労働にありがたさを感じる。

 無農薬で栽培され、手摘みされたコーヒーの実は、洗浄、乾燥などのプロセスを経たのち、薄茶色の内果皮がついたままの状態で首都近郊ビジャ・ヌエバ市に輸送され、提携のある施設で脱穀されてから輸出されている。

 アソバグリではコーヒー豆の販売を多様化するために2017年に、品種別ではない商品ブランドを作り、売り出した。組合員全般が生産する『ヤルモーシュ』、青年部に参加する若手生産者による『ビバス』、そして女性生産者の農地で栽培された『ドゥエニャス』の3ブランドだ。

女性も農地を獲得し、現金収入の手段を得る時代に

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アソバグリの管轄するプエンテ・アルト集落での収穫作業風景。

 かつて女性生産者は、伝統的な習わしから家長である夫や姑に従い、コーヒー生産による対価を直接得ることも自らの農地を持つこともなかった。女性は苗床の管理から収穫後の天日干しまで、年間を通したコーヒー栽培の作業のすべてに携わっており、むしろ彼女らこそがその生産の中心的存在だったにもかかわらずだ。

 従属的立場にある女性の地位を改善し、組合組織に直接参加できるよう、2010年に5人の女性リーダーたちによって女性委員会が設立された。当時、北米へ出稼ぎ移住するために、生産年齢男性の人口が著しく減少していた背景もあり、男性組合員から大きな反対はなかった。女性への土地の分譲や現金収入の獲得が次第に進み、現在に至っている。

 現在、アソバグリの女性会員は467人を数え、そのうち204人の女性が『ドゥエニャス』の生産に参加している。2022年度はコンテナ10台分に相当する250.4トンを生産した。

 生産者別に商品の差別化を図ったアソバグリは、各々の特性を生かして異なる販路の開拓に成功している。『ドゥエニャス』は、グアテマラ発中南米オーガニック認証である「マヤサート」のなかでも、女性生産者とのフェアトレードを保証する「コン・マノス・デ・ムヘール(Con Manos de Mujer)」の認証を取得。これを後ろ盾に、欧米、日本、中東など、ジェンダーの平等を推奨する海外のコーヒーショップへ販売している。

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『ドゥエニャス』を手にする女性委員会ヒルダ・エリザベス・バリオス代表と、青年部が生産する『ビバス』を掲げるベルナベさん。

奨学金支給と起業のサポートを担う青年部

 コーヒーブランド『ビバス』を生産するのはアソバグリ青年部。18歳~30歳までの若手生産者によるコーヒー生産の発展と事業の拡大・多角化を目的に、2016年に組合員20人によって立ち上げられた組織だ。現在の会員数は260人を数え、2022年度に『ビバス』を110.5トン輸出した。

 アソバグリ青年部会長のアントニオ・ペドロ・ベルナベさんが、後継者の問題について語りだした。

「若者の多くはアメリカ移住を望んでおり、農業を継ぎたがらない者も少なくないのが現状です。雇用やビジネス機会に乏しいこの土地で、兄弟が多いなどの理由から、親の農地を継ぐことができない若者もいるので、仕方がないんです」

 現状を打破すべく、『ビバス』による収益の一部は青年部の基金として、奨学金の支給や若手生産者への貸与に充てられている。これまで15人の若者が、奨学金で大学進学を叶えた。卒業後の元奨学生らは会計や法律関係、あるいは農業技師、コーヒー鑑定士として、地域と組合に貢献している。

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コーヒー豆の品質管理を担うミゲル・アンヘルさんは、奨学金で農業技師とコーヒー鑑定士の資格を得た。

 青年部は頻繁に行う集会を通じ、栽培作物の多様化や副収入確保のための指導や相談、あるいは法律や経営のノウハウを分かち合っている。その取り組みによって、市街地で雑貨店や薬局を副職として経営する者も出てきた。アソバグリは2017年にバリージャスで初めてのカフェをオープンしたが、これも若者の雇用と、農作業とは異なるコーヒー業界の職業体験を促したい青年部の発案だった。

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アソバグリのカフェ『ラ・カフェテリア』で働くマダレーナ・ミカエラさんは現役の奨学生。

地元での雇用創出を後押ししたいアメリカの思惑

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かつてアメリカ移住を経験した農業技師のフリオ・アルベルト・ロペス・レシノスさん(右)。

 グアテマラは、エルサルバドル、ホンジュラスとともに中米北部三角地帯と呼ばれ、北米を目指す不法出稼ぎ移民の発生源であり、通過国だ。メキシコ国境を接しているウエウエテナンゴ県からの出稼ぎは多く、地域経済は移民送金に依存しているのが実情だ。

 アソバグリはこれまでUSAID(アメリカ合衆国国際開発庁)、米州開発銀行という北米の基金や、NGOCECI、ルート・キャピタルなど主に北米から資金や技術の援助を長年受けて成長を遂げてきた。数々の支援を得てこられたのはアソバグリが積極的にアピールしてきたからだ。

 1970年代から増え続けている移民の流入はアメリカにとっては頭痛の種。雇用創出、収入拡大を支援する団体には、これ以上アメリカに不法入国されては困るという本音が窺える。そんな問題が背景にあるからか、USAIDは今年、支援の5年間延期を決めた。ベルナベさんは、その決定を「心強い」という。

「私たちは効率と品質の向上に取り組むべく、組合全体に農業指導ができるように若者60人を指導者として育成中ですからね。若者がアメリカに移民することなく、ここで家庭を築き、守っていけるのが一番です。そのためにコーヒーの販路を更に広めていきたいです」

 組合を発足した世代と比べると今の若者には就学の機会が増えたため識字率は高い。またスマートフォンの普及によって情報の受信・発信にも積極的だ。青年部のメンバーの真摯な眼差しとチームワークからは、自分たちの世代でアソバグリを更に発展できるという自信が伝わってきた。

 
写真・文/仁尾帯刀
更新日:2023/5/31
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