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COFFEE BREAK
文化-Culture-
「コーヒー」が鍵を握る、名曲の謎めいた歌詞。
何気ない生活の一場面にインスピレーションを受けて作品に昇華させるのは、小説家だけの専売特許ではない。自ら歌詞を書き、曲をつくる、アーティストと呼ばれる音楽家たちもまた、実生活をイメージソースに作詞を繰り返してきた。ある者は経験した失恋の痛手を言葉で紡ぎ、ある者は大好きなクルマの賛歌を書き下ろした。もちろんコーヒーのある風景が盛り込まれた歌詞をもつ曲も、いつの時代にも見受けられた。コーヒーが生活の一部となって久しい現代人のライフスタイルからすれば当然のことだろう。
音楽が万国共通の言語であるように、コーヒーもまた、世界中の人々がイメージを共有できるモノであり、舞台装置であることをアーティストたちは知っている。その味のみならず、飲むときの心持ちやシチュエーションは誰もが知るところ。結果、聴き手を煙に巻くような謎を秘めた歌詞でさえ、そこにコーヒーを登場させれば一件落着。生活感や現実感を確保するためのバランサーの役割を果たすことになる。
朝食で飲むコーヒーが、少女を大人へ変身させる。
マイケル・ジャクソンのライバルとして世界の音楽シーンに君臨してきたプリンスもまた、その役割をおおいに知るアーティストだ。1987年に発表した9枚目のアルバム『サイン・オブ・ザ・タイムズ』に収録された「スターフィッシュ・アンド・コーヒー」は、ファンの間では隠れた名曲としていまも愛聴される60年代調のちょっとサイケでキュートなポップ・ソングだが、その謎めいた歌詞もまた、音楽シーンでおおいに話題を集めた曲だった。
学校の始業チャイムの音で始まるこの曲は、シンシア・ローズというエキセントリックな少女が主人公の歌だ。クラスでいちばん可愛い服を着ているけど、靴下はいつも色違い。彼女と比べたら、クラスメートはみんな普通の子と思えるほど、実に個性的な女の子。そんなシンシアに朝食に何を食べたのかを聞くと、彼女がこう答える。
「スターフィッシュとコーヒー、
メイプルシロップにジャム、
バタースコッチの雲、みかん、
それにサイドオーダーのハム」
ちなみに「スターフィッシュ」はヒトデのこと。そう、実に奇天烈な朝食だということがおわかりだろう。しかし、そのスターフィッシュという言葉の響きからも想像できるように、とてもチャーミングな曲として耳に入ってくるから不思議なのだ。なぜだろう。
実はこの曲、プリンスのバンド仲間の妹のクラスにいた知的障害をもつ女の子の話にインスパイアされてつくった曲なのだ。プリンス自身、あるインタビューでこのことを聞かれた際、知的障害を「個性的な、あるいは才能のあるという言い方はどうかな?」と答えたほど。決してネガティヴにとらえずに、その女の子を題材に歌詞を書いたことがわかる。そのポジティヴなムードがこの曲には充満しているのだ。
さらに肝になっているのが、コーヒーの存在。通常、女の子の朝食といえば、ミルクやオレンジジュースが一般的だろう。それをあえて大人と同じようにコーヒーを飲む情景を描いたことで、大人然とした彼女の感性と知的水準の高さを一瞬のうちに表現してみせたというわけだ。そこからも、知的障害をもつ女の子への彼の愛情あふれる眼差しが感じられるといったら大袈裟だろうか。
コーヒー占いに重ねた、捨てられ傷ついた恋心。
一方、謎めいた歌詞という点は同じでも、コーヒーにまつわる言い回しが謎に拍車をかける曲もある。カーリー・サイモンの名曲「うつろな愛」(原題は「YOU’RE SO VAIN」)だ。
ビートルズ『リボルバー』のジャケットアートを手がけたことでも知られるクラウス・フォアマンの独特なベースラインで幕を開けるこの曲は、プレイボーイで自惚れ屋の元カレを痛烈に批判した歌。恋多き女性だったカーリーの実体験を匂わせる曲ということで、元カレに関してさまざまな憶測が飛び交ったことでも名を上げた曲だ。72年の発表直前に結婚したジェイムス・テイラーや、録音当時の恋人と噂され、実際この曲のバックコーラスにクレジットなしで参加しているミック・ジャガーなど、大物の名前も挙がるなか、現在もっとも有力とされているのが俳優のウォーレン・ベイティ。まあ、余談ではあるが一応お知らせしておこう。
元カレともども謎を呼んだのが、頻繁に登場する「Clouds In My Coffee」というフレーズだ。直訳すると「私のコーヒーの中の雲」となるわけだが、実際これはアメリカ人にも意味不明な言い回しらしい。それもそのはず、彼女の創作した隠喩で、オフィシャル・サイトによると「見通しがつかないが魅力的な人生と愛のまごつく側面」の隠喩なのだとか。コーヒーカップに残ったコーヒーの模様、つまりコーヒー占いに例えて、捨てられ傷つく女性の恋心を表現したものらしい。
大人びた感性であったり、女性の恋心であったり。歌詞で味わうコーヒーにもまた、奥深いフレイヴァーがある。
ワーナーミュージック・ジャパン
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映画もスマッシュヒットを記録した『パープル・レイン』を筆頭に、傑作アルバムを立て続けにリリースした1980年代のプリンス。なかでも最高傑作とされるのが、87年に発表されたこの2枚組。ほぼすべてを1人で創り上げた、驚異的な不朽の名作。
ワーナーミュージック・ジャパン
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自身初の全米No.1ヒット曲「うつろな愛」を収録する、72年発表の3作目。キャロル・キングやジョニ・ミッチェルらと共に、70年代前半のシンガー・ソングライター・ブームを牽引した彼女が、ポップ・ロック志向を打ち出し成功を収めた代表作。