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COFFEE BREAK
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世界のコーヒー-World-
「フィーカ」を彩る、ストックホルムのカフェ。
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「フィーカ」を彩る、ストックホルムのカフェ。
スウェーデン人の暮らしに欠かせない習慣「フィーカ」。忙しくても仕事の手を止め、コーヒーとお菓子をゆっくりと日に何度も楽しむという。彼らが大切なフィーカタイムを過ごす新旧カフェ4店舗を紹介する。Drop Coffee/ドロップ・コーヒー
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写真家クリスチャン・グスタフソンが撮影したヨアンナさんの本(SEK200)。
地下鉄「マリアトリエット」駅を出てすぐ。1800年代後半から1900年代初頭に建てられたクラシックな集合住宅が立ち並び、センスの良いセレクトショップやベーカリーなどが店を構えるこのエリアで人気を誇るのがドロップ・コーヒーだ。
人気の秘密は2009年の創業時からのメンバーで2年後からは共同経営者でもあるヨアンナ・アルムさんが焙煎するコーヒー。スウェーデンのコーヒー・ロースティング・チャンピオンシップで三回優勝したヨアンナさんの技術は国内一との呼び声も高い。
豆の味を最大限に引き出すため、焦げによる苦味をつけないよう細心の注意を払い、豆からパチパチと弾ける音がして仕上がった瞬間を逃さずローストを終える。オープン当初は店内で焙煎していたが、現在は郊外に工房を移し、すべての豆をヨアンナさんが手ずから焙煎する。
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左から:窒素入りアイスコーヒーのシステムはサイドキック社製。同社はシステム開発当初からヨアンナさんのコーヒーを採用している。/サンドイッチも欠かせない(SEK40〜)。
生産地から労働環境まで、豆はとことんチェックする。
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左から:ヨアンナさんは一回あたり20キロの豆を焙煎。毎回データを記録し、シリアルナンバーを付けて徹底管理する。/返却口にある分別ゴミ箱は、紙、プラスティック、メタル、ガラスに分かれている。/郊外からコーヒーを飲みに週に何回も通う常連客も多い。
「16年前にノルウェーのオスロでコーヒーに興味を持ち、いい豆を探し始めました。ケニアで黒すぐりに似た味の豆を見つけて衝撃を受け、コーヒーの世界にのめり込んでいったんです」とヨアンナさんは振り返る。
当時、コーヒーの味の違いについての情報はまったくなかったが、旅をしながらたくさんのコーヒーに出会い、知識を身につけていった。現在では世界8カ国、21の農場と契約しているが、すべての農場に実際に足を運び、品質だけではなく労働環境や労働賃金も厳しくチェックしているのだという。豆のトレーサビリティ、透明性に定評がある所以だ。
昨年来のパンデミックの影響を受け、一店舗しかないカフェの売り上げは大きく落ち込んだが、反対に海外への豆の販売は伸びているのだという。それもヨアンナさんの焙煎技術と豆を選ぶ姿勢への信頼の証なのだろう。
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左から:コーヒー豆のパッケージ。厚手の箱の中(左)に、店のシンボルカラーの袋(右)が入っている。/窒素の細かな泡を吹き込む「サイドキック・コールド・ブリュー」(SEK45)。クリーミーでミルクや砂糖なしで楽しめる。豆はヨアンナさん好みのエチオピア産「Hunkute」を使用。/人気のドリップコーヒー(SEK42〜50)。約10種類から選べる。
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左から:マジパンとチョコレートで包まれた「ダムスーガレ(掃除機)」という名のお菓子(SEK35)。/アイスラテ(SEK48)は近郊の酪農場の牛乳にダブルエスプレッソを。/カプチーノ(SEK40)。エスプレッソはエルサルバドル産「Los Andes」。
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Joanna Alm(ヨアンナ・アルム)
【浅めの焙煎で豆の美味しさを引き出します】
スウェーデン・コーヒー・ロースティング・チャンピオンシップで三回優勝。世界大会でも2、3、4位に。創業時からのメンバーで2011年に経営権を引き継ぎ共同経営者に。SCA(スペシャルティ・コーヒー・アソシエイション)取締役。著書に『より良いコーヒーのためのマニフェスト』がある。
ドロップ・コーヒー
2009年のオープン以来、丁寧に一杯ずつ淹れるコーヒーが評判を呼び人気を集めてきた。早くからSDGsにも取り組み、豆のトレーサビリティや透明性を徹底管理することでも信頼が高い。
■ https://www.dropcoffee.com
Johan & Nyström/ヨハン&ニーストローム
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窓が大きく入りやすい店舗。真冬以外は、多少寒くてもテラス席で外の空気を吸いながら身体を太陽の方向に向け、ヒマワリのように日光浴する客の姿が見られる。
前出のドロップ・コーヒーから徒歩2分の距離にあるヨハン&ニーストロームはスウェーデンのスペシャルティコーヒーのパイオニア。2004年、ヨハン・ダムガードとヨハン・エクフェルトのヨハン2人とニーストローム兄弟、アンデッシュ・ホルツナーの5人がストックホルムの郊外トゥリンゲで焙煎所として創業した。
