COFFEE BREAK

世界のコーヒー

世界のコーヒー-World-

2023.03.31

生産国グアテマラでだって分かち合いたい、自家焙煎の高級コーヒー

 グアテマラと聞いてコーヒーと連想する人は多いだろうが、それもそのはず。日本から遠く離れた中央アメリカの小国ながら、日本へのコーヒー生産国別輸入量で5位。グアテマラからの国別輸出量で日本はアメリカに次ぐ2位に位置している。多くは木陰で栽培され手摘みで収穫されたコーヒー生豆は、これまで国の重要産品として輸出されてきたが、近年はグアテマラ国内でも高級豆のコーヒーを楽しむ消費文化が根付いてきた。そんな自家焙煎高級コーヒーを淹れる、首都グアテマラシティと古都アンティグアのカフェをご紹介。

地産地消でグアテマラ人としての誇りを注ぐ『テコ・コーヒーハウス』

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焙煎には国産を誇るメサ社のロースターを使用。豆の煎り具合を確認するエチェベリアさん。

 グアテマラシティの富裕な商業エリア・第10区の複合商業施設内テナントで営業する『テコ・コーヒーハウス』は、2019年の創業以来、上質なコーヒーを味わえるカフェのひとつとして街のコーヒー文化をリードしている。

 アメリカ・シアトルのカフェでバリスタ修業の経験があるオーナーのホセ・ミゲル・エチェベリアさんは、コーヒー業界に携わり今年で15年目。父の反対を押し切り、自分らしさを求めてバリスタの道を歩んできた。

 敷地面積78㎡の店内の奥に位置するラボには、平日は朝8時から午後3時までほぼ毎日稼働する焙煎機が鎮座している。

「私たちは首都で初めて店内にラボと焙煎機を構えたカフェなんです。シアトルには焙煎機を備える人気カフェが多いので、僕らも!と開店時からここで焙煎しています」とエチェベリアさん。

 現在は国内各地10ヶ所の農場と取引があり、ラボで生豆の品質を分析し、生産者に結果をフィードバックすることで改善を促し、より良いコーヒー豆を消費者に提供することに尽力している。『テコ・コーヒーハウス』が焙煎したコーヒー豆は店内でサービス・販売するほか、取引先の農場や市内の飲食店にも卸している。

「入荷する生豆と出荷予定の焙煎豆でラボが手狭になってきたので、主にコーヒー豆の貯蔵用に、2軒隣の空いていたテナントを今月から借りました」

 エチェベリアさんの様子からは、15年の経験で勝ち得た業界での信頼がうかがえた。

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取引のある近郊の街チマルテナンゴのカフェ経営者家族と談笑するオーナー夫婦。

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バリスタが注ぐカップの内側には「Guate es(グアテマラとは)」という自社のコーヒー豆ブランド名が。

 店ではグアテマラシティ市内に唯一現存するコーヒー農園の『ラ・ラボール』産の豆も取り扱う。172年の歴史を誇るこの農園は、ナチュラル精製のゲイシャ種で、昨年の『カップ・オブ・エクセレンス・グアテマラ』で6位を獲得するほど、品質において海外からも評価を得ている。

 大気汚染の著しい大都市グアテマラシティにありながら『ラ・ラボール』が位置する第18区にはわずかに農地と自然が残るが、あいにく治安の危険度が高いエリアとしても知られる。『テコ・コーヒーハウス』がある第10区は比較的安全だが、それでも複合商業施設にはガードマンが不可欠だ。

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左:カプチーノ(Q20)とピーカンナッツのパイ(Q15)
右:ラ・ラボール農園のゲイシャ種のコーヒー(Q28)とアルファホール・クッキー(Q12) ※Q=グアテマラ・ケツァル

「政治の腐敗や治安の問題など、グアテマラの悪い点を挙げたらキリがないんです。でも、それを悲嘆し、怒り続けても気が滅入るだけ。僕は美味しいコーヒーをこの街の人々に注いで、楽しんでもらうことが自分の使命だと思っています。世界に誇るグアテマラの最高品質のコーヒーを味わって、グアテマラ人としての誇りを持つ。そんなふうに人々の意識のスイッチを切り替えられたらいいなと思います」

 笑顔を絶やさないエチェベリアさん。愛するコーヒーとともに、そんな思いをお客のコーヒーカップに注いでいる。

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共同経営者の妻サロメ・プエンテスさん(右)、愛犬モリタとともに。店内はペットフレンドリー。

