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COFFEE BREAK
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ネットを介して新たなコーヒー体験を フランス・ルーアンから
Vol.129 ネットを介して、新たなコーヒー体験を。
フランス・ルーアンから
西部フランスの都市ルーアンの中心部、カフェやレストランが立ち並ぶ商業地区の好立地で営業する「レ・トレファクトゥール・ノルマン」。週末は目の前の広場で古物市が開催され、掘り出し物を抱えて立ち寄る客も多い。
新型コロナウィルスの流行により、昨年3月から合計3回の厳しいロックダウンを経てきたフランス。外出制限令の間、外食産業に許された営業はテイクアウトと通販のみで、イートインは昨年11月から今年の5月19日まで、半年近く禁止が続いた。
そんな中、新たなビジネスモデルを開拓した人々もいる。焙煎カフェ「レ・トレファクトゥール・ノルマン」を営むグレゴワール・ムーリスさんもその一人だ。コロナ禍前の2019年に13トンだった年間焙煎量は、2020年には32トンと急増、2021年は70トンを超える見込みで順調に伸び続けている。
疫病下での成長を支えたのは、ネット通販だ。
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[左]店主のグレゴワール・ムーリスさん。消防士として10年働いたのち、念願の飲食業に転職した。[右]ムーリスさんとスタッフ。男女半々、半分は家族関係でない人材と意識的に決めて採用している。
第1回ロックダウンが告知された2020年3月14日のことを、ムーリスさんは鮮明に記憶している。コーヒー販売は「営業可能の必要最低限の業種」に入っていたが、人が街を歩かない状況で、どうやっていけばいいだろう?ロックダウンが開始する17日までの3日間をまるまる、ムーリスさんは対策を考えることに使った。まずは大口の企業客に連絡をし、豆の仕入れ状況を確かめた。
その間、個人客の方に意外な動きがあった。ネット通販が急激に増えたのだ。
「ロックダウンの発表から1週間で、ネット通販の売り上げが4倍になりました。家から出られなくなっても、人々は良質のコーヒーを求めている。それを知って、うちはネット通販で乗り切ろうと決めたんです」
自分以外の従業員は半日勤務に短縮し、人の少ない時間に通勤してもらう工夫をした。注文から納品までの時間を短くするため、配達はムーリスさん自身が午後に車を駆った。
「ネット通販の大多数は、店から10〜15キロ圏内の注文でした。なら自分たちで配達したほうがいい。店主自身が配達に来ると思わず、お客さんにはいいサプライズになったようです。嬉しいコメントや感謝の言葉をたくさんもらいました」
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[左]通販サイトの「コフレ(詰め合わせ)」販売ページ。本文で紹介した10種ほか、有機栽培のみ7種のセットも。[右]ソファが配置され、ゆったりくつろげる居心地の良いイートインスペース。
およそ2カ月続いた第1回ロックダウン中、ネット販売では特徴的な動きがあった。「世界の10種類のコーヒー豆コフレ(詰め合わせ)」がベストセラーになったのだ。
「うちは、オリジンにつき一つの生産者の豆のみを扱うスタイル。そのオリジンごとに異なる味わいを体験してもらえるよう、コスパの良い豆を10種類組み合わせ、各250g入りで48ユーロ(約6384円)のセットにしたんです。それを飲み比べて、気に入った豆を2kg単位でリピートするお客さんが増えました」
もともとこのコフレは、『手頃な価格帯だけれどしっかり楽しめる、マイナーなオリジンを知って欲しい』という、ムーリスさんの信条から作った。行動が制限され、自宅でコーヒーを淹れる時間が大切な気晴らしとなった人々にとって、それがハマったのだ。
ネット販売でも、お客さんにコーヒーの発見を届けられるーーそう確信したムーリスさんは2020年8月、焙煎量を倍増するため投資を決める。15キロサイズのガス焙煎機を2台追加し、店外に焙煎アトリエ拡大用の倉庫スペースを契約した。同年10月には、注文の段取りをより簡素かつ快適にした、新しい通販サイトを立ち上げた。
顧客の動きを見てネット販路を強化し、コロナ禍に柔軟に対応したムーリスさん。
「フランスのコーヒー業界にはそうして、ピンチをチャンスに変えた同僚が多くいます」と語る。
営業制限を前向きに乗り切ったコーヒービジネスは、お客にさらなる美味しさを、同業者に力強い励ましを、届け続けることだろう。いつかコロナ禍が収束した、そのあとも。
レ・トレファクトゥール・ノルマン LES TORREFACTEURS NORMANDS 21 Place Saint Marc 76000 Rouen lestorrefacteurs.cafe