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インタビュー-Interview-
朝岡聡【フリー アナウンサー/コンサート・ソムリエ】
イタリアのオペラハウスと、バールの素敵な関係。
朝岡聡【フリー アナウンサー/コンサート・ソムリエ】
オペラ好き、イタリア好きを自認する僕にとって、イタリアのバールは特別な場所です。日本のカフェや喫茶店というと、仕事や待ち合わせなどで利用するイメージが強いと思うのですが、イタリアのバールはもっと日常生活に密接に結びついていて、まるでもうひとつの自宅のように利用している人が多いのです。僕自身、イタリアに行ったらホテルや歌劇場の近くにあらかじめよさそうな店を見つけておき、そこを拠点に動くようにしています。実際、オペラを観るときは劇場近くのバールがなかなか重宝するんですよ。
まず開演の1時間くらい前にはバールへ行き、エスプレッソやワインでも飲みながらその日のオペラのストーリーをもう一回思い出したり、おしゃれなネクタイをした紳士や素敵なドレスを着たご婦人を見て、ああ、あの人たちもオペラに行くんだなあと思ったりしながら、徐々に気分を高めていく。幕間も劇場内のバーコーナーではなく外のバールへ。そこで隣り合わせた人と「今日の歌手、調子はどうですかね?」なんて話をしてみたり。そして終演後にもまたバール。今度はゆっくりと腰を落ち着けて、食事をしながら舞台の余韻に浸ったり......という具合に、とても使い勝手がいいのです。
早口のイタリア語はとても聞きとれませんが、そこに集う人たちの様子を観察するだけでも楽しいものです。オペラの演目や歌手について熱い意見を戦わせている人たちもいれば、その傍らで濃厚に愛を確かめ合っている恋人たちもいたりして......(笑)、まさに劇場の周りにもうひとつ劇場があるようなもの。夜が更けていくなか、僕はその片隅でリキュールを入れたエスプレッソを飲みながら、ドラマの展開を見守っている。そんな時間が好きですね。
エスプレッソにグラッパ、大人の冬の定番。
日本のカフェでエスプレッソといえば小さいカップで出てくるシングルですが、僕がイタリアで頼むのはたいていダブル。苦みと甘みと酸味が三位一体となって、えもいわれぬ濃厚な味わい。それがいいんですよね。イタリア人は大量のお砂糖を入れて飲みますが、僕はリキュールかグラッパ(イタリアの蒸留酒)を入れるのが好きです。
ヴェネチアに行くと、バーカロと呼ばれる立ち飲み居酒屋が朝から開いていて、地元のお父さんたちが朝からワインを飲んだりしています。冬の寒い朝、僕はそこでエスプレッソにグラッパを入れてぐいっとやる。そうすると、身体の中からふわーっと温かくなって、活力がわいてきてとても心地いいんですよ。この飲み方、冬におすすめです(笑)。
歌劇場の周りにはたいていオペラゆかりのカフェやバールが1、2軒あるものです。ミラノ、スカラ座のそばにはその名も「ヴェルディ」という店があります。ミラノは作曲家ヴェルディが活躍した街。カフェ「ヴェルディ」にはカウンターにヴェルディの胸像があり、壁にはパバロッティ、ドミンゴなど往年の名オペラ歌手の古い写真やブロマイドなどがたくさん飾られています。
また、アドリア海に面した小さな港町ペーザロは作曲家ロッシーニの生誕地で、ロッシーニアン(ロッシーニを愛する人々)の聖地。僕もそのひとりで、毎年8月に開催されるロッシーニ・オペラ・フェスティバルに通っています。ロッシーニ劇場は小さなオペラハウスですが、その前の広場にバールがあり、籐の椅子とテーブルが並んでいます。そこでコーヒーを飲みながら、友達にオペラの感想を絵葉書にしたためたりするんですよ。