全日本コーヒー協会

COFFEE BREAK

インタビュー

インタビュー-Interview-

2022.10.28

村雨辰剛(庭師)

日本で出会ったコーヒーの美味しさ、あたたかさ。

10代の時、世界史の授業で出会った日本に興味をもち、以来、年を追うごとに日本愛を募らせて、ついに日本人になった村雨辰剛さん。現在のコーヒーとの親密な関係も、日本での生活の中で始まったのだそうです。

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大好きな日本で、コーヒーの美味しさに開眼。

 「じつはコーヒーの美味しさを知ったのは、日本に来てから。庭師の修業を始めた20代前半の頃です」

 生まれ故郷のスウェーデンには"フィーカ(FIKA)"と呼ばれるコーヒーブレイクの習慣があり、1日のうち10時と15時には仲間とコーヒーを飲みながら甘いものを食べ、語り合う。コーヒー豆の輸入国の中でも、一人当たりのコーヒー消費量が毎年たいていベスト3に入るほど、コーヒーをよく飲むお国柄だ。

 「そんな環境で、コーヒーをものすごく飲む大人たちに囲まれていながら、私自身はなぜかコーヒーにはほとんど興味がありませんでした。友達の多くが10代から飲み始めても、飲みたいと思うこともなく、フィーカの時も紅茶を飲んでいた記憶があります」
 中学生の頃、世界史の授業で日本という国を知って以来、日本の歴史や文化に強い興味を抱くようになった。パソコンで情報を集め、日本語を独学で習得し、16歳の時に初来日。インターネットで知り合った日本人の家に3か月間ホームステイした。すると、ますます日本が好きになって、高校卒業後に再び来日。語学講師の仕事をしながら暮らすようになり、23歳の時に、求人誌で造園業の見習い募集の情報を見つけた。

 「最初は造園業が何をする仕事なのか知らなかったのですが、日本庭園を造る仕事だとわかって、飛び込んでみました。もともと私は日本の伝統や豊かな文化に惹かれていて、いわゆる徒弟制度にも魅力を感じていました。庭師の仕事は、自然と対話しながら、四季を感じながら行うもの。そしてそこには、うつろいゆくもの、経年変化や経年美化をとても大事にする和の文化の魅力が詰まっている。そういうことを毎日の仕事を通して肌で感じて、どんどんのめり込んでいきました。そして、ああ、この仕事を一生やっていきたい、と思うようになったのです」

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 翌年、弟子をとる庭師の親方のもとに正式に就職。こうして、庭師の修業とともに始まったのが、コーヒーとの付き合いだった。
 「朝はたいてい8時に現場へ行くのですが、その30分くらい前にまず事務所に出勤します。すると、親方がいつも私の分も缶コーヒーを買ってきてくれて、はい、と手渡してくれるんです。15分〜20分くらい、2人で缶コーヒーを飲みながらちょっと会話をして、それから現場へ行くというのが毎日の流れ。その時間が好きで、コーヒーのことも、ああ、こんなに美味しい飲み物だったんだと初めて感じました。それが、コーヒーを大好きになるきっかけになったのです。

 親方が買ってくるのはいつも微糖タイプのコーヒー。缶の「あけ口」をカチャッと、音を立てて開ける行為も気に入っていました。親方の指導は厳しくて、現場では肉体的に辛いこともありましたが、毎朝の缶コーヒータイムはほっこりして、本当に楽しかった。日本に来たばかりの頃は、とにかく自動販売機の多さに驚いたものですが、親方と缶コーヒーを飲むようになって改めて気づいたのが、売られている缶コーヒーの数の多さや種類の多さでした。自動販売機だけでなく、コンビニに行っても、棚に缶コーヒーが何個もダーッと並んでいる。それだけ多くの人がコーヒーが好きで、飲まれているんだなと感動したものです」

 庭師の仕事を通して日本への愛はさらに深まり、ついには日本人になりたい、という思いがどんどん強くなっていった。そして、26歳の時に念願であった帰化が許可されて、日本国籍を取得。村雨辰剛と改名した。その名前は庭師の親方の家族がつけてくれたものだ。

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1日のスタート、そしてトレーニングの前にもコーヒーを。

 ここ数年は造園業をベースに俳優やモデルとしても活躍。多忙な日々を送っている。朝、ゆっくりできる時には自分でペーパーフィルターを使い、コーヒーを淹れる。
「時間がたっぷりある時は、午前中に2杯は飲みますね。いつもブラックで。豆は挽いた状態のものを買ってきます。どちらかというと酸味はちょっと控えめで、苦味を感じる濃い味の豆が好きです。午後の予定などを確認したりしながら、じっくりと味わいます。

 ドラマの台本に目を通しながら飲むこともありました。でも、朝イチで撮影などの現場に行かなければいけないような、時間がない時には、駅の自動販売機やコンビニで缶コーヒーを買っていくことが多いです。最近はコンビニでも1杯ずつ淹れた美味しいコーヒーを買うことができますが、やっぱり私は外に出ると缶コーヒーを選んでしまう。修業時代の習慣が抜けないのか、親方の影響が未だに強いんですね(笑)」

 庭師として独立して1年余り。俳優業は始めたばかりだが、造園業との共通性を感じるところもあるという。
「庭師の仕事は自然を観察して自分の感性を磨いていくようなものです。そして、俳優の仕事も周りの人の表情や動きをよく観察して、それを自分の中に取り込んで表現するものだと思います。だから、そのプロセスは同じなのかなと。よく観察するということが大切なのだと思います。俳優はまだちょっとしか経験していませんが、すごく奥が深い仕事だと感じています」

 かつて体操の番組に出演した際には、その鍛え上げた筋肉が注目を集めたことも。10代の頃から筋力トレーニングを続けて約20年。コーヒー歴はその約半分だが、トレーニングの前にコーヒーを1杯、ということもある。

 「ワークアウトの前にコーヒーを飲むと、すごく集中できて、トレーニングの効率が上がる効果があると感じています。だから、缶コーヒーを飲んでトレーニング開始、ということもけっこうあります。ただ、これはトレーニングの時間に限らず、一時期、あまりにもコーヒーが好きになりすぎて、夜に飲むとなかなか眠れなくなったことがあったんです。それで、今は夜に飲むのは控えめにして、その分、朝のコーヒーをとても楽しみにしています」

文・牧野容子 / 写真・平岩享/ヘアメイク・深山健太郎

更新日:2022/10/31
PROFILE
村雨辰剛(むらさめ・たつまさ)
スウェーデン生まれ。幼い頃から英語が得意で外国に興味を持つ。 スウェーデンとなるべく違う環境と文化の中で生活してみたいという気持ちがあり、世界史の授業がきっかけで日本に興味を持ち、日本語を勉強し始める。高校を卒業すると、語学能力を活かし日本で語学(スウェーデン語や英語)の教師として働き始め、同時に外国人事務所にスカウトされて、CM、PR、通訳や翻訳の仕事をこなす。23歳で庭師に転身。26歳で日本国籍を取得。NHK「みんなで筋肉体操」への出演やNHK連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」(2021年〜)での演技で話題に。著書に『僕は庭師になった』(クラーケン)『村雨辰剛と申します。』(新潮社)。趣味は筋トレ、肉体改造、盆栽。