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COFFEE BREAK
世界のコーヒー-World-
2020.04.20
品質を誇る生産地コスタリカ、首都サンホセでカフェ探訪。
品質を誇る生産地コスタリカ、首都サンホセでカフェ探訪。
質の高いコーヒー豆を生産することで知られる中米のコスタリカ。一人あたりの消費量も生産国の中では世界2位と、かねてよりコーヒーに親しんできた。首都サンホセで、地元に愛される4つのカフェをめぐった。
La Mancha ラ・マンチャ
狭い街路が交差するサンホセの旧市街では、時折麻痺する交通の排ガス臭が漂う。小規模ながらもその活気と混雑ぶりはなかなかのものだ。そんな喧騒の只中にありつつも、一杯のコーヒーとともにひと時の憩いを楽しめるのがラ・マンチャだ。 ラ・マンチャが営業するのは2010年に国の歴史建築遺産に指定されたレンガ造りの建物の広い吹き抜けの空間だ。かつてワインや衣服、香辛料などヨーロッパからの輸入品の倉庫だった建物には今、ピザ店、ヘアサロン、タトゥースタジオ、バーなどとともにカフェが並ぶ。 「2016年にテナントを募った建物の持ち主がカフェの入居を望んでおり、ちょうど私も開業を志して店舗を探していたので即決で契約しました」と語るアルベルト・フォントさんは、新聞社のフォトグラファーからカフェオーナーに転じた身だ。 思い切った転身は、フォントさんの友人にして、焙煎業も行うもう一人のバリスタ、ダビ・ナバロさんの影響による。国内各地の高級コーヒー豆を焙煎するナバロさんの仕事に魅せられ、やがてコーヒーの道をともに歩むこととなった。こだわりのコーヒー豆を、喧騒の中のオアシスで。
種々のコーヒー豆を知るナバロさんだが、ラ・マンチャで一種類しか扱わないのはフォントさんのこだわりによる。そのコーヒー豆とは、国内生産シェア15%を誇る名産地タラスのグラビレアス農場のハニー製法によるレッド・カトゥアイを浅煎りした一品だ。 ハニー製法とは、収穫したコーヒーの果肉を除いた後、豆を覆う粘膜を洗い落とさずに乾燥させるもので、中米の、特にコスタリカで広く取り組まれている。これをコスタリカで近年制作された陶器のコーヒーメーカー「バンドーラ」でいれた一杯は、ほどよい酸味と透明感が爽やかだった。生産過程からカップに注ぐまで、コスタリカならではのコーヒーだと言えそうだ。 カウンターでは黙々とコーヒーを入れるフォントさんだが、バンドーラでのコーヒーの注文が入ると、お客のテーブルでいれ方を丁寧に実演する。 「開業して気づいたのは、僕は接客が好きだということ」と微笑むフォントさん。彼の落ち着いた佇まいもまた、コーヒーの芳香とともに、壁の向こうの喧騒を忘れさせてくれる。
La Mancha
ラ・マンチャ
中央大通りと一番通りの交差点という旧市街中央に位置する旧倉庫内で営業するカフェ。コーヒー景気最中の20世紀初頭に、市民の需要を補う輸入品を保管した場として、街のコーヒーの歴史にも縁がある。
■ https://www.facebook.com/cafelamancha/
Cafeoteca カフェオテカ
旧市街の中心から西に向かって車で走ること約20分、古都カルタゴへと向かう線路を越えると一転して閑静なエリアに立ち入る。高級住宅街エスカランテは、いま美食文化の発信地として発展著しい地区だ。高級志向のカフェもまたこのエリアに集中している。
2014年にこの地区に移転してきたカフェオテカは1950年代末に建てられた邸宅を改装して営業している。
「ここはもともとナシオナル銀行元総裁の自邸でした」とオーナーのフアン・イナシオ・サロムさんがそのモダニズム建築の中を案内してくれた。
「当初はコスタリカ・コーヒーの博物館を開く計画だったのですが、結局ファッション&アート、そして食とコーヒーの複合商業スペースにしました」。
その言葉の通り、邸宅の中にはアートギャラリー、服飾店、雑貨のセレクトショップやレストランもある。また、博物館にしたかったという意気込みは、コーヒー豆の品揃えに窺えた。
コーヒー文化を牽引する、充実のトレンド発信地。
現在取り扱うのは、国内全8生産地域15農場からの23種のコーヒー豆で、これほどの種類を揃えるカフェは他になく、まさに自他ともに認めるコスタリカ・コーヒーのトレンド発信地なのだ。 この日の昼下がりにはビジネスマンの集団がカウンターを取り囲んで談笑する姿があった。バリスタは、まず挽きたてのコーヒー豆の芳香を客に鼻元で楽しんでもらい、それから様々なコーヒーのいれ方と豆の組み合わせを紹介していた。〝食後のコーヒー〟にもかかわらず、その様子は、高級コーヒー豆のテイスティングのような優雅な雰囲気を醸していた。 「当店のバリスタは、コーヒーの準備から接客までを行います」と語るのはチーフバリスタのダニー・ムニョスさん。近隣のホンジュラスから武者修行中だ。多数の農場と取引のあるカフェオテカでは学ぶことが多いと言う。 「バリスタは、生産、処理、焙煎を経たコーヒー豆の豊かさを最終的に消費者に味わっていただく仕事なので、その工程を知り、語れる必要があります。中米の生産国では、全てを身近で知ることができるので充実しています」 今年、カフェオテカは2、3号店を市内にオープンする予定だ。この〝発信地〟の拡充により、サンホセのコーヒー消費文化にますます磨きがかかっていきそうだ。