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Teco Coffee House

https://tecocoffeehouse.com/

13 Calle 4-44 Zona 10, Ciudad de Guatemala

+502-5554-1349

営業時間/月〜金 8001900、土 8001800

定休日/日

       

コーヒーを注ぐ喜びを想う『ファット・キャット・コーヒーハウス』Fat Cat-0427.JPG

梁をあらわにしたコロニアルな家屋で営業中。

 ユネスコ世界遺産に登録された、趣きある歴史的街並みが魅力の古都アンティグア。グアテマラで一番人気の観光地とあって、新型コロナウイルスによるパンデミックが落ち着いた現在、すでに外国人観光客の姿が戻り、石畳の街並みは賑やかだ。

 カフェが集まるブロックで2016年5月から営業する『ファット・キャット・コーヒーハウス』は、昼過ぎには地元客と観光客の区別なく賑わう人気店。国内各地7つの農場のコーヒー豆を自家焙煎で楽しませてくれるとあって、コーヒー愛好家には"マスト・ゴー"な店として注目されている。

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コーヒーの抽出に入魂する弟のティトさん(左)と兄のネルソンさん(右)。経営者のオツォイ兄弟は、"太った猫"の店名どおりに存在感のある恰幅の持ち主だ。

 "太った猫"の店名どおり、経営者のオツォイ兄弟は、恰幅の良さで存在感を放つ。そして、店名はネルソンさんが修理工場で働いていた時につけられたあだ名に由来するという。

「ガト(スペイン語で猫)はスラングで工場の作業助手という意味なんだ。僕は7歳から働いていた自動車修理工場で、親方からそう呼ばれていたのさ」

 日本であれば小学1年生にあたる頃から油にまみれ修理工場で働いていたネルソンさんは、25歳を迎えた2005年に人生を変えるべく転職を決意した。先に飲食店で働いていた弟のティトさんに倣い、グアテマラシティのコーヒーチェーンにキッチンスタッフとして職を求め、初めてコーヒーと向き合うことになる。

「コーヒー専門店だからキッチンはないけれど、と店長に言われて見せてもらったエスプレッソマシンに、それまで機械をいじってきた僕は一目惚れしたんだ」

 その後は運命だったかのように、ネルソンさんはコーヒーに魅せられていった。

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焙煎は兄がこだわる仕事。自宅の敷地内でブラジル・カルモマック社製のロースターを操作する。

 2010年に小さなカフェを開店したが、経営に行き詰まり、店を父母に託して資金稼ぎのために兄弟そろってスペインのレストランへ出稼ぎに行った時期もあった。帰国後、レストランを経営したい弟とカフェを立て直したい兄とで異なっていた意見をまとめ、カフェを共同経営することに決めたのはコイントスだったそう。

 二人は帰国翌年の2014年にコーヒー豆焙煎機を購入、自宅での焙煎を始め、各地の小規模コーヒー農園を訪ね歩いて生豆購入の契約を結んだ。努力の甲斐あって、アンティグアの中でも本格的なコーヒーを淹れる人気店へと成長し、客層は旅行者から地元客へと広がっていった。

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左:「日本風アイスコーヒー」(Q35)とアボカドと自家製パン(Q25
右:フレンチプレス(Q35)とクランベリー&アーモンドのクッキー(Q15

「地元のお客さんが増え始めたのは、実はパンデミックからなんだ」とティトさん。「期間中、地元の多くの人が個人経営の店を助けようと心してくれたんだ。僕らが生き残りをかけてSNSで宣伝した手作りパンとコーヒーのデリバリーにも多くの人が応えてくれたから、カフェの今があるんだよ」

 地元の常連客が増えた背景には、世界的なカフェ人気だけでなく、地元の相互扶助の支えがあったのだ。飲食店の経営が難しい時期に、コーヒーが地元社会を連携させる絆のひとつになった喜びは、とても大きいという兄弟。だからこそ、地元客に注ぐコーヒーに、おのずと特別な思いがこもるそうだ。

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Fat Cat Coffee House

https://www.facebook.com/fatcatcoffeehouse/

4a. Calle Oriente 14-A, Antigua

+502-7832-0957

営業時間/月〜日 8001900

定休日/なし

1グアテマラ・ケツァル(Q)=約17.08円(2023年3月現在)

 
写真・文/仁尾帯刀
更新日:2023/3/31
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