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COFFEE BREAK
世界のコーヒー-World-
2019.12.24
パースのコーヒーには、地球を愛する気持ちが香る。
パースのコーヒーには、地球を愛する気持ちが香る。
オーストラリア南西部の都市パース。海と陸の大自然に囲まれたこの街の人は、自然と地球に対するリスペクトの意識が高い。コーヒーショップでは、その思いを店側と客側が共有し、廃プラスチック削減などの取り組みをサラリと実践している姿が見られた。
Mary Street Bakery メアリー・ストリート・ベーカリー
パース市内に5つの店舗を構える繁盛店。コーヒーは自家焙煎。パンやペストリーも全て自社製だ。今回取材したのは観光地中心にも近いビジネスビル「QV1」にある3号店。午前10時、朝のコーヒーブレイクを求めてオフィスワーカーの常連客が引きも切らずに訪れる。大半の人がグラブ・アンド・ゴー、すなわちテイクアウトだ。オーナーのポール・アーロンさんはメルボルン生まれ。13年前にパースに移り、バーやレストランの経営で成功を収めた後、2014年にコーヒービジネスに進出した。先進のコーヒー文化で知られるメルボルンと比べ「パースには5年くらい前までコーヒー文化と呼べるものはなかった。それほど遅れていた」とアーロンさんは言う。
味わいと店の姿勢に、共通する「透明性」。
この店が面白いのは、ソーシャルなコミットメントを行っている点だろう。
例えば、医師や看護師、消防士といった社会貢献度の高い職業の人には代金を半額にしている。野菜などは直接生産者から買うことで彼らをサポート、食べ残しは廃棄せず、ビルの地下の施設でコンポストにしている。客の中にはテイクアウト用のマイタンブラー持参で来店する人も少なくない。パースは、美しいビーチにも近く、内陸部の手付かずの自然へのアクセスも容易な土地柄。暮らす人の多くは戸外で自然に触れることを愛し、環境保全への意識も高いと言われる。この朝もカウンターを挟んで、店側も客側も同じ意識を共有しているさまが見て取れた。
単一産地の豆を使用したドリップ・コーヒーはビーカーに注がれ、ガラスのコップとコーヒーの詳細(味わい、国名、畑の名前、プロセス、品種、畑の標高、いれ方)が記されたシートを添えて出される。クリアな味わい。この「透明性」こそが店の全てに通じる特徴であり、また魅力なのだと感じた。
Mary Street Bakery
メアリー・ストリート・ベーカリー
パースの街に先進のコーヒー・カルチャーを持ち込んだ店。社会貢献度の高い職業の人に半額でコーヒーを提供するなど独自のビジネスモデルを創造、街のコーヒーシーンをリードし、刺激し続けている。
■ http://www.marystreetbakery.com.au
La Veen Coffee ラ・ヴィーン・コーヒー
市の重要歴史的建築物にもリストされている煉瓦造りの建物は1906年に建てられたもの。当時は馬を売る会社が入っていたという。今、大きな窓から光がふんだんに差し込む空間に集うのは馬ではなく、コーヒーとリラックスできる時間を愛する人々。鉱業関係の会社に勤めるゴードン・ハンターさんは毎日、朝一番と午前10時に店を訪れ、ダブル・エスプレッソを飲んでいくという。「ここはコーヒーの温度がいつもちゃんとしているんだ。器も良いしね」とハンターさん。
共同オーナーの一人、ベンジャミン・セオさんによると、開業は2009年。ただし、それはスビアコというパース西郊でのこと。「たった8人しか座れない小さな店でした。もっと広い場所を探していて、キング・ストリート沿いのこの場所と出会い、13年に移ってきました」。
コーヒーを楽しんだら、植物の種を植える?
