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Vol.19 ロンドン:「ペーパー&カップ」(Paper & Cup)
イギリスでもここ数年、ロンドンをはじめ地方都市でも雨後の筍の勢いでカフェが次々とオープンしています。味で勝負にでるカフェ、最新のインテリアデザインで若者を呼び込むカフェ、食事を充実させたカフェなど、集客方法はさまざまです。そんなイギリスのカフェ業界において、ちょっとユニークな形態が話題となっています。それは、カフェと社会貢献を組み合わせ、ソーシャル・ビジネスのシステムで運営する"エシカル(社会貢献をする)・カフェ"。Vol.19では、アルコール依存症患者・失業者などの更生活動にひと役買っている「ペーパー&カップ」をご紹介します。
社会復帰を願う患者を支援する、"エシカル・カフェ"。
Vol.19 イギリス:「ペーパー&カップ」(Paper & Cup) www.paperandcup.co.ukイギリスにおける"エシカル・カフェ"の旗手といえるのは、ロンドン東部のトレンディ地区ショーディッチにあるカフェ「ペーパー&カップ」。50年前からこの地区で、アルコールや薬物依存患者、長期失業者を救済している非営利団体ショーディッチ・クリプト財団が、2年前に開業した。目的はカフェでの更生活動を通じ、ゆくゆくは、患者や失業者に一般社会で定職に就いてもらうことである。
リハビリ活動は、まずレジの担当から始まる。金銭を預かることで、責任感を持ってもらうためだ。次に、パリスタ・トレーニングに移る。コーヒー豆を挽き、コーヒーの基本であるエスプレッソ作りを財団スタッフから学ぶ。自信がつくと、ラテ・アートにも挑戦する。だが、皆がリハビリ過程のなかでなによりも楽しみにしているのは、客とのやりとりだという。接客を通じ、一度は自ら背を向けた社会とのつながりを見出し、社会復帰を願うからだ。常連客のコーヒーの好みを把握しサービス向上を図ったり、ジョークを飛ばしたり、カフェのなかは和気あいあい。カフェでのリハビリトレーニングは一年で、すでに何人もがここから巣立ち、外食産業の場で職を得ている。
カフェでバリスタ指導をするアナさんとワーレさんによると、連日立ち作業が多いため、このような仕事に慣れていない患者のなかには、リハビリ途中で挫折する人も出てくるそうだ。だが、数週間の休養後、カフェに復帰し、再挑戦する患者がほとんどだと話す。「更生活動に参加したいというモチベーションがあること自体がすでに社会復帰への第一歩だから」とワーレさんは笑顔を見せる。
「ゆりかごから墓場まで」のスローガンで知られ、福祉充実を誇る英国。心に多少なりのゆとりがある国から生まれたカフェ運営のあり方は参考になるだろう。だが、あえてこのような方針はカフェでは前面に打ち出さない。知る人ぞ知るでよい、という控えめな姿勢に、成熟社会ならではの懐の深さを見せてもらった。