まだコーヒーの流通や品質に興味を持つ人が少なかった当時、「スウェーデンはコーヒー好きな国なのに本当にいいコーヒーがない」と生産者を探すことからスタート。コーヒー豆数袋から始まった農家とのつきあいも10年以上となり、今では取引もコンテナ規模になった。「農家からカップに注がれるまでのすべての過程を透明化し、安い賃金で働かされていた農家の暮らしを良くすることでコーヒーの品質を上げてきました」と現CEOのヨハン・モレンさんは胸を張る。
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左から:ノーベル賞の晩餐会に7年連続で選ばれたスマトラ産ガヨマウンテン(SEK185)。/シングルオリジンは、旬の時期のみの季節限定販売(SEK155〜)。/丁寧にペーパードリップ(SEK50)するバリスタのセルゲイ・ミナコヴさん。
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左から:スウェーデンの定番カルダモンロール(SEK38)。フィーカに人気だ。/シングルオリジンにはドリップバッグ(SEK22)もあるので手軽に試せる。
シングルオリジンの味を、一人ひとりに伝えてきた。
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店舗デザインはノートデザインスタジオが手掛けた。エスプレッソ、抹茶ラテなども揃う。
この店舗をオープンした2010年からは、講座やワークショップを開くほか、バリスタたちは客一人ひとりとの交流を大切にし、一杯のコーヒーを淹れる数分の間に豆の特徴や原産国、淹れ方などロースタリーならではの知識を伝えてきた。そうして、それまで大きなポットで淹れる深いローストのコーヒーしか知らなかったスウェーデン人にシングルオリジンのコーヒーの味を浸透させたのだ。
パンデミックの影響でレストランやカフェへの卸販売は半減したが、店舗での売り上げは、席数を半分に減らしたにもかかわらずテイクアウトや豆の販売に支えられ、20パーセントしか落ちなかったという。パンデミック下でも常連客はきちんとお洒落をして店を訪れ、バリスタと新しい情報を交換し客同士でコーヒー談義を交わす。店が育ててきたそんな熱いコーヒーファンに、この店は支えられている。
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左から:同じエリア、セーデルマルム地区で手作りされている「ペーランズ」のキャラメル(SEK11)。/「この店のコーヒーがないと」という常連客のひとり。/いつもはお茶派だという2人。お茶は10種類ほどが揃い、それを目当てに来る客も多い。
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Johan Morén(ヨハン・モレン)
【生産者を守りコーヒーの味を向上させています】
経済を学んだ後、畑違いのコーヒー業界にはまり2013年に入社。セールスやプロダクトマネージャーなどを経験し2018年にCEOに就任。「コーヒーの知識を伝えることで、コーヒーにこれまで以上の味わいが生まれ、感じ方も変わってくるのです」と同社の方針を説明する。
ヨハン&ニーストローム
2004年創業。スウェーデンにおけるスペシャルティコーヒーのパイオニア的な存在だ。国内にカフェ3店舗のほか、一人当たりのコーヒー消費量世界一のフィンランドのヘルシンキにも店舗を構える。
■ https://johanochnystrom.se
Vete-Katten/ベーテ・キャッテン
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旧館につながるクングスガータンからの入り口。
ストックホルム中央駅から近いクングスガータン(王様通り)に、1928年創業の老舗、「小麦粉の猫」の名を持つベーテ・キャッテンはある。
創業少し前の1921年、今からちょうど百年前にスウェーデンでは全女性に選挙権が与えられた。とはいえまだまだ女性経営者は珍しかったこの時代に、エステル・ノードハンマーは女性の働く権利を守るべくこの店を開いた。創業時から1961年にエステルが後進に経営を譲るまで、従業員は女性のみだったという。
長い歴史を持つこの店の常連客の8割方が注文するのは「ポートール(おかわり)」と呼ばれるスウェーデン式の深煎りブレンドコーヒー。一杯分払えばおかわり自由の、伝統的なカフェではおなじみのスタイルだ。スウェーデンの生活に欠かせないコーヒー習慣「フィーカ」をゆっくり楽しむために生まれた仕組みと言えるだろう。
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左から:制服にはメイド服の面影が残る。右からイサベラ・アウルさん、ヴェンデラ・フリスクさん、メリエム・ジャナティさん。後ろはベーカーのベント・カールソンさん。/旧館では創業当初から変わらないスタイルでポットから客が自分でおかわりを注げる。/1970年代からの常連客。カルダモンロールとコーヒーが定番だ。
愛される伝統を守りつつ、新しい味を提供する。
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旧館のセンターテーブルは丸テーブルの上に花とペンダントランプで暖かな雰囲気。
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左上から:伝統的なプリンセストータ(SEK54)。外側の緑はマジパンで、内側はスポンジとクリームにラズベリーの風味。/ラテ(SEK41)には大手アーラ社の牛乳を使用。/カルダモンロール(SEK32)。/カスタードクリームとブルーベリーの焼き菓子、ブルーベリー・バニラ(SEK38)。/アーモンドペースト、カルダモン入りシナモンロール(SEK32)。
