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COFFEE BREAK

世界のコーヒー-World-
コーヒーの可能性をさぐる、〝カフェの街〟メルボルン。

コーヒーの可能性をさぐる、〝カフェの街〟メルボルン。
St. Ali South セント・アリ・サウス

メルボルンのカフェ界で、中心的存在の成功者。

左:ローストの研究に余念がないパージャーさん。23歳の、若き天才バリスタだ。 中央:オーナーのマラテスタさん(左)とバリスタのパージャーさん(右)。 右:"マジック"(フラット・ホワイトのコーヒーを倍量にしたもの)を運ぶスタッフ。8年前に考案されたヒット作だ。
サウス・メルボルンのこのカフェは、〝豪州ミドルパワー〟を肌で感じることができる場所だ。創業者のマーク・ダルトンさん(現「セブン・シーズ」オーナー)、2年後に店を引き継いだサルヴァトーレ・マラテスタさん、この2人の名前を抜きにこの10年のメルボルンのカフェ・シーンは語れない。マラテスタさんは複数のカフェやレストランの経営に加え、旅行・IT・建設など88ものビジネスを興し、年商は1800万豪州ドル(約16億9000万円)以上。成功者として講演の機会も多いマラテスタさんだが、語るのはあくまでもカフェとコーヒーのこと。 「コーヒー屋が天職なんです」。ポップスターのような出で立ちのマラテスタさんが言う。「私たちはこの街のコーヒー・カルチャーに〝第3の波〟を起こしているという自負があります」。

左:店内奥のロングテーブル席。他にも5人席、4人席、6人席がある。 中央:仕事の合間に午後の一杯を楽しむ女性客。 右:ウェアハウスを改装したもので天井が高く開放感がある。
7、8年前には、コーヒー豆の出所について人々はアフリカか南米かくらいの違いしか問題にしなかった。それが今では、どの地区の、どの農園でいつ収穫されたものかを多くの人が語っている。20年ほど前に本格的なエスプレッソが吹かせた風は、カフェの数と優秀なロースターやバリスタを増やし、人々に「外でコーヒーを飲む習慣」を根付かせた。マラテスタさんが言う〝第3の波〟とは、コーヒーのポテンシャルを最大限に引き出すいれ方・飲み方のさらなる進化であり、コーヒー原産地へのコミットメントだ。セント・アリはコロンビアに20エーカーのコーヒー農園を所有し、カフェで使う豆の一部を自給している。バリスタのマット・パージャーさんが提案する新しい飲み方「コーヒー・ショット」は、エスプレッソマシーンでいれるロング・ブラック(※)。 次なる展開は何か? 前進を止めないカフェの動きに地元の人々も快く巻き込まれているようだ。
※エスプレッソをショート・ブラックというのに対して、エスプレッソをお湯で薄めたものをロング・ブラックという。

左から順に:新メニューの〝コーヒー・ショット〟(6豪州ドル)/〝マジック〟はコーヒーの風味を強調してヒット(4豪州ドル)/ポーチドエッグとアスパラ(12豪州ドル)/サーモンのニョッキ(22豪州ドル)
Market Lane Coffee マーケット・レーン・コーヒー

三面ガラス張りでマーケットの雰囲気とつながりが感じられる店内。

バリスタのアイヴィーさん。
人々を「コーヒー啓発」する、というフィロソフィー。

左:店内に据えられたロースター。 中央:産地(エステート)といれ方で色分けされたコーヒー豆のパッケージ。 右:ポワ・オーバーのスタートアップ・キット(60豪州ドル)。
このカフェにはポワ・オーバーによる3種類のエステート・コーヒーを飲み比べることができるセットメニュー(2人用、12豪州ドル)があり、それぞれの豆のバックグラウンドと味わいが記されたカードが添えられる。レジ横にはポワ・オーバー・スタートアップ・キット(ドリッパー、ペーパーフィルター、コーヒー豆のセット)が並ぶ。これらのセットにも表れているのがマーケット・レーン・コーヒーのもうひとつの姿勢である。それは「コーヒー啓発」とでも呼ぶべきもの。週に2回(金曜と土曜の午前10時~11時)、カッピングの無料体験講座も実施している。一般の人々に、コーヒーに対する理解を深めてもらおうという試みだ。コーヒーを単に利潤追求の商材とは考えていないということだろう。 カップテイスティング大会での優勝歴もあり、メルボルンでもよく知られた日本人スタッフが講師を務めることもある。

左:ポワ・オーバー3種類の飲み比べセット。 中央:グァテマラのサンタ・イザベル農園産のコーヒー(7豪州ドル)。 右:ラテなどエスプレッソ系ドリンクも依然人気。
Mart 130 Cafe マート130カフェ

19世紀に建てられた駅舎がそのままにカフェに。今も10分おきにトラムが停車する。
その日の天候によって、豆の量や抽出時間を調整。

バリスタのチョウさん。7時半~15時という営業時間の当店で、コーヒーの担う役割は大きい。
夫のリチャードさんは長らくメルボルンの一流ホテルで接客やマネジメントの指導をしていた人。〝プロ中のプロ〟が目指すのは「カフェとレストランの間のような存在」。前のオーナーが創り出した居心地の良い雰囲気はそのままに、フード・メニューを強化するなどして、「カフェでも美食」が当然のメルボルンっ子たちを唸らせている。ここのビルヒャー・ミューズリーやパンケーキを求めて、わざわざ訪ねてくるツーリストも多い。バリスタを任されているのはレイ・チョウさん。1970年にイタリアからの移民が創業したジェノヴェーゼ・コーヒーから焙煎したコーヒー豆を仕入れているが、その日の天候によって豆の量や抽出時間を微調整し、スタッフのチェックを経て提供している。

左:カフェから出るとすぐホームで、地面には線路が。店名にある「130」は駅につけられた通し番号。 中央:メニューを手書きするスタッフ。 右:オーナーのアンステー夫妻は元々この店の常連だった。

左:トリプル・パンケーキ・スタック(16.9豪州ドル)。 中央:グラノーラと季節のフルーツをトッピングした"名物"ビルヒャー・ミューズリー(11.9豪州ドル)。 右:バナナとホワイトチョコのマフィン。
Silo by Joost サイロ・バイ・ヨースト

ニュージーランドから留学中の大学生ケイトさんと彼女の様子を見に来た両親。
持続可能な生活スタイルを、コーヒーがつなぎ、広げる。

店は飲食店が並び活気があるハードウェア・ストリートに面している。
アイスコーヒーを注文すると、ジャムなどを入れるガラス製の空きビンで出てくる。これは「再利用」の実践。「ゴミ・ゼロ」はサステーナビリティを目指す行動なので、当然、店で使う食材もオーガニックということになる。 コーヒーは、以前は複数の豆を使ってきたが、6ヵ月前、リバーサイド・コーヒー・ロースターズというサプライヤーにカスタム・ローストしてもらうブレンド1本に絞った。ソフトな味わいで、フード・メニューの素材重視の味を殺さぬよう、配慮がなされている。このサプライヤー自体がオーガニックやサステーナビリティを標榜しているところ。コーヒーを飲みに来ていた大学生のケイト・マッケヴィットさんは、「ここに来ると、自分がとてもまともなことをしている気がして、気分がいいんです」と言う。「ゴミ・ゼロ」に象徴されるライフスタイルがサプライヤーや顧客へと広がっていく。その媒介の役割をコーヒーが務めている。

左:アイスコーヒー(3.5豪州ドル)は空きビンで。 中央:右からクッキー、ミューズリー・バー、マフィン(各3~4豪州ドル)。 右:フラット・ホワイトの仕上げ中。