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COFFEE BREAK
文化-Culture-
コーヒーとスイーツ、苦く甘い人生のように。
あなたはコーヒーを飲むならブラック派? それともミルクに砂糖を軽くスプーン2杯、いやホイップクリームをたっぷりと載せたウインナーコーヒー? 甘党でないと興味がないかも知れませんが、苦いコーヒーに甘い物を組み合わせれば鬼に金棒――というのは決して言いすぎではありますまい。
アメリカのカフェやダイナーでは飲み放題のコーヒーとパイなどのスイーツメニューが付き物。定番のアップルパイ、チョコレートにクリーム、レモンに各種ベリーと多彩で、どれもこれも日本人の舌には猛烈に甘い。しかもアイスクリームを当然のようにトッピングしたりするから、苦いコーヒーと一緒に流し込むしかない。それなのにアメリカらしさを感じたくて、懲りずについ注文してしまうのだから困る。
ハッピーエンドまで、恋人たちの300日。
香港の名監督ウォン・カーウァイがアメリカを舞台に撮り上げた『マイ・ブルーベリー・ナイツ』では、コーヒーと売れ残ったパイが孤独な男女を結びつける。人気シンガーのノラ・ジョーンズ扮するエリザベスは、恋人から捨てられた理由を見つけ出そうと必死な失恋娘。しかしカフェ店主のジェレミーはこう語りかける。
「この店のブルーベリーパイと同じだ。美味しいのに誰も注文しない。理由なんかない。ただ選ばれないだけ......」
そんなパイに親近感が湧いたか、エリザベスは毎晩カフェに現れては、ブルーベリーのパイとコーヒーを注文する。一体どれだけのコーヒーとパイを流し込んだのか。次第にいつも話を聞いてくれるジェレミーの存在が心の慰めになっていくのだが、それでも胸の深くに根を下ろした痛みは癒されない。
ある日突然、エリザベスはあてもなく旅に出る。消えてしまった彼女を案じるジェレミーと、旅の先々から手紙を送り続けるエリザベス。距離はどんどん離れていくのに、ふたりの想いは近づいていく――。
これはスイートなラブストーリーだからして、当然エリザベスはジェレミーと「ニューヨークで一番のパイとコーヒー」が待つカフェへと戻ってくる。しかしふたりがハッピーエンドにたどり着くまでには、なんと300日もの月日が費やされる。旅の途中で出会った人々の人生はコーヒーの苦み。そのおかげでエリザベスは大人の女性へと成長を遂げ、パイのように甘い新しい恋に踏み出すことができるのだ。
苦い人生に差し込む、初めての優しい光。
センスと才気にあふれた愛すべき小品という意味では、映画界きっての変わり者として知られるヴィンセント・ギャロの監督デビュー作『バッファロー’66』もおすすめしたい。バッファローとはニューヨーク州の北部、ナイアガラの滝にも近い地方都市のこと。監督だけでなく主演・脚本・音楽もひとりでこなしたギャロの故郷であり、主人公のビリーがバッファローの町に帰ってきたところから物語が始まる。
ビリーは5年の刑期を勤め上げ刑務所から出所したばかり。両親には「政府の仕事で町を離れていた」と大ウソをついていて、しかも結婚して幸せだなどと見栄を張ってしまった挙句に、夫婦で両親の家を訪ねる約束をしてしまう......。
窮したビリーは偶然通りかかった少女レイラを強引に拉致。「俺の妻の振りをしろ」と脅迫する。「お前はオレの恋女房だ、うまくやったら解放してやるし、親友になってやる」
こんなに滑稽でハタ迷惑な男もなかなかいないが、レイラは不器用すぎるビリーに優しさを見出して、ニセ夫婦の芝居に一生懸命協力してやる。しかしビリーの両親は数年ぶりに再会した息子には関心がなく、食卓に流れる空気は殺伐としている。これでは食後のコーヒーだって美味いわけがない。
オフビートな笑いと、冷え冷えとした孤独感が入れ代わりに押し寄せる『バッファロー’66』だが、最後の最後になってビリーが思いがけない優しさを発揮する。うらぶれたモーテルで、ビリーはレイラに「コーヒーを買ってくる」と言って出かけていく。ただし向かったのはコーヒーショップではなく一軒のストリップ小屋。その店の常連客こそが、ビリーが刑務所に入れられた原因の主で、ビリーは拳銃を片手に暗い復讐心に取り憑かれていたのだ。
詳細は割愛するが、レイラの真心が通じたのか、ビリーは復讐を断念する。そして立ち寄ったコーヒーハウスでレジ横のショーケースに目を留める。置いてあったのはブサイクな形をした手作りクッキー。その珍妙な形がハートをかたどっているのだと店主から聞いて、ビリーはレイラのためにクッキーを買って帰ることにするのだ。
居合わせた客にもクッキーをおごり、「オレの彼女が待ってるんだ」と嬉しそうに威張るビリーは、映画を通じて一度も見せなかったとびきりの笑顔を浮かべている。何もいいことがないと思っていた人生に初めて差し込んだ優しい光。これってコーヒーの苦みがあるからこそ初めて際立つ、パイやクッキーみたいな存在ではないだろうか。
¥1,944(税込)
発売:アスミック・エース
販売:株式会社KADOKAWA/角川書店
歌手のノラ・ジョーンズが映画初主演したラブストーリー。失恋から立ち直るために旅に出たヒロインと、彼女の帰りを待つカフェ店主の姿を綴る。ジュード・ロウら豪華キャストが参加。
『バッファロー'66 Blu-ray』
¥2,700(税込)
発売:ギャガ
販売:TCエンタテインメント
モデル、ミュージシャン、画家など多彩な顔を持つヴィンセント・ギャロの初監督作。刑務所帰りの男ビリーと彼に誘拐された少女レイラの奇妙な恋模様を、個性的な映像とユーモアで描く。
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