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COFFEE BREAK
文化-Culture-
コーヒーと世界遺産 Vol.3
ウィーン美術史美術館
世界遺産の中にあるカフェで至福の時を。
オーストリアの首都ウィーン。歴史的建造物が建ち並ぶ旧市街を含むエリアが「ウィーン歴史地区」として世界遺産に登録されている。その中のひとつ、ウィーン美術史美術館は、かつて神聖ローマ帝国皇帝やオーストリア皇帝を代々歴任し、ヨーロッパに君臨した名門ハプスブルク家の遺産を収めた〝美の宝庫〟として注目される。
展示室に劣らぬ、魅力を放つ美しいカフェ。
この美術館は19世紀後半、数カ所に分散していたハプスブルク家のコレクションを一堂にまとめて展示するために、まったく新たに建てられた建物だ。ヨーロッパの著名な美術館の多くが、かつて宮殿であった建物を利用しているのに比べて、興味深い例といえよう。美術品のためにあつらえられた専用の建物であるだけに、随所にこだわり抜いた内装もみどころとなっている。
「もうひとつの名物が、2階にあるカフェなんです」という大野芳材先生。
「カフェの柱や天井は優美な彫刻、レリーフで彩られ、踊り場の大理石の柱の上には、ウィーンを代表する画家クリムト兄弟の色鮮やかな壁画が施されている。ロケーションのよさも感動的です。フェルメールやブリューゲルの絵画、チェッリーニの黄金の塩入れなど、名品を鑑賞してからこのカフェに立ち寄り、おいしいコーヒーを飲みながら想いを巡らせ、また展示室へと向かう。カフェで過ごす時間が、素晴らしい芸術品に出合った感動をさらに豊かなものにしてくれます」
そう、ここはカフェの都。ウィーンに最初のカフェができたのは17世紀後半。オスマントルコからもたらされた苦い黒いスープに、砂糖やミルクを加えて味わいを広げたウィーンのコーヒーは皇族から市民にまで広く愛され、独自のカフェ文化が育まれていった。
「ウィーンにいると、カフェと同様、音楽を聴いたり美術を楽しむことが日常生活の一部なのだと感じられます」
ハプスブルク家の美の遺産に見守られながら、ゆっくりとコーヒーをいただく。ウィーン美術史美術館のカフェは、ウィーンのお愉しみがぎゅっと凝縮された場所なのだ。
1954年生まれ。東京大学大学院人文科学研究科博士課程中退。パリ第四(ソルボンヌ)大学博士課程留学。専門は西洋美術史。著訳書に『18世紀の美術』(共訳、岩波書店)、『シャルダン』(翻訳、西村書店)ほか。