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COFFEE BREAK
文化-Culture-
コーヒーとアクションのビターな関係。
息をつく暇もなくピンチに見舞われる映画の主人公の、傍らにあるもの。それは、マグカップや紙コップに注がれたコーヒーであった。注意深い観客でなければ見逃してしまいそうな小道具だが、時に物語の名脇役として気にせずにはいられない存在になることも。今回は、ブルース・ウィリス主演作品から、コーヒーの名シーンを。
『ダイ・ハード3』では酔い覚ましの一杯として。
ブルース・ウィリスが俳優業からの引退を発表したのが2022年3月。引退の理由は失語症で、これまで映画の世界で地球や多くの人々を救ってきたアクションスターは、家族に支えられて平穏な療養生活を送っているという。元妻であるデミ・ムーアも、娘たちや現在のウィリスの妻と協力しながらサポートを続けていて、ときおりウィリスの近況をInstagramにアップしたりしている。
リアルタイムでウィリスの活躍を眺めてきた世代として、忘れられないのはやはり代表作『ダイ・ハード』の刑事ジョン・マクレーン役だろう。テロ集団に占拠された超高層ビルにたまたま居合わせた第一作を皮切りに、マクレーンは不運なんだか悪運なんだかよくわからないめぐり合わせで、何度も何度も緊急事態に巻き込まれていた。
ジョン・マクレーンはあくまでも等身大のキャラクターで、特にスーパーパワーがあるわけでも人並み外れたマッチョでもない。別居中の妻との関係や父親に反発する子どもたちに頭を痛めながら、「なんでこんな目に」とボヤきつつも必死で事件を解決に導く。ウィリスの持ち味であるとぼけたユーモアも手伝って、誰もが身近に感じられるアクションスターだった。
窮地が雪だるま式に膨れ上がる『ダイ・ハード』シリーズでは、マクレーンが息をつく暇がほとんどない。しかし『ダイ・ハード3』で、例外的にコーヒーにありついたことがある。仲を修復したはずの妻と再び別居してしまったマクレーンは、酒に溺れて停職に追い込まれ、毎日が二日酔い状態。そんなときに正体不明の爆弾テロの犯人に名指しされ、現場に連れて行かれる警察車の中で同僚から「これで酔いを覚ましなさい」と紙コップのコーヒーを渡されるのだ。
25年にわたった『ダイ・ハード』シリーズ5作品の全シーンを記憶しているわけではないが、絶体絶命の危機をくぐり抜ける中でようやく飲めたのがコーヒー一杯だけだったのなら、本当にご苦労さまでしたと労いたくなる。
印象深い"お約束ギャグ"としてカプチーノも大活躍!
ウィリスは原案を提供したアクションコメディ『ハドソン・ホーク』でも、なかなかコーヒーにありつけない運の悪い主人公を演じている。"ハドソン・ホーク"というのは主人公である泥棒のあだ名で、本名はエディ・ホーキンス。10年の服役を終えてシャバに出てきたエディは、刑務所では飲めなかった大好物のカプチーノが早く飲みたくてたまらない。ところが出所早々にレオナルド・ダ・ヴィンチの秘宝をめぐる大陰謀に巻き込まれ、何度もカプチーノを飲むのを邪魔されるのが作品全体を通じてのお約束ギャグになっているのである。
ちなみにロングコートに中折れハットをかぶったハドソン・ホークのスタイルは、ウィリスが以前から温めてきたもので、ウィリスのミュージシャンとしてのセカンドアルバム(邦題「不死身の英雄」)のジャケット写真でも同じ姿を見ることができる。
ウィリスはブルースハープの名手でもあり、出世作となったテレビドラマ「こちらブルームーン探偵社」でも得意の歌とハープの腕前を披露していた。『ハドソン・ホーク』では相棒役のダニー・アイエロと一緒に、ビング・クロスビーやフランク・シナトラが歌った「Swinging on a Star」やポール・アンカの「Side by Side」といったスタンダードナンバーのデュエットを披露している。しかも盗みの際に歌うことで、2人が時間やタイミングを合わせるという設定も、音楽好きならではのお遊びだといえるだろう。
ほかにも『ハドソン・ホーク』には荒唐無稽なギャグや軽口やおふざけが全編に散りばめられていて、シリアスな空気はまったくない。公開当時にはナンセンスな軽いタッチがあまり理解されず、最低映画を選ぶゴールデンラズベリー賞に選ばれたりもした。実際、ストーリーはないも同然で、撮影現場は日々脚本が書き換えられるカオスな状態だったらしい。
しかし『ダイ・ハード』で一躍トップスターになったウィリスが、本当に好きなものを詰め込んで、思い切り楽しんでいたことは伝わってくる。コメディ、音楽、『インディ・ジョーンズ』ばりの冒険アクション・・・・・・なんならウィリス本人もカプチーノが好きだったのかも知れないという気がしてくる。エンドクレジットでは自作のテーマ曲をニューオーリンズの伝説的ミュージシャン、ドクター・ジョンに歌ってもらっていて、ウィリスもさぞや嬉しかったに違いない。たしかにおふざけが過ぎている部分はあるが、ダメなところも含めて愛嬌と魅力が生まれており、むしろ駄作扱いしている人には異を唱えたい。
病状を考えるとウィリスの復帰はもうありえないかも知れず、ファンとしてはさびしい限りだ。しかし現時点で積み上げた出演作は100本をゆうに超えているし、録音や映像でごきげんな歌や演奏を楽しむこともできる。今はウィリスがゆっくりとコーヒーを楽しめるような毎日を過ごしてくれているといいなと思っている。
N.Y.の五番街の爆破テロを皮切りに、次々と爆破が予告される。犯人は、ジョン・マクレーン刑事(ブルース・ウィリス)が「俺は黒人が大嫌い」と書いた看板を黒人街のハーレムで掲げることを要求する。
発売・販売元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント