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COFFEE BREAK
世界のコーヒー-World-
2012.02.28
コーヒーがはぐくんだ都市、サンパウロのカフェへ。
古くからコーヒー生産国として世界をリードしてきたブラジルは、近年、経済大国として飛躍著しい。そんなブラジルの大都市サンパウロで老若男女に愛されているカフェや、かつては同国のコーヒー取引所だった、サントスのコーヒー博物館を紹介しよう。
サンパウロで人気のあるカフェでコーヒーといえば、エスプレッソと相場は決まっている。しかし、果たしてエスプレッソだけが美味しい飲み方か?と疑問を投じるのは、2009年にオープンした「コーヒー・ラブ(コーヒー研究所)」だ。
〝研究所〟の名のとおり、同店は飲食業を営むだけでなく、生豆の焙煎から他の飲食店のためのオリジナルブレンドの製作、試飲会、バリスタ養成までコーヒーにまつわるあれこれに情熱を注ぐ。ローストの異なるコーヒーをエスプレッソだけでなく、ドリップやエアロプレスなどでいれるので、「たかがコーヒー」なぞとは決していえない探究心を引き出してくれる。
カフェでの安らぎのひと時を大切にしている熟年のソッターノ夫妻は、その日初めてコーヒー・ラブを訪れ、ドリップコーヒーの美味しさを再発見した。「他の店にはない味わいだね。気に入った!」と夫のエドゥアルドさんはおかわりを注文した。
「ドリップコーヒーは家庭的で平凡だから、多くの人は見向きもしないのでしょう」とオーナー兼バリスタのイザベラ・ラポゼイラスさんは見ている。確かに家庭ではドリップが圧倒的。エスプレッソには、その濃い味わいに加えて、カフェで少し贅沢をしているという満足感があるのかもしれない。
「でも豆と焙煎、そしていれ方にこだわれば、ドリップにしか出せない美味しさが楽しめるの。お客様には先入観抜きに味わっていただき、好みの飲み方を見つけてほしい」と続けた。
さて、コーヒーとサンパウロを結ぶ歴史を振り返ってみよう。19世紀半ば、アメリカでのコーヒーの消費拡大を受けて、コーヒーはブラジル第一の輸出品となり、ブラジルは世界最大のコーヒー生産国となった。当初コーヒー栽培はリオ・デ・ジャネイロ州で行われたが、より栽培に適した土地を求めた結果、1870年以降、生産の中心はサンパウロ州西部へと移った。
コーヒー産業は拡大の一途をたどり、労働力不足が生じてくると、ヨーロッパや日本からの移民が求められるようになる。産地からコーヒーを輸送するために積出港のあるサントスまで鉄道などのインフラが敷かれると、サンパウロは移民受け入れとコーヒー取引の中継地として栄え、それが基礎となって産業の発展を迎えたのである。いわば、コーヒーこそがサンパウロを南米最大の都市へとはぐくんだのだ。
高級住宅街ジャルジンスに本店を構える「スプリシー」は、19世紀末からこの街でコーヒー取引の仲介業を営んできたスプリシー一家の末裔が、2003年に開いたカフェだ。
ブラジルコーヒーの繁栄の歴史に関わりながら、その重みを感じさせないコンテンポラリーな雰囲気が人気で、店内ではトレンドに敏感そうな若者たちが一杯のコーヒーをお伴にノートパソコンに没頭する姿が見受けられる。
若き社会起業家のパブロ・リベイロさんは、打ち合わせに好んでカフェを利用する。なかでもスプリシーは好みの店だ。美味しいコーヒーを口にしながらリラックスして話し合えば、いいアイディアが生まれることがあるという。そんな彼らの打ち合わせは、真剣ながらも笑顔が絶えることはなかった。
スプリシーのシンボルカラーは黒とピンクで、内装からコーヒーカップに至るまでその2色がアクセントとして配置されている。店の奥にはピンク色の焙煎機が鎮座しており、スタッフが焙煎を始めると店内のクールな雰囲気をほぐす芳香が漂う。店で焙煎をするのは、オーナーの農園で採れるものを含む各種コーヒー豆を新鮮な状態で味わってもらうためである。
サンパウロの旧市街セントロ。そこは、スーツ姿の男女や買い物客が行き交う活気に満ち溢れたエリアだ。カウンターのみを構える「ジラモンド」の客足は昼過ぎがピークで、昼食後のビジネスマンが押し寄せる。店に入りきらない客が路上で列を作らずに順番を待つ姿は、日常風景となっている。サンパウロでは食後にコーヒーを飲むのが習わしで、食事をした軽食店の無料のコーヒーに満足できない者はカフェへと流れるのだ。
