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COFFEE BREAK
世界のコーヒー-World-
持続可能性に取り組む、メキシコのカフェ。
コロナ禍や地球温暖化の問題への対策など、世界中の人々が生活スタイルを見直しつつある今、町のカフェのあり方も少しずつ変化を見せているようです。アメリカ大陸にあってコーヒーベルトの北端に位置するメキシコは、コーヒー豆の生産量が世界第9位で(世界総生産量の2.4%)、そのうち97%がアラビカ種。豆の精製は主にナチュラル、ウォッシュド、セミウォッシュド、ハニープロセスで行われています。コーヒーの栽培は15州で行われ、中でもチアパス、ベラクルス、プエブロの3州で国内生産量の約80パーセントを占めています。輸出量は世界第11位で、約54パーセントが対米輸出となっています。そんなメキシコの主要都市では、海外のトレンドを取り入れながら、高級国産豆でコーヒーを淹れるカフェが増加中。国産コーヒーの豊かな味わいをいつまでも、と首都メキシコシティと第二の都市グアダラハラで、それぞれ異なるアプローチで持続可能なコーヒー生産を後押しする2つのカフェを訪れました。
生産者とともに計画的なアグロフォレストリーに取り組む「ブナ」
メキシコシティ中心街の一区ドクトーレスに残る古い繊維工場跡を分譲した商用施設では、工場の佇まいはそのままに、建築事務所、家具ブランド、陶器ブランドなどのクリエイティブなスタジオが複数営業している。今年で入居7年目を数える「ブナ」のラ・トスタドーラ店は、施設最奥部の最も広いスペースで日々コーヒーの芳香を漂わせている。
ワークスペースを兼ねた開放的な店内ではキッチンカウンターと飲食スペースの奥に、店舗名の由来である焙煎室、オフィス、コーヒー豆貯蔵室などがあり、コーヒービジネスに関する様々な作業風景が見て取れる。
「私たちは上質なコーヒー豆を安定的に提供できるように、メキシコの豊かな生態系を守りながら、アグロフォレストリー農法で生産性を上げることに尽力しています」とブナ創業の2012年から品質管理を担うエンリケ・メディナさんが案内してくれた。アグロフォレストリーとは農地に樹木を植え、生態系と土壌への負荷に配慮しながら自然の森に近い環境で農作物の栽培を行う農法だ。
ブナが常時販売しているコーヒー豆は5種類で、ベラクルス、イダルゴ、オアハカなど主要産地からのコーヒーをブレンドしたものが揃う。その中には免疫機能の正常化に効能があるとされるヤマブシタケ(ライオンズマネマッシュルーム)のエキスを配合した希少な一品も並ぶ。それらすべてのパッケージには環境に配慮した生物分解性素材を使用している。
現在、8つの生産地の約50組のコーヒー生産者と契約しているブナは、NGOレインフォレスト・アライアンスのメキシコ支部が2018年に発足した「持続可能な未来のためのマーケット(Mercados por un futuro sostenible)」に他の21社とともに名前を連ねている。この認証は生態系保全に積極的な企業を国内外の市場にアピールし、エコな消費を促すことを目的としている。
「生産者と10年間の契約を結び土壌の改善と生産性の向上に一緒に取り組んでいます。従来型の農法では1ヘクタールあたりのコーヒーノキの栽培は800~1,000本程度なのですが、これを計画的なアグロフォレストリーに変えることにより1ヘクタール約3,300本まで増やせると見込んでいます。生産者の収入を飛躍的に増やすことで、互いにとってのウィンウィンな関係を目指しています。私たちは出資者を募って生産者に投資するための独自のファンドも運営しています」と、ブナが生産者の安定的な収入確保を最優先事項の一つとしていることを語ってくれた。取り組みは道半ばだが、すでに収益アップに喜ぶ生産者も少なくないそうだ。
ラ・トスタドーラ店の飲食スペースは路地に看板を掲げておらず、元工場施設の外壁に囲まれているため、足を運ぶのは主にコーヒーや街に通じた客だ。一方、ドクトーレスの隣の"おしゃれスポット"ローマ地区の店舗では、心地よい飲食店が集まる伝統的な高級住宅街にあって、犬の散歩ついでにテイクアウトを注文する客や旅行者風の外国人カップルの姿が見受けられた。街の活気と飲食店経営がパンデミックから戻りつつあるなか、このような"一般のお客様"をさらに取り込もうと、今年の年末までに市内で新店舗を開店すべく、立地を選定中だ。