コーヒーは老舗ブランド、アルヴィッド・ノードクィストのKRAVマーク(自然、動物、人間への配慮が行き届いたものに与えるスウェーデン独自の認証)付きでフェアトレード認証の豆を使用。この深煎りコーヒーにスウェーデン人は牛乳を少し入れ、おかわりも楽しむ。そんな昔ながらのコーヒーを目当てに通い続けるファンも多い。
伝統を守りつつも、ケーキの味は少しずつ進化している。創業者エステルが掲げた「すべての人のためのカフェ」を引き継ぎ「後世に伝えたい」という現オーナーのヨハン・サンデリンさんだが「ケーキの素材や技術は百年で進歩しました。常にそのとき美味しいものをお出ししています」とパティシエとしてのプライドをのぞかせた。
古き良き伝統に新しい時代を少しブレンドする。その絶妙なバランスが古くからのファンのみならず新しい客をも引きつけてやまない。
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左から:壁にかかる創業者エステル・ノードハンマーの写真。階級関係なく「万人に楽しんでもらう」ことを理念にしていた。/様々な年代や様式の家具が使われている。昔から通う人々からは少しリノベーションするだけでクレームが来るそうだ。
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Johan Sandelin (ヨハン・サンデリン)
【美味しいケーキをたっぷりコーヒーでお楽しみあれ】
1997年よりパティシエとして働いてきた店を2012年に受け継いだ。パティシエのスウェーデンチームの代表でもあり、Coupe du Monde de la Pâtisserieではヨーロッパ大会3位、北欧大会優勝、ワールドカップ7位などの成績も収めている。
ベーテ・キャッテン
伝統的なスウェーデンの焼き菓子やケーキを楽しめる、ストックホルムっ子なら誰もが訪れたことがある老舗カフェ。1928年、女性の働く権利を求め女性経営者が創設したベーカリーが前身だ。
■ https://vetekatten.se
Café & Bageri Pascal/カフェ&バゲリー・パスカル
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今日は久しぶりに会ったという昔なじみの二人。「雰囲気の良いカフェを見つけて立ち寄った」そうだ。密を避けるために席数を少なくしているため、外で待つ客が絶えない。
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左から:スワンが得意なホーカン・セーブリンドさん。/「本日のコーヒー」にはロースタリー名、原産国、味の特徴を明記。
「フィーカ」に欠かせないシナモンロールやカルダモンロールは不動の人気だが、フランスのペストリーの人気も近年高まり、ペストリーを売りにするカフェも増えている。
セロピアン兄弟がセーデルマルム地区のSOFOと呼ばれるクリエイティブで活気あるエリアにカフェ・パスカルの2号店として2019年にオープンさせたのは、焼きたてが楽しめるカフェ&ベーカリー。ドリンクは頼まず、焼き菓子やペストリーだけを食べに来る客もいるほどの人気だ。
等身大にひとつずつ、たゆまず成長を続けていく。
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左から:ペストリーには季節の果物を。/「コピ」「MOK」の豆(ともにSEK180)、カフェオリジナルの豆(SEK160)。
原材料は国産にこだわり、なるべく近くの農家から購入するという。小麦粉はストックホルムから100キロ西のヴァーブロ・クヴァーン農場から、乳製品は100キロ北のロースラグスミョルクから取り寄せている。
「焼き菓子には常に新しい流行を取り入れたいので、日本の抹茶や柚子なども試しています」とアルマンさん。パン生地を低温でゆっくりと発酵させて美味しさを追求するなど、より良いものを目指す研究にも余念がない。
コーヒーは「コピ」「MOK」などマイクロロースターの豆を使用しているが、今年から週に一度、自分たちでもローストを始めた。「自分たちにできること」をひとつずつこなし、地域に根ざしたカフェの経営を成功させてきた。「ブラジル、エチオピア、ケニアなどで農園を見つけ、透明性のある流通で良いコーヒーを作りたい」とゴールはさらに先に設定する。
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左から:クロワッサン卵サンド(SEK67)。/焼きたてクロワッサン(SEK32)にラテ(SEK45)は朝に人気だ。
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オーナー Hosep Seropian(ホセップ・セロピアン)
オーナー Arman Seropian(アルマン・セロピアン)
オーナー Jannet Seropian(ジャネット・セロピアン)
【焼きたてのパンとお菓子を出しています】
ストックホルムから南西に200キロの街、リンショピング出身。「パスカル」という店名は1672年にコーヒーをパリに紹介したと言われるパスカルにちなんだ。「我々も彼と同じくアルメニア出身。親しみを感じています」
カフェ&バゲリー・パスカル
セロピアン三兄弟が2012年にノルマルム地区のオーデンプランで開業したカフェ・パスカルは地元紙のベスト・カフェ2015に選定された人気店。この2号店では、ペストリーをメインにすえた。
■ https://cafepascal.se