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COFFEE BREAK
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世界のコーヒー-World-
品質を誇る生産地コスタリカ、首都サンホセでカフェ探訪。
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品質を誇る生産地コスタリカ、首都サンホセでカフェ探訪。
La Mancha ラ・マンチャ
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左から:オーナーのアルベルト・フォントさんは、穏やかな雰囲気。コスタリカ特有のバンドーラでコーヒーをいれる。/店内席より柔らかい光が上から注ぐ中庭席が人気。
狭い街路が交差するサンホセの旧市街では、時折麻痺する交通の排ガス臭が漂う。小規模ながらもその活気と混雑ぶりはなかなかのものだ。そんな喧騒の只中にありつつも、一杯のコーヒーとともにひと時の憩いを楽しめるのがラ・マンチャだ。 ラ・マンチャが営業するのは2010年に国の歴史建築遺産に指定されたレンガ造りの建物の広い吹き抜けの空間だ。かつてワインや衣服、香辛料などヨーロッパからの輸入品の倉庫だった建物には今、ピザ店、ヘアサロン、タトゥースタジオ、バーなどとともにカフェが並ぶ。 「2016年にテナントを募った建物の持ち主がカフェの入居を望んでおり、ちょうど私も開業を志して店舗を探していたので即決で契約しました」と語るアルベルト・フォントさんは、新聞社のフォトグラファーからカフェオーナーに転じた身だ。 思い切った転身は、フォントさんの友人にして、焙煎業も行うもう一人のバリスタ、ダビ・ナバロさんの影響による。国内各地の高級コーヒー豆を焙煎するナバロさんの仕事に魅せられ、やがてコーヒーの道をともに歩むこととなった。
左から:1907年に建てられ、国の歴史建築遺産に指定されたエディフィシオ・スタインバスの中庭で営業中。/チョコチップ入りバナナケーキ(2000コロン)とエスプレッソ・ドッピオ(1500コロン)。/バジルとレモン汁が利いたグアカモーレをはさんだ「カプレーゼ・サンド」(4500コロン)とラ・マンチャ・コールドブリュー(2000コロン)。
こだわりのコーヒー豆を、喧騒の中のオアシスで。
種々のコーヒー豆を知るナバロさんだが、ラ・マンチャで一種類しか扱わないのはフォントさんのこだわりによる。そのコーヒー豆とは、国内生産シェア15%を誇る名産地タラスのグラビレアス農場のハニー製法によるレッド・カトゥアイを浅煎りした一品だ。 ハニー製法とは、収穫したコーヒーの果肉を除いた後、豆を覆う粘膜を洗い落とさずに乾燥させるもので、中米の、特にコスタリカで広く取り組まれている。これをコスタリカで近年制作された陶器のコーヒーメーカー「バンドーラ」でいれた一杯は、ほどよい酸味と透明感が爽やかだった。生産過程からカップに注ぐまで、コスタリカならではのコーヒーだと言えそうだ。 カウンターでは黙々とコーヒーを入れるフォントさんだが、バンドーラでのコーヒーの注文が入ると、お客のテーブルでいれ方を丁寧に実演する。 「開業して気づいたのは、僕は接客が好きだということ」と微笑むフォントさん。彼の落ち着いた佇まいもまた、コーヒーの芳香とともに、壁の向こうの喧騒を忘れさせてくれる。
左から:ツアー客も立ち寄る観光スポットとあり、時折一斉に席が埋まる。装飾用に後付けされた鉄柱と観葉植物が中庭の雰囲気を演出している。/フォントさんの右腕的存在のダビ・ナバロさん。焙煎業では現在4つの農場と契約を結んでいる。
Cafeoteca カフェオテカ
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左から:新人バリスタを指導するダニー・ムニョスさん(左)。ホンジュラスでのカフェ勤務を経て、コスタリカに移り住んだ。/中央盆地ソノラ農場産のハニー製法コーヒー「ベネチア」をバンドーラでいれた一杯(2000コロン)。
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バリスタの話に耳を傾けるビジネスマンたち。こうしてコーヒーのトレンドがサンホセでも浸透していく。
コーヒー文化を牽引する、充実のトレンド発信地。
現在取り扱うのは、国内全8生産地域15農場からの23種のコーヒー豆で、これほどの種類を揃えるカフェは他になく、まさに自他ともに認めるコスタリカ・コーヒーのトレンド発信地なのだ。 この日の昼下がりにはビジネスマンの集団がカウンターを取り囲んで談笑する姿があった。バリスタは、まず挽きたてのコーヒー豆の芳香を客に鼻元で楽しんでもらい、それから様々なコーヒーのいれ方と豆の組み合わせを紹介していた。〝食後のコーヒー〟にもかかわらず、その様子は、高級コーヒー豆のテイスティングのような優雅な雰囲気を醸していた。 「当店のバリスタは、コーヒーの準備から接客までを行います」と語るのはチーフバリスタのダニー・ムニョスさん。近隣のホンジュラスから武者修行中だ。多数の農場と取引のあるカフェオテカでは学ぶことが多いと言う。 「バリスタは、生産、処理、焙煎を経たコーヒー豆の豊かさを最終的に消費者に味わっていただく仕事なので、その工程を知り、語れる必要があります。中米の生産国では、全てを身近で知ることができるので充実しています」 今年、カフェオテカは2、3号店を市内にオープンする予定だ。この〝発信地〟の拡充により、サンホセのコーヒー消費文化にますます磨きがかかっていきそうだ。