Buna La Tostadora
Doctor Erazo 172, Doctores, CDMX
Buna Roma
Orizaba 42, Roma Norte, CDMX
シュタイナー提唱の農業哲学に共鳴、親子で営む「ダンズ・カフェ」
首都メキシコシティから西北西に約550km、メキシコ第二の都市グアダラハラで営業する「ダンズ・カフェ」は、国内有数の古い歴史を誇るイルランダ農園のオーガニックコーヒー豆のみを取り扱うカフェだ。メキシコ最南端の州チアパスに位置するこの農園との隔たりは約1,680km。グアダラハラが位置するハリスコ州にもコーヒー生産地はあるのだが、遠い農園の豆にこだわり続けてきたのは、偶然の再会と農場が貫く哲学によるものだった。
カフェで陽気に接客する経営者のテシエール親子のファーストネームはともにダニエル。カフェは2015年10月創業だが、店名をDaniel の略名 Dan に変えたのは2021年12月と最近だ。
「かつて土木会社に勤務していたころに、サイドビジネスとしてニカラグアで友人が生産するオーガニックコーヒー豆を輸入・販売していました。輸入税負担の悩みを彼に打ち明けると、イルランダ農園の経営者ベルンド・ピータースを紹介されました。2012年に初めて農場を訪れてびっくり!ベルンドとは大学時代の顔見知りだったのです」と、その奇遇な再会が本格的なコーヒービジネスへ転身するための背中を押してくれたと父のダニエルさんが語ってくれた。
1820年代に、メキシコ南部に現存する最も古いコーヒー農園としてアイルランド人が創業したイルランダ農園は、1928年にベルンド氏のドイツ生まれの祖父ロドルフォ氏が購入してから今に至るまでピータース家が経営している。ロドルフォ氏が取り組んだのは、「シュタイナー教育」で知られるドイツ、オーストリアで活躍した思想家ルドルフ・シュタイナーが提唱したバイオダイナミック農法によるコーヒー栽培だった。地域の動植物との共生を求めながら化学肥料を使わない生産を続け、農園労働者には住と食に加えて医療、教育を無料で提供している。
バイオダイナミック農法を管理するドイツの団体デメターの認証を得ているイルランダ農園は、農園そのものを「生命体」と捉える同農法のモデルとして国内外から研修生を受け入れている。テシエール親子は少なくとも年に2回は農園を訪れて絆を深めている。息子のダニエルさんは大学で環境工学を修め農園で実習を行った後に、カフェの創業年から父の右腕として共同経営している。
「息子がSNSを通じて積極的にカフェを宣伝してくれるのでビジネスが広がっています」と父は言う。販路はグアダラハラ市内からカンクン、モンテレイ、ティフアナなど他都市に広がり、現在は10軒ほどの飲食業者にコーヒー豆を卸している。
「ダンズ・カフェ」は、これまでイルランダ農園で長年従事してきた焙煎職人の仕事を尊重するために自家焙煎を行わず、焙煎豆の調達を週一度の陸送に頼ってきた。しかし燃料費高騰に伴う輸送費増もあって来年中には自家焙煎を始める予定だ。「ショッピングセンター内での2号店オープンも計画中です」と息子のダニエルさん。グアダラハラは、メキシコ国内で人口あたりのショッピングセンターの数が最も多いそうで、「まずはショッピングセンター内からコーヒーを飲み歩きするタイプの消費者を対象にビジネスを展開していきたい」と息子のダニエルさんは若者のニーズを拾い上げていく意気込みだ。
*出典
国際コーヒー機関ICO
〈Total production by all exporting countries(全輸出国の総生産量)〉
国際研究分析ECORFAN®
〈La producción y el consumo del café(コーヒーの生産と消費量)〉
書籍『Viaje por el café de México』
(コーヒー豆の精製方法)
メキシコ政府のポータルサイトgob.mx
〈México, onceavo productor mundial de café(世界第11位のコーヒー生産国、メキシコ)〉
国際コーヒー機関ICO