COFFEE BREAK

インタビュー

インタビュー-Interview-

2017.08.10

土井善晴【料理研究家】

土井善晴【料理研究家】

仕事と私とコーヒーと。 Vol.10
土井善晴【料理研究家】

「きょうの料理」を始め、数々の料理番組でお茶の間におなじみの土井善晴さん。高校時代からコーヒーとさまざまに関わってきた思い出を語っていただきました。

「コーヒーってね、私にとってはいろいろと思い出のある飲み物なんです」  生まれ育った大阪で、土井善晴さんが高校時代に通った喫茶店があった。 「アメリカ製のマッキントッシュのステレオセットがあって、流れてくるのはモダンジャズ。そこで豊かな音に包まれて、ちょっと濃いめのコーヒーを飲む時間がとても楽しみでした。 

 当時から、料理の道に進みたい、フランスに行きたい、と思っていて、芦屋在住のレバノン人の女性にフランス語を習っていました。お宅に行くと、濃いコーヒーをいれてくださって、飲み終わるとカップをひっくり返して底に残った粉の形で占いをしてくれたのを覚えています。当時はよく知りませんでしたが、あれはトルコの伝統的なコーヒー占いだったんですね」

コーヒーが活力源だった、フランスでの修業時代。

Illustration by takayuki ryujin

 土井さんは大学卒業後にフランスへと渡り、ヌーベル・キュイジーヌの旗手として注目を集めるポール・ボキューズ氏の店を始め、数軒を渡り歩き、一流の料理人のもとで本格的に料理修業に打ち込んだ。 「フランスにいた頃は朝ご飯を食べることがほとんどなかったのですが、一杯のコーヒーだけは必ず飲んでいました。朝早く店に行って、まず自分でコーヒーマシンのスイッチを入れて、その日の最初の一杯を飲む。すると、心や体がシャキッと目覚めてくるのです。昼休みの終わりにもコーヒーを飲んで、さぁ仕事だ、と再び切り替える。そんなふうに、フランスのコーヒーはいつも私を元気にしてくれる飲み物でした。旨味が非常に濃いという印象でしたね。

 日本に帰ってきて料亭で修業をしていた時も、ご主人について市場へ行くと、ある仲卸業者さんのところでは、必ずコーヒーをいただきました。私たちが行くと、いつも喫茶店からコーヒーとトーストをとってくれるのです。あのコーヒーも仕事の活力でした。こうして考えてみると、コーヒーには楽しみやら仕事のエネルギーやら、人生の各場面でさまざまな効果をいただいているなあと改めて感じますね」

 仕事がら、器への思いも深い土井さん。家でコーヒーを飲む時は、カップも季節やその日の気分に合わせて使い分けている。 「お気に入りのカップはふたつ。ひとつは、両親が使っていたもので、先代須田菁華(作)の色絵のカップ&ソーサー。やきものがわかる方が気づいてくださると、嬉しいものです。自分一人のコーヒーは、常滑の鯉江良二さんの白磁のマグカップ。カップに対して持ち手が太くて大きくて、姿がかわいらしいもの。これで飲むとリラックスして、まるで、子犬と一緒に散歩に出かけているような気分になれるのです。

 お料理や飲み物をいただく時に、器を選ぶというのはとても大事なことだと思います。いい器を使うと、お茶一杯でも美味しそうに感じられるものです。高級なものがいいというのではなく、自分に合ったもの、気に入ったものが一番。使い続けていれば愛着もわいてきます。日々の暮らしの中で、自分のお気に入りの器に好きなコーヒーをいれていただく。たとえ数分間でも、それでとても豊かな時間を過ごすことができるものですよ」

文・牧野容子 / 写真・大河内禎
更新日:2017/08/10
PROFILE
土井善晴(どい・よしはる) 1957年、家庭料理の第一人者として知られる故・土井勝の次男として大阪に生まれる。スイス、フランスでフランス料理を学び、帰国後、大阪「味吉兆」で日本料理を修業。92年に「おいしいもの研究所」を設立。日本の家庭料理を初期化し、命を作る仕事である家庭料理の本質を伝える。作る人と食べる人、皆が幸せになれる家庭料理のあり方を丹念に検証した最新の著書『一汁一菜でよいという提案』が大好評を博している。 協力/L.C.d.B/エル・セー・ド・ベー(TEL.03-6873-7602)
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