Cafeoteca
カフェオテカ
23種の国産コーヒー豆を扱うカフェ文化の発信地。海外で流行りの抽出方法から、コスタリカならではのいれ方まで多様なコーヒーが楽しめる。2杯目、3杯目が飲みたいコーヒー好きには飲み比べが楽しい店だ。
■ http://kalu.co.cr/cafeoteca
Café Moka カフェ・モカ
サンホセの地元の食文化を知りたければ街の中央市場を散策するのが手早い。1880年に開設された市場では、大地の恵みや海の幸が並び、昼時には複数の大衆食堂が客引き合戦を始める。 その賑わいの中で、コーヒー豆販売店とカフェも営業していることは、いかにこの土地の習慣にコーヒーが欠かせないかを物語っている。コスタリカは、コーヒー生産国の中では、ブラジルに次ぐ世界2位の一人あたり消費量(年間4・28キログラム)を誇るのだ。 市場の裏玄関そばで営業するカフェ・モカは朝からコーヒー豆やナッツ類の搬入で忙しい。ここはコーヒー豆販売店だが、カウンターでカラコリージョ(ピーベリー)のエスプレッソとアメリカンを立ち飲みで楽しませてくれる。 「当店のコーヒー豆は隣のカフェ・セントラルで焙煎しています。経営者が同じですから」と勤続20年のウンベルト・ゲバラさん、「あっちなら座ってコーヒーが飲めるよ」と勧めてくれた。かつてのコーヒー王から、受け継いだ歴史。
カフェ・モカには約80年の歴史がある。そもそも20世紀前半に〝コーヒー王〟と称された成功者フロレンティノ・カストロがこの名でコーヒー豆販売店を開いたのが1940年代だった。 「それを1980年代に叔父が買い取り、1999年に私が高齢の叔父から譲り受けました」と語るエステバン・ブレネスさんは、中央市場でカフェ2店舗とコーヒー豆販売店1店舗を経営する。この他に一族で20店舗を構えるカフェ・チェーンとコーヒー学校を経営していると聞けば、彼を現代の〝コーヒー王〟と称して遜色はなさそうだ。 カフェ・モカには、市場散策の後に立ち寄る外国人観光客はいるが、客層の8割は地元の人たちだ。ゲバラさんの手元を見れば、観光客には美しいパッケージにコーヒー豆を入れて売り、常連には紙袋にと使い分けていた。コーヒー豆は同じものなので、大事なのは中身だということを常連はよく知っているようだった。
Café Moka
カフェ・モカ
賑やかな中央市場内で朝8時から営業しているコーヒー豆販売店。コーヒーの立ち飲みに通う常連客も多く、庶民が立ち寄りやすい雰囲気だ。かつて"コーヒー王"と言われた成功者から店名を継ぐ。
■ https://www.facebook.com/Cafemokasanjose/
Alma de Café アルマ・デ・カフェ
近代国家としてのコスタリカの基礎は、中米でいち早く取り組まれたコーヒー産業の発展によって敷かれた。19世紀末に建てられたサンホセの国立劇場は、コーヒー産業最盛期の繁栄を今に伝える国の誇りだ。
1888年、既に世界一のコーヒー生産国であったブラジルで奴隷制が廃止されると、その後の減産の懸念から国際市場でのコーヒー価格が急騰した。奇しくも同年末の大地震で劇場を失ったサンホセであったが、当時の大統領は価格高騰に乗じて、コーヒー輸出税を新設し、その税収での国立劇場建設に踏み切ったのだった。
しかしブラジルが、大量のヨーロッパ移民を受け入れて生産を維持したことにより、コーヒー価格の高騰は続かず、結局、国立劇場の建設費の多くは、全国民からの税収で賄われることになったのであった。
黄金時代に思いを馳せて、すする一杯のコーヒー。
イタリア製の大理石のテーブルにチェコ製の椅子、彫刻が施された国産杉のカウンターなど、国立劇場内で営業するアルマ・デ・カフェでは、1897年に劇場が開場した時からの調度品が使われている。 「当店は2011年からここで営業しています。国立劇場のカフェの歴史は長く、最初の24年間、ここは男性専用のバーでした。タバコの煙渦巻く空間で、女性が男性と飲酒をするのはタブーだったのです」と店長のカルロス・アルコセルさんが説明してくれた。 コーヒーは、首都近郊の街エレディアでの農場ツアーが人気の国内最大手カフェブリット社の豆を使用しており、定番のエスプレッソやカフェラテから、キイチゴ、ココナッツミルク、ハチミツなどを加えたものまで種類豊富なコーヒードリンクが楽しめる。 12月上旬の晴れた一日、朝から全開のカフェの窓からは、劇場の柵越しに活気ある街の光景が、眩いビルの反射光とともに差し込んでくる。コーヒーカップを傾けながらそれを眺めるのは、コーヒー黄金時代の思い出が詰まったタイムカプセルから今を眺めるようだった。
Alma de Café
アルマ・デ・カフェ
コスタリカの西洋文化の象徴である国立劇場で営業するクラシカルな内装のカフェ。かつては女人禁制のバーであったが、現在では当然ながら、おしゃべりとコーヒーを楽しむ女性の姿もある。
■ https://www.facebook.com/almadelteatrocr/