- TOP
- COFFEE BREAK
- 世界のコーヒー
- 国際都市パリならではのハイブリッドコーヒー フランス:イブリック・コーヒー
- 国際都市パリならで…
COFFEE BREAK
世界のコーヒー-World-
国際都市パリならではのハイブリッドコーヒー フランス:イブリック・コーヒー
美食の国フランス・パリも然り。数百年の歴史を持つカフェ文化が、ここ10年で大きな進化を遂げています。北欧やオセアニア諸国から到来したコーヒーショップの洗礼を受け、新しい味わいやスタイルを知ったパリジャンたちが、「この街だからこそ」のビジネスモデルを続々と生み出しているのです。今回は国際都市パリらしい、ユニークなハイブリッド業態をご紹介。
国際都市パリならではの、ハイブリッドコーヒー。
Vol.96 フランス:イブリック・コーヒー(IBRIK Coffee) www.ibrik.fr/ibrik-coffee 伝統的なカフェと大手チェーン店、ここ10年で急増したコーヒーショップ。おおよそ3つに大別できるパリの外食コーヒー市場で異彩を放つのが「イブリック・コーヒー」である。気鋭の焙煎士が手がけた単一品種豆を、オリエント風の煮出し抽出式で飲ませるという、国際都市パリならではのハイブリッド業態だ。
ところは進取の気性に富んだ個人経営店の多いパリ9区。入り口側にはざっくりした焼き菓子のウィンドウ、その向かいにアンティーク家具が並ぶ店内は、コージーなサロンの趣がある。
「私にコーヒーの喜びを教えてくれた、祖母の居間をモデルにしています」
そう語るのはオーナーのエカテリーナ・ポワルソンさん、独裁政権時代のルーマニアに生まれ、家族でパリに政治亡命した生い立ちを持つ。文化娯楽が制限され生活物資も不足する灰色の幼年期を彩ったのは、祖母の家で開かれるコーヒーの時間だった。
「家族や友人とおしゃべりしながら、儀式のような動作で、丁寧に1杯1杯淹れていく。お菓子やコーヒーを分かち合い、ゆったり流れる団欒の時間が大好きでした」
ルーマニアのコーヒーはトルコやギリシャと同じく、専用の小鍋に粉と水を混ぜ合わせ煮立てるもの。税務士だったポワルソンさんが自営業への転身を考えた際、まず思い浮かんだのが母国でのコーヒータイムだった。あの団欒の時間を提供する場所を、パリにも作れたらーーそんな願いから、店名の「イブリック」はかの小鍋から取った。
抽出に必要なのはこのイブリックと、熱した砂の中に小鍋を置いてじわじわと煮立てる専用の加熱器。道具はすべて現地から調達した。独特なのは豆のチョイスで、これだけは伝統の深煎り豆ではなく、ポワルソンさん自身が愛飲する中煎り豆を使用している。
「パリの"クチューム"とブカレストの"ボブ・マン・ドッグ"から、味のバランスの良い単一品種豆を仕入れています。ブルンジやエチオピア、ケニア、コロンビア。ラオスの豆もいいですね」
エスプレッソのように圧をかけず、小鍋の中で粉をふっくら膨らませるこの抽出方法には、フローラルな風味のコーヒーが合う。添えものは昔ながらの組み合わせで、干し棗とルクム(求肥のような澱粉ベースの半生菓子)。素朴な甘さが、マイルドなコーヒーとともにほっと心を和ませてくれる。
小鍋のまま提供するイブリックは、テイクアウト不可能。抽出にも10分かかるとファストな時代に逆行するスタイルだが、ポワルソンさんはそれをこそ大切と考えている。
「あるジャーナリストに『パリで一番待ち時間の長いカフェ』と書かれたのですが、褒め言葉だと思っています。それこそ私が祖母に教わった、そのままのあり方だから」
他にない味わいとノスタルジックな居心地を求め、続々と常連を増やしている「イブリック・コーヒー」。昨年には同じエスプリで食事を提供する「イブリック・キッチン」をオープンし、こちらも人気を博している。
イブリック・コーヒー(IBRIK Coffee) www.ibrik.fr/ibrik-coffee 43 rue laffitte Paris 9 TEL: +33173718460 営業時間 月〜金 8:30〜16:30(ランチサービス12:00〜14:30) 土 11:30〜17:30(ランチサービス12:00〜15:00)
日休