店名はフランス語のVert(ヴェール)と英語のGreen(グリーン)をくっ付けた造語。いずれも意味は「緑」だ。環境重視の姿勢をそのまま店名にしたのだとセオさんは言う。その姿勢がよく表れた商品が「コーヒー・ドリップ・ポット」。ティーバッグのようなスタイルでドリップ・コーヒーを楽しむことができるキットが紙製のボックスに納められているもの。使用後はボックスをプランターに、コーヒー豆の滓を土代わりにして、栽培が楽しめる。この店の浅煎りコーヒーの柔らかな味わいにはセオさんたちの緑を愛する気持ちが含まれている。
La Veen Coffee
ラ・ヴィーン・コーヒー
「緑」を表す造語を店名にすることで環境問題へのコミットメントを宣言。しかし、それを声高に唱えるのではなく、コーヒーを使ったお洒落な商材を通してアプローチ。その軽快さがいかにもオーストラリア人らしい。
■ https://laveencoffee.com.au
Antz HQ アンツHQ
パースの有力ロースタリー「アンツ・インヤ・パンツ・コーヒー」(「ウズウズする」の意)が展開するフランチャイズ店の一つ。オーナーのマット・ケンワーシーさんは今年2月に経営権を得たばかりだ。「元々カフェの仕事をしていて、一時不動産業に転職していたんですが、やはりコーヒービジネスに未練があって、この世界に舞い戻ってきました」。営業時間は早朝6時半から午後2時まで。家族と過ごす時間を増やしたかったというのもコーヒーショップ経営を選んだ理由だったという。
経営母体がロースタリーとあって、豆のクオリティには自信がある。常時5つの豆をラインナップ。「本日のコーヒー」は日替わり。低めの温度でじっくりと焙煎された豆でいれるコーヒーは味わいもまろやか。
一軒のコーヒーショップから、世界が変わる予感......。
入り口のドアのガラスには「繰り返し使えるカップのみ使用可」との断り書きが。この店にはテイクアウト用の紙製カップはない。この取り組みが︎施されたのは2016年から。画期的なプランを円滑に浸透させるため、店では初めて来店した客からはコーヒー代を取らない。その代わり、客はレギュラーサイズ(7AUD)かラージサイズ(9AUD)のタンブラーを購入することになる。2度目以降はそのタンブラーを使ってもらうという仕組みだ。カウンターの奥には、これまでに「埋め立て」を免れた紙コップ(プラスチックの蓋も含む)の数が誇らしげに掲げられている。取材時の数は「23万4782」だった。
環境問題に取り組むこの店のポリシーに触れて、家族について語ったケンワーシーさんの言葉を思い出した。きっと両者は同じところから発せられるものなのだろう。世界中のコーヒーショップに、この動きが伝播する日は案外遠くない気がした。
Antz HQ
アンツHQ
まろやかな味わいのコーヒーと具材のセレクトが楽しいベーグル、レトロ・キッチュな可愛らしい内装......。でもこの店の魅力はそれだけではない。「紙製カップゼロ」の取り組みからコーヒー文化の未来像が見えてくる。
■ https://www.antzcafes.com.au
Telegram Coffee テレグラム・コーヒー
ユーカリ材の風合いを生かした木箱のような外観は電報局の窓口を模したもの。その中で黒い服を纏ったスタッフがキビキビと立ち働く。スタイリッシュ。2015年10月にオープンしたこの店が入っているステート・ビルディングスは、かつて西オーストラリア州政府の庁舎だった建物を改装し、ホテルや飲食店、宝飾店などが入った複合施設として生まれ変わらせたもの。パースで最もホットなスポットだ。
頑固に変えないものと世界から受け入れるもの。
オーナーのルーク・アーノルドさんは16歳からバリスタをしてきたと言う筋金入りのエキスパート。フィルター・コーヒーでは、地元パースはもちろん、国の内外を問わず、世界中の優れたロースターの豆を紹介したいと考えている。一方で、エスプレッソ用の豆は12年来の付き合いになるロースターの豆に据え置き。自らが起き抜けに飲みたいコーヒーはみんなを気分良くしてくれると信じている。アーノルドさんの特技は、顧客の名前とバックグラウンドを記憶すること。取材中も、訪れる客の一人ひとりに名前で呼びかけ、その人がどんな仕事や趣味を持っているのかを説明してくれた。その数は数千人に及ぶと豪語するアーノルドさんに、秘訣を訊ねたら「関心のあることは覚えられる。それだけのこと」と言う答えが返ってきた。
アーノルドさんは2009年には生分解性素材のカップを使っていたと言うエコロジストでもある。この店でもマイカップを持参した人にはコーヒーを50セント引きで販売している。
Telegram Coffee
テレグラム・コーヒー
最新のトレンドスポットにある、スタイリッシュなコーヒースタンド。しかし、本当の売りものは、フルボディーのエスプレッソ、個性の際立つシングル・オリジン。そして、ここにも持続可能な社会への取り組みが。
■ http://telegramcoffee.com.au