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COFFEE BREAK
世界のコーヒー-World-
2012.10.26
コーヒーと世界遺産 Vol.2
〈特別現地取材〉コロンビア・コーヒーの文化的景観
香り高く、酸味と甘味のバランスに優れるコロンビアのコーヒー。現在その生産量でブラジル、ベトナムに次いで世界第3位を誇るが、栽培は昔からの手作業で行われている。ユネスコは2011年、コロンビアの主要な生産地を、「コロンビア・コーヒーの文化的景観」として世界文化遺産に登録。コーヒーと生きる、コロンビアの人々とその営みを取材した。
南米大陸北西部に位置するコロンビア。その国土にはアンデス山脈が南北に走り、水資源豊富な高地が広がる。コロンビアのコーヒーは、主にこのアンデス山脈周辺で生産されている。
ユネスコが「コロンビア・コーヒーの文化的景観」として世界遺産に指定したのは、なかでも〝コーヒー三角地帯〟と呼ばれるカルダス、リサラルダ、キンディオに、隣接するバジェ・デル・カウカを加えた4県にまたがる約14万1000ヘクタールの生産地域だ。
この地域には約2万4000軒のコーヒー農園があり、その標高の平均は1540m。コーヒーの栽培には熱帯地域の標高1400mから1800mまでが最適とされるので、気候条件はこの上ない。しかし、農園の多くは急勾配な山肌にあり、栽培は困難だ。ユネスコがこの地に認めた文化的景観とは、険しい自然環境を克服し、上質なコーヒー豆を作ってきた幾世代にもわたる生産者たちの営みの風景なのだ。
長年続けてきた仕事が、世界に認められた喜び。
カルダス県マニサレス市で、曾祖父の代からコーヒー生産に携わる生産者を訪ねた。今年79歳を迎えるドン・セグンド・カルドナさんは、山岳地帯で3ヘクタールの農園を営み、未だ現役で農作業を続ける。コーヒー畑は、小高い山の尾根に構えた家から見下ろすように霧立つ谷へと続いている。自らの農園が世界遺産の指定地域となったことについて、「自分が長年続けてきた仕事が、世界に認められたような気分だよ」と喜びを言葉少なに語った。 気候の安定したこの地域ではコーヒーは年中収穫されるが、一番収穫の多い時期は10〜11月期、次いで多いのは4〜6月期である。急斜面の農地に機械が入る余地はなく、生産者たちは一粒ひと粒手摘みで収穫する。 コロンビアのコーヒー生産者は、多くがドン・セグンドさんのような3ヘクタール以下の小規模農家で、約56万世帯を数える。彼らを統括するのが、1927年に設立されたコロンビア・コーヒー生産者連合会〝FNC〟だ。ちなみに〝FNC〟は東京にも事務所を構え、今年で開局50周年を迎える。〝FNC〟は生産地15県のコーヒー生産者委員会を組織して、コーヒーの品質基準の管理や生産・輸出の促進のほか、教育や研究開発にも取り組む。 たとえば、生産者の子弟が多く通う公立中学で使われている『エスクエラ・イ・カフェ(学校とコーヒー)』というコーヒーの教科書は、委員会が後継者育成のために制作したものだ。挿絵を多用し、コーヒー豆の生産について子供たちが楽しく学べる内容となっている。「コロンビア・コーヒーの文化的景観」は、農作業と自然環境の均衡の上に成り立つ。生産者たちが営みを次世代へと継承することが不可欠なのだ。 1938年に設立された〝セニカフェ〟は、〝FNC〟が運営する国立コーヒー研究センターだ。コーヒー豆の品質向上と環境保全を研究するほか、生態学者とともに野鳥の生態研究も行っており、生物多様性を尊重した産業のあり方を追求している。 コロンビアは世界で最も野鳥の種類が多い国として知られているが、この世界遺産指定地域だけで世界の鳥類すべてのおよそ1割、約1000種が生息するというから驚きだ。野鳥の種類と数がこれほどまでに豊富なのは、山間のコーヒー畑の多くでバナナとの混栽や樹木を伐採しない木陰栽培が行われていることにもよるそうだ。 品質において世界から定評を得ているコロンビア・コーヒー。主要生産地が世界遺産に指定されたことで、その環境への配慮も注目を集めている。