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COFFEE BREAK
インタビュー-Interview-
宮下純一【スポーツキャスター/北京オリンピック競泳メダリスト】
朝のカフェオレで、1日がスタート。
宮下純一【スポーツキャスター/北京オリンピック競泳メダリスト】
情報番組でも活躍中の宮下純一さんは競泳のオリンピックメダリスト。心がほっと温まるカフェオレとご家族のお話を伺いました。
コーヒーはブラックで飲むのが基本の僕ですが、朝の最初の一杯だけはカフェオレと決めています。まろやかなほろ苦さが身体に沁みていくほどに、じんわりとエンジンがかかっていくような感覚が好きで、高校時代からずっと続けているスタイルなんです。
両親が大のコーヒー好きで、実家の朝のリビングはいつもコーヒーの香りでいっぱい。僕もコーヒーと同量の牛乳を入れて飲むようになりました。特に寒い冬の朝は、温めた牛乳をたっぷり注いだコーヒーで身体をぽかぽかにして、水泳の朝練習へと飛び出して行っていたことを思い出します。
いま、自分で作るカフェオレのミルクは昔よりぐんと少なめ。しかし実家に帰ると、母が僕に作るのは昔と同じ、コーヒーと牛乳が同量のカフェオレです。母にとっての僕は、高校生のときのまま成長していないのかもしれません(笑)。でも、ちょっと牛乳多めだよ、と思いながらも、昔と景色の変わらないリビングで飲んでいるうちに、気分もほっと和んできたりするものです。
帰省の楽しみのひとつは、父とのゴルフ。父の昔からの夢が〝大人になった息子と酒を飲むこととゴルフをすること〟なので、親孝行も兼ねて、です。ゴルフのお供はたいてい、母の手作りサンドイッチとコーヒー、ですね。
北京五輪の半年前、運命を変えた母のひと言。
僕にとって2008年は一生忘れられない年です。8月に開催された北京五輪の競泳男子100m背泳ぎ準決勝で、53秒69という当時のアジア・日本新記録を出し、決勝で8位に入賞。日本チームの第一泳者として参加した400mメドレーリレーでは銅メダルを獲得することができました。しかし、じつはその半年前まではどん底の状態。現役続行を決めたものの、3年間一度も自己ベストを更新することができず、その不安や嘆きを周りの誰にも打ち明けることができない日々が続いていたのです。親にも心配をかけたくなくて〝タイムも伸びている〟と嘘をついていました。しかしついに耐えられなくなり、ある日、母に電話をした僕は、「水泳を続けると言っていなかったら、いま頃は地元に帰って結婚でもして、普通の生活ができていたかもしれないね」と思わず弱音が出てしまいました。
やや間が空いて、母がひとこと。 「あなた、いま、楽しい?」 何もかも見透かされているような言葉に僕は愕然とし、涙と言葉が一気に溢れてきました。 「もうあと半年しかないのに、記録も伸びないし。やめておけばよかった」 と言ってしまったのですが、母は、 「あと半年、水泳ができるのよ。昔みたいに自分の好きなことを楽しんでやりなさい。あなた、高校のときは学校から帰ると鞄を放り投げて水泳教室に行っていたじゃないの。その気持ちを思い出しなさい」と言うのです。
〝あと半年しかない〟と〝あと半年ある〟。考え方、捉え方の違いですが、それ以来、強迫観念に縛られていた僕の心は嘘のようにするすると解けて楽になったのです。2カ月後の日本選手権(五輪選考会)では、それまでにない感覚で泳ぐことができ、3年ぶりにベストタイムを更新。北京の代表権をつかむことができました。五輪の後、メダルを持って実家に帰り、〝あのひと言のおかげで......〟と話すと、母は〝あら、そんなこと言ったっけ?〟と不思議な顔をしていましたが(笑)。