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COFFEE BREAK
世界のコーヒー-World-
2017.04.20
プラハで台頭する、新コーヒー・カルチャー。
プラハで台頭する、新コーヒー・カルチャー。
歴史の波に翻弄されてきたこの美しい街で、今コーヒーシーンにも大きな変化が起こっている。そこに見られるのは、国境をやすやすと越えてよいものを求めるピュアな探究心と、デリケートな味わいを抽出するのに労を惜しまぬアルチザン精神だ。
Ema Espresso Bar エマ・エスプレッソ・バー
天井高約6メートル、床面積約120平方メートルの広々としたスペースにデンと置かれたシンボリックなロングテーブル。長さは7メートルほど。どこかヨーロッパの田舎の大家族の食事風景を彷彿とさせるものがある。それとパラレルに据えられたカウンターはバリスタたちが腕前を見せるステージだ。マッティさんとナイジェルさんが踊るようなリズミカルな動きで次々とコーヒーをいれている。「スタッフがイケメンだから女性客が多いのよ」とスタッフ中紅一点のマリアさんがおどけたような身振りをして言う。
プラハの人気店〈カフェ・ラウンジ〉の弟分としてこの店がオープンしたのは4年前。食事もできてお酒も飲める兄貴分と差別化して、サッと立ち寄り、バリスタと短い会話を楽しみ、コーヒーを受け取って出て行くエス︎プレッソ・バーのスタイルというのが元々のコンセプトだったが、蓋を開けてみると居心地が良すぎるのか、長居する人が多かったとのこと。
コーヒー豆はEU内から、最良のものを取り寄せて。
コーヒー豆は、ドイツやスウェーデンのマイクロロースター(小規模焙煎業者)から取り寄せている。自家焙煎や地元調達にこだわらず、良い豆があれば国外からでも気軽に取り寄せるというやり方はこの街の他の多くのコーヒーショップでも目にした。EUの利点はこういうところにあるのかも。店名にもなっているエスプレッソ・ドリンクが主流だが、エアロプレスやハンドドリップでいれるコーヒーのおいしさも積極的に紹介している。 この店があるフロレンツ地区はプラハの観光中心から東側に外れたエリアで、ツーリストよりは地元住民が多い。ミュージシャンや演劇関係者もよくコーヒーを飲みに来るという。午後5時。店内はますます盛況を呈し始めた。
Ema Espresso Bar
エマ・エスプレッソ・バー
観光中心から離れた地元プラハっ子の集まる店は、ロングテーブルを中心とした広々としたスペースが魅力。客は思い思いのスタイルでたっぷりと時間をかけてコーヒーを楽しむ。
■ http://www.emaespressobar.cz
Super Tramp Coffee スーパー・トランプ・コーヒー
旧市街と新市街の境目、古びたビルの中庭にこの店はある。「1930年代に建ったこの建物、以前は出版社の社屋だったんですよ」とオーナーのルツィエ・クタルコワさん。リーダ・ファッションというプラハ発信のファッション・ブランドの創業者兼デザイナーとして、彼女は日本へも売り込みに来たことがある。共同経営者で夫のトマーシさんは映画監督をしていた。
「オープンに人と関わる暮らしがしたかった」という2人がたどり着いたのがカフェ経営という選択だった。
4年前、〈アイ・ニード・コーヒー〉という小さな店を出し、その成功を承けて、2年前にこの店を開いた。店名は、アメリカ合衆国新大統領とはもちろん無縁。小説や映画で知られる『荒野へ』の主人公で、実在の人物だったアメリカの伝説的ハイカーが自らに付けたニックネーム〝アレグザンダー・スーパートランプ〟に因んだもの。スーパートランプとは放浪者のことだ。
飾り気のない雰囲気が、訪れる者の心を和ませる。
カウンターも椅子もテーブルもDIYで簡単に作れそうなシンプルなものばかり。墨絵のようなイラストが配されたメニュー表などのアートワークは店のバリスタも務める美術学校生が手がけたもの。ショーケースに並ぶクッキーやパンもここで焼いている。それらすべてに通じる素朴さ、手作り感が居心地のよさを生んでいる。目立つ看板は出していないし、積極的なプロモーションもしていない。 「この中庭を近道に使う人がいて、そういう人がふらりと寄ってコーヒーを飲んで行ってもらえればいい。それで気に入ってもらえたら、自然と口コミで店の存在が知られるでしょう」とルツィエさんは言う。中庭に向かってデッキが張り出していて、天気のよい日には、そこから席が埋まっていく。