順番待ちの客に炭酸水を給仕して回るのはオーナー店長のアルド・デ・ローザさんだ。自らが買って出た役割で、会話が弾む姿に常連の多さが窺えた。
同店の高級コーヒー豆を使ったエスプレッソは庶民には少々高嶺の花で、かつては銀行員や弁護士などの高所得層が客の大半を占めていた。しかしその客層に近年変化が見て取れるそうだ。
経済発展により中間層の購買力が上がったことを反映し、現在は客層の約2割が中間層だろうという。一杯のコーヒーにも質を求める人が増えているとローザさんは見る。ジラモンドの客層は変われど、変わらぬ味と接客で応じてきた甲斐あって、近年姉妹店を2店オープン。それでもローザさんは3店舗を毎日巡り、昼過ぎには本店で炭酸水を配るサービスを続けている。
「僕がいないとお客さんが減るから」というローザさんの笑顔に、常連客との対話の大切さを改めて感じた。
一昨年来の世界的なコーヒー価格の高騰の原因のひとつには、ブラジルでの国内消費の増加が挙げられている。生産のみならず、ブラジルがコーヒーの消費においても世界市場を左右する存在となってきたことの証だろう。
コーヒー輸入国にとっては懸念材料だが、かたやバブル期にあるブラジルではそんなことはどこ吹く風。地元の最高の嗜好品をようやく楽しめる機運の到来に、嬉々としているのである。
ブラジルのコーヒー産業の歴史を体感するには、サントスのコーヒー博物館を訪れるべきだ。サンパウロの隣町サントスの港は、その昔内陸のコーヒー農園の労働者として世界からの移民を受け入れ、生産されたコーヒー豆を積み出した。サントス港は今でも世界最大のコーヒー輸出港となっている。
1998年にオープンしたこの博物館は、過去にコーヒー取引所であった建物の荘厳な装いそのままに、コーヒー産業にまつわる記録写真やグッズを展示し、その歴史を解説している。
訪問者の多くが立ち寄るのが博物館入口のカフェだ。その場でノスタルジーに浸ってエスプレッソを味わうのもいいが、カフェで販売しているオリジナルブレンドや名産地の7種のコーヒー豆を求めれば、これに勝るブラジル土産はない。
ブラジルが「王国」として誇れるのはサッカーだけではない。160年間変わらず生産量世界一のコーヒー産業においても、堂々たる「王国」なのだ。2010年度のブラジルのコーヒー生産量は5450万袋で、世界シェアの40%を占めた(※)。その生産量においてブラジルは常に市場を左右してきた。
かつて上質なコーヒー豆は輸出され、国内では質の劣るものばかりが出回っていた。しかし1990年代末以降の経済成長に伴い国民の購買力が上がったこともあり、主として都市部においてコーヒーの高品質化が進んでいる。
国別消費量でブラジルは長年アメリカに僅差で2位につけており、また一人当たりの消費量で見ても、2010年度は過去最高で4.81kgを数えた(※)。
ますますコーヒー熱が高まるブラジルの中でも、コーヒーとの縁が深く、最も飲食産業の栄えるサンパウロからスタイルの異なる人気のカフェを紹介しよう。
Coffee Lab コーヒー・ラブ 探究心と情熱がいっぱい、コーヒーの「研究所」。
Coffee Lab
コーヒー・ラブ
エスプレッソだけでなくコーヒーの様々な飲み方を紹介することで、常にカフェ業界に新風を吹き込んでいる。
http://www.coffeelab.com.br/
Suplicy スプリシー 歴史とトレンドを味わう、黒とピンクの人気店。
Suplicy
スプリシー
ピンク色の焙煎機は同店のシンボル。市内に7店舗を展開し、ブラジル各地の高級カフェにコーヒー豆を卸す。
http://www.suplicycafes.com.br/
Giramondo ジラモンド コーヒー消費の変化は、気配り小規模カフェにも。
Giramondo
ジラモンド
イタリアでカフェ経営を学んだオーナーが2003年にオープン。カウンターのみのカフェはサンパウロに多い。
http://www.giramondo.com.br/
Museu do Café de Santos コーヒー博物館 コーヒーの歴史を物語る、博物館へ出かけよう。
Museu do Café de Santos
コーヒー博物館
元はブラジル独立百周年を記念して1922年に開設されたコーヒー取引所。街で一番人気の観光スポットだ。
http://www.museudocafe.com.br/