左から:デンマーク人建築家が建てた平屋の邸宅で営業中。テラス席には、花の蜜を求めてハチドリも訪れる。/コーヒーの亜種、製法、農場名、産地などが明記されたカフェオテカのコーヒー豆パッケージ。/エスカランテ地区の飲食業界のオピニオンリーダーでもあるフアン・イナシオ・サロムさん。
Café Moka カフェ・モカ
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左から:6種類のコーヒー豆に加え、カシューナッツやマカダミアナッツも販売。写真左側の男性は、10年以上毎日立ち飲みに来る近隣で働く常連。/ブレネスさんが一族と経営するコーヒー学校「コスタリカ・コーヒー・アカデミー」にて、同校ジェネラル・マネージャーのバレリア・ケサダさんと。
サンホセの地元の食文化を知りたければ街の中央市場を散策するのが手早い。1880年に開設された市場では、大地の恵みや海の幸が並び、昼時には複数の大衆食堂が客引き合戦を始める。 その賑わいの中で、コーヒー豆販売店とカフェも営業していることは、いかにこの土地の習慣にコーヒーが欠かせないかを物語っている。コスタリカは、コーヒー生産国の中では、ブラジルに次ぐ世界2位の一人あたり消費量(年間4・28キログラム)を誇るのだ。 市場の裏玄関そばで営業するカフェ・モカは朝からコーヒー豆やナッツ類の搬入で忙しい。ここはコーヒー豆販売店だが、カウンターでカラコリージョ(ピーベリー)のエスプレッソとアメリカンを立ち飲みで楽しませてくれる。 「当店のコーヒー豆は隣のカフェ・セントラルで焙煎しています。経営者が同じですから」と勤続20年のウンベルト・ゲバラさん、「あっちなら座ってコーヒーが飲めるよ」と勧めてくれた。
左から:複数のカフェを営むエステバン・ブレネスさん。新設のカフェ、エル・ウニコにて。/中央市場の正面玄関。カフェ・モカは、これと対角線上にある裏玄関から入ってすぐの左側で営業。
かつてのコーヒー王から、受け継いだ歴史。
カフェ・モカには約80年の歴史がある。そもそも20世紀前半に〝コーヒー王〟と称された成功者フロレンティノ・カストロがこの名でコーヒー豆販売店を開いたのが1940年代だった。 「それを1980年代に叔父が買い取り、1999年に私が高齢の叔父から譲り受けました」と語るエステバン・ブレネスさんは、中央市場でカフェ2店舗とコーヒー豆販売店1店舗を経営する。この他に一族で20店舗を構えるカフェ・チェーンとコーヒー学校を経営していると聞けば、彼を現代の〝コーヒー王〟と称して遜色はなさそうだ。 カフェ・モカには、市場散策の後に立ち寄る外国人観光客はいるが、客層の8割は地元の人たちだ。ゲバラさんの手元を見れば、観光客には美しいパッケージにコーヒー豆を入れて売り、常連には紙袋にと使い分けていた。コーヒー豆は同じものなので、大事なのは中身だということを常連はよく知っているようだった。
左から:実に種子が一つしかないふっくらしたピーベリーのコーヒー。エスプレッソ、アメリカンともに600コロン。/販売店の視点からコスタリカのコーヒー事情を気さくに語ってくれたウンベルト・ゲバラさん。かつて内戦から逃れてコスタリカに移住したニカラグア人だ。/カフェ・モカで販売するコーヒー豆は、市場内の系列店カフェ・セントラルで焙煎している。
Alma de Café アルマ・デ・カフェ
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大地震の後に7年の建設期間を経て1897年に落成された国立劇場。
黄金時代に思いを馳せて、すする一杯のコーヒー。
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左から:伝統的な劇場のカフェならではの装飾に囲まれてコーヒーが楽しめる。12月、1月の観光シーズンには外国人訪問客も多いが、日頃は地元の利用客が憩う。/ギャルソンの正統派な制服からも伝統と誇りが感じられる。/甘さ控えめの「カプチーノ・アルマ・デ・カフェ」(1995コロン)とほうれん草、パルメザンチーズ、オレガノの入った日替わりキッシュ(4195コロン)。
イタリア製の大理石のテーブルにチェコ製の椅子、彫刻が施された国産杉のカウンターなど、国立劇場内で営業するアルマ・デ・カフェでは、1897年に劇場が開場した時からの調度品が使われている。 「当店は2011年からここで営業しています。国立劇場のカフェの歴史は長く、最初の24年間、ここは男性専用のバーでした。タバコの煙渦巻く空間で、女性が男性と飲酒をするのはタブーだったのです」と店長のカルロス・アルコセルさんが説明してくれた。 コーヒーは、首都近郊の街エレディアでの農場ツアーが人気の国内最大手カフェブリット社の豆を使用しており、定番のエスプレッソやカフェラテから、キイチゴ、ココナッツミルク、ハチミツなどを加えたものまで種類豊富なコーヒードリンクが楽しめる。 12月上旬の晴れた一日、朝から全開のカフェの窓からは、劇場の柵越しに活気ある街の光景が、眩いビルの反射光とともに差し込んでくる。コーヒーカップを傾けながらそれを眺めるのは、コーヒー黄金時代の思い出が詰まったタイムカプセルから今を眺めるようだった。