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COFFEE BREAK
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世界のコーヒー-World-
2016.08.18
人びとの日常に溶け込んだもうひとつのコーヒー文化
人びとの日常に溶け込んだもうひとつのコーヒー文化
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左から:コピ・ティアムで思い思いの時を過ごす地元の常連客たち。/ジョージタウンを一躍"壁画アートの街"にしたザカレヴィックの代表作。元々は2012年のジョージタウン・アート&カルチャー・フェスティバルの一環で描かれたもの。/コピ・ティアムでは小ぶりのカップにはレンゲがデフォルト。
巻頭ページで紹介した4軒のカフェとはまったく別の顔を持つ、昔ながらのコーヒー店「コピ・ティアム」がマレーシアにはまだまだたくさんあって、市民の日常に欠かせない憩いの場になっている。ジョージタウンの世界遺産にも登録された古い街並みの中にある〈コンタイライ(廣泰來)〉という店を訪ねてみよう。店のある建物はこの界隈独特のショップハウスの作り。往来に面した入り口脇のテラス席に陣取った。中では蛍光灯の光の下、天井扇風機が回る。お昼前の時間帯で、店内は地元住民らしき中高年の男女で混み合っている。談笑するグループ、新聞を広げる人、スマホをいじる人。いずれも滞在時間は長そうだ。コーヒーはカップ&ソーサーにレンゲを添えて出される。「コピ」は砂糖と練乳が入ったもの、「コピ・オ」はブラック+砂糖、「コピ・スス」はブラック+砂糖+牛乳を入れたもの。それぞれにホットとアイスがある。若者たちに人気のカフェでエスプレッソを頼むとRM6~7くらい支払うことになるが、コピ・ティアムでは何を飲んでもRM1.5を超えることはまずない。価格比4対1と言ったところか。店の裏手の厨房を覗いてみると、店主が短めのストッキングのようなフィルターを駆使して、せっせとコーヒーを入れている。器具と呼べそうなものはそのフィルターとコーヒーを受けるステンレスのコンテナくらいのものだ。コーヒーを中心に展開される、ミックス・カルチャーの世界。
ホットのコピを注文して飲んでみた。トロリとして、甘くて濃いが、思ったよりしつこさはなくて飲みやすい。が、カップ1杯を飲み干すのは至難だった。やはりわれわれの嗜好からすると甘すぎる。常連客から「カヤ・トースト」を試してみろと勧められた。これはコピ・ティアムの代表的な朝食メニューで、ココナッツミルク、卵黄、砂糖を煮詰めてつくるカヤジャムを塗って食べる素朴な味のトースト。これにイギリス風の半熟ゆで卵を加えれば、混淆文化の香り満点の、由緒正しきペナンの朝食ということになる。 コピ・ティアムの中には揚げ物や麺類を商う複数の屋台に軒を貸して、フードコートのようなスタイルをとっているものもある。そういうのを見ると、コーヒーが単なる飲み物ではなく、人びとを集めて交わらせるキーアイテムとして機能していることがわかる。"ホワイト・コーヒー"についての誤った紹介を正す。
最後にマレーシアのコーヒーに関する誤った情報を正しておこう。ガイドブックなどによく「マレーシアはホワイト・コーヒーが有名。ホワイト・コーヒーとは豆の焙煎の際に砂糖やマーガリンを加えて風味を増したもの」と書かれているが、これはまったくの誤り。実際にローカル・コーヒーの中には劣悪な豆の味をなんとか飲めるものに仕上げるために、先述のような手法をとるものもあるが(この手のものは豆が黒っぽくなる)、それをしないでコーヒーだけで焙煎したもののことをホワイト・コーヒーと呼ぶのが正しい。