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COFFEE BREAK
文化-Culture-
コーヒーだって大谷級!?「&」で結ぶ二刀流の魅力。
今年は4年に一度のFIFAワールドカップ開催の年だった。我が日本代表は大会直前の監督交代などもあり、戦前の予想は惨憺たるもの。しかし蓋を開けると誰もが想像もしない躍進を遂げ、見事にベスト16入りを果たしたことは記憶に新しいだろう。筋書きのないドラマこそ、スポーツの醍醐味。まさに、そのことを再認識させられるワールドカップとなった。
そんなサッカー日本代表以上のサプライズを生み出したのが、米メジャーリーグに初挑戦した大谷翔平選手だ。世界最高峰の舞台で活躍する彼の勇姿は、肘のケガで戦列を離れた時期を除き、連日のようにテレビで紹介され、これまで野球に興味がなかった人までもが日々、その一挙手一投足に胸を躍らせた。投手と打者。これまでの常識を打ち破る「二刀流」のハイパフォーマンスは、日本人ばかりでなく、本場アメリカのファンをも虜にした。投手としても一流なら、打者としても一流。まるで映画やマンガの世界でのみ許されるような活躍をその目で見れば、国籍に関係なく、誰だって大谷選手を好きになって当然だろう。
それにしても大谷選手の魅力、どこかコーヒーの魅力に重なりはしないだろうか。コーヒーと言えば、味と香り。そう、コーヒーもまた二刀流の魅力を備えているのだ。それも「&」で結ばれるのは、味と香りだけではない。以前、本誌のコラムで、国語学者の金田一秀穂さんが「実は、コーヒーに伴うさまざまなオプションが好きなのだ。」と書かれていたが、ドーナツやサンドイッチ、はたまたジャズや夕暮れなど、コーヒーと「&」で結ぶことができる事象は人の数だけあると言っても過言ではない。これほどの二刀流は大谷選手をしても遠く及ばないはずだ。
あえてハズした言葉を、&でつなぐ巧みな表現。
思えば、ジム・ジャームッシュ監督は、コーヒーとタバコにまつわる愛すべき11のエピソードを映画『コーヒー&シガレッツ』に収めた。少女マンガ好きなら、朱神宝のシンデレラ・ラヴストーリー『コーヒー&バニラ』を思い浮かべるかもしれない。それほど、世界にはコーヒーと&で結びつく事柄が溢れている。
金髪をなびかせ、ハスキー・ヴォイスで世界中のファンを魅了したスーパースター、ロッド・スチュワートが人気絶頂の1978年に放った大ヒット曲「アイム・セクシー」で結んだのは、「ミルク&コーヒー」だった。
ザ・ローリング・ストーンズが禁断の果実を頬張り、当時流行していたディスコ・ミュージックのリズムを取り入れた「ミス・ユー」をヒットさせたことにヒントを得、自らもディスコ・ビートに挑戦し、ドラマーのカーマイン・アピスらと共作したのが「アイム・セクシー」の出発点。コーヒーの一節は、見ず知らずの女性と一晩を過ごした後の3番の歌詞に登場する。
「小鳥のさえずりに目覚める夜明け
見ず知らずのふたり
でも、もはやそうは思ってはいない
窓の外は冷え、霧も出て雨模様だ
お互い、不満を抱くこともない
彼は言う、ごめん、
ミルクもコーヒーも切らしてる
気にしないで、シュガー
早朝の映画でも観ましょうよ」
グルーピーと思われる女性との出会いからお持ち帰り、そして朝を迎えるというストーリー仕立ての歌詞をもつこの曲は、発表当時、歌詞の卑猥さを揶揄する日本のグラフ誌などもあったが、よくよく聴けば、決して卑猥な内容ではなく、優れた物語性を有していることがわかる。ではなぜ、コーヒーと&で結ぶのがミルクなのか。答えは、相手をシュガーと呼んでいる点にある。英語ではよく使う表現だが、「砂糖」の意味でもあるので、それでミルクとしたわけだ。日常の言い回しを巧みに歌詞に取り込むことに定評のある、ロッドらしい表現と言えるだろう。
隠れた&が示唆する、結びつきを求める気持ち。
その「アイム・セクシー」から21年後、同じ英国でブリット・ポップ・ムーヴメントの代表格として一世を風靡し、〝ビートルズの再来〟と騒がれるほどの反響を巻き起こした4人組バンド、ブラーがリリースした曲は、そのものズバリ、「コーヒー&TV」がタイトル。いつもは作詞を担当するデーモン・アルバーンが息詰まったため、ギターのグレアム・コクソンがボーカルともども作詞を担当した曲で、アルコールを絶って書き、しらふの世界で抱えるトラブルを歌った内容となっている。
というわけで、ブリット・ポップの爽やかなメロディとは裏腹な歌詞は鬱々とした感情を表現しているのだが、当時のイギリス中産階級の若者の晴れることのない思いがどこか透けて見えるようで、聴くほどに胸に迫る。
「コーヒーとTVをくれよ
歴史ならもう十分見てきた
この目はやがて曇り
脳みそは死んだも同然
社交なんて俺には難しすぎる
この腐った世界から連れ出して
それで俺と結婚してよ
もう一度やり直せるさ」
なんとも無力感に支配された泣けるサビ部分の歌詞だが、コーヒーとTVが主人公の日常にどれほど癒しをもたらしてくれたことか。なにより主人公が彼女を切実に求めているのが痛いほど伝わってくる。孤独だからこそ募る、相手を求める気持ち。......その「&」の思いを抱き続ける限り、人は決してひとりではないのだと信じたい。
アルバム『スーパースターはブロンドがお好き』(ワーナー・ミュージック・ジャパン)収録。
1978年に発表した9枚目のソロ作に収録。世界中で大ヒットを記録したベストセラー盤。「アイム・セクシー」は全米1位に4週間輝くヒットを記録。また「あばずれ女のバラード」や表題曲もシングルヒットとなった。プロデューサーは巨匠、トム・ダウド。
アルバム『13』(ワーナー・ミュージック・ジャパン)収録。
1999年に発表し、4作連続で全英1位に輝いた6作目に収録。マドンナなどを手がけたウィリアム・オービットを新たにプロデューサーに迎えて制作した実験性に富んだ野心作。「コーヒー&TV」はセカンド・シングル。ヴィデオ・クリップも話題を集めた。