Super Tramp Coffee
スーパー・トランプ・コーヒー
オーナーは、ファッション・デザイナーだった妻と映画監督だった夫。「人との自然な出会い」を求めて始めたという隠れ家的なコーヒーショップ。ビルの中庭に寛ぎの時間が流れる。
■ https://www.facebook.com/supertrampcoffee.cz/
One Sip ワン・シップ
石畳の通りが昔日を偲ばせる旧市街の一角に去年の4月にオープンしたばかりの小さなコーヒーショップ。通りに向いたカウンターの席数はわずかに3つ。自ずと大半の客は立ったままサクッとコーヒーを啜るかテイクアウトをしていくことになる。ワン・シップ(ひと啜り)という店名には店のスタイルが込められているのだ。
2人の共同経営者のうちの1人、アダム・ガシツィックさんは「プラハで一番新しいだけでなく、最も進化したコーヒーショップだと思います」と自信を覗かせる。常連客の多くがコーヒー豆の産地を訊ねてから注文を決めるという。客の方も最先端というわけだ。
「フィルター・コーヒーの注文も1割くらいありますが、残りの9割はエスプレッソかエスプレッソ・ドリンクですね」と言うガシツィックさんの前に鎮座するのは、世界のバリスタが憧れるオランダ製高級エスプレッソ・マシーン。コーヒー豆はイギリス・バースのラウンドヒル・ロースタリーのものをその都度カッピング(試飲)して選び、毎週取り寄せている。この日扱っていたのはエチオピア2種、ブラジル1種、エルサルバドル1種の計4種。
バリスタ同士が、行き来する開かれた世界。
ソーシャルメディアに投稿された店の評価には「生涯で最高のエスプレッソに出会った」といった絶賛コメントが並ぶ。メニューを見ると、「フィルター・コーヒー」の下に「バッチ・ブルー」とある。これはいわゆる自動コーヒーメーカーのこと。「立て込んでくると、ハンドドリップをしている時間がなくて」とガシツィックさんはこともなげに言う。豆さえ良ければ、ハンドドリップにこだわらなくても十分に美味しいコーヒーがいれられるという自信の表れか。われわれの取材中、他店のバリスタが店を訪ねてきた。コーヒーを飲みながら情報交換する2人はライバル同士では? こういう切磋琢磨がプラハのコーヒーシーンを支えているのだろう。
One Sip
ワン・シップ
ロースターにこだわり、エスプレッソ・マシーンにこだわっていれる「ひと啜り」。旧市街のこの小さなニューフェイスが、これからのプラハ・コーヒーシーンをリードしていきそうな予感。
■ http://www.onesip.coffee
Místo ミースト
木の風合いを存分に生かした内装、大きな窓から入る柔らかな外光、ゆったりとしたレイアウト、スタッフの和やかな表情。それらを生み出すのは温もりだ。2年前にオープンしたこの店、居住性の高さとコーヒーの美味しさで、すぐに評判となり、各種メディアのベスト・カフェ・ランキングでは早くも上位をキープしている。人気店の地位にとどまらず、コーヒー文化全体に寄与。
コーヒー豆はプラハ市内にある同経営のロースタリー〈ダブルショット〉から届く。カッピングを繰り返して、その都度最高のものを提供している。3種あるフィルター・コーヒーは随時ラインナップを入れ替える。エスプレッソは季節ごとにブレンドを変えて出す。この日のエスプレッソはエチオピアの豆を50%にグアテマラの2つの農園の豆を25%ずつブレンドしたもの。オレンジやカカオのアロマが感じられる、余韻の長いコーヒーだ。 フィルター・コーヒーのいれ方は月ごとにチェンジしているとのこと(この日はエアロプレスだった)。最近人気の変わり種メニューは、エスプレッソをトニックウォーターで割ったエスプレッソ&トニック。さすがは国民一人当たりのビール消費量世界一のお国柄。コーヒーもシュワシュワと泡を立てて飲むのがお好みらしい。 バリスタのトーマス・ドラスクさんによると、「店では一般とプロ、それぞれを対象にしたコーヒー教室を定期的に開講しているんです」とのこと。トップランナーであることで満足せず、街のコーヒー文化全体に寄与したいという店の姿勢がそこに表れている。
Místo
ミースト
開店2年足らずにして、現代プラハを代表するカフェの地位に立った「温もり空間」。成功の背後には、コーヒー豆の産地の選定、焙煎から抽出までコミットする"ファーム・トゥー・ブルー"の姿勢が。
■ http://www.mistoprovas.cz