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COFFEE BREAK
インタビュー-Interview-
春風亭昇太【落語家】
師匠に誘われた喫茶店で、飲んだコーヒーの味。
春風亭昇太【落語家】
喫茶店で打ち合わせをするとき、頼むのはたいていコーヒー。温かいコーヒーって、人と話をするときになんとなくペースが合うような気がします。間が持てるというのかな。よく飲むのはエスプレッソで、まず何も入れずにちょぼちょぼ飲んで、量が半分くらいになったらお砂糖を入れて甘くして飲む。自分で味を調整できるのが好きなんです(笑)。
噺家になったばかりの頃はお金がなくて、喫茶店でコーヒーを飲むのなら立ち食いそばを食べたほうがいいと思っていました。その頃のことで、ちょっとした思い出があります。ある日、うちの師匠(故・春風亭柳昇)と一緒に新宿を歩いていたとき、師匠が突然「コーヒー飲みに行こう」と言い出したんです。僕の心臓は一気にドキドキし始めました。だってコーヒーを飲むということは、テーブルで師匠と向かい合うということ。弟子入りをお願いするときは対面して話をしましたが、その後は稽古をつけてもらうとき以外はずっと師匠の横に並ぶか、数歩後ろにいることしかなかったのです。対面したら師匠の顔を見ないといけない。でも目は合わせ辛いし、何を話したらいいのかもわからない。だから最初、僕は「店の表で待っています」と言いました。でも、師匠が「嫌いじゃないのなら一緒に飲もう」と言うので、店に入ったのです。
そこからコーヒーが出てくるまでの時間はものすごく長く感じられました。頼むから早く出てきてくれと、何度心の中で神様にお願いしたことか......。やっとコーヒーがくると、とにかく師匠の真似をしました。師匠がお砂糖を入れるのなら僕も入れる。入れないのなら入れない。すると師匠はざくざくお砂糖を入れて、ガーッと三口くらいで飲み切りました。ものすごくせっかちな人なんです。僕がお砂糖を入れてかき混ぜながら師匠のカップを見ると、もうコーヒーが入ってない。まずい、急がなきゃと思って熱いのを一気に飲み干すと、師匠は「じゃあ、出ようか」って......ぜんぜんくつろいでない(笑)。コーヒーの味も覚えていません。でもね、正直助かりました。たぶん、僕がすごく緊張していたから師匠も居心地が悪かったのだと思います。
それから数年経って、僕が真打ちになってから、また師匠とコーヒーを飲む機会があったんです。そのときは、「最近どうだ?」「それが、こうなんですよ」みたいな会話をしながらのんびりコーヒーを飲みました。ああ、ようやくコーヒーを飲みながら師匠と普通に話ができるようになったんだなあと、妙に感慨深かったのを覚えています。
大好きな昭和の空気に、包まれたレトロ空間。
僕の家にはダイヤル式のブラウン管テレビをはじめ、主に昭和30~40年代の車やバイク、おもちゃなどがたくさんあります。たぶん自分が子供の頃、とても幸せで、その時代のものに囲まれているのが心地いいのだと思います。昔の映画のスチール写真も飾っています。いちばん好きな『拝啓 天皇陛下様』という映画です。主演は渥美清さんで、戦前から戦後にかけての二人の男の何気ない日々を描いているのですが、とても心にしみる作品です。
小さい頃は近所に映画館がいくつもあって、よく親に連れていってもらいました。その影響なのか、大人になっても住んでいるのは映画館がある街。今も、我が家から映画館までは散歩で行ける距離です。喫茶店も、こじゃれたカフェというよりは、昭和を思わせるレトロな雰囲気のほうが落ち着く。壁に昔の映画のポスターなんかが飾られていたら、もう最高ですね。