COFFEE BREAK

文化

文化-Culture-

2018.04.18

コーヒー焙煎士、パリの流儀 Vol.6

実直に硬派に、「豆の物語」を伝える。

Ivan ALFARO
イヴァン・アルファロ

1959年ペルー・リマ生まれ。母国で20年以上生豆の商品化・品質管理に関わったのち渡欧。2016年に自家焙煎カフェ『アン・グラン・デカレ』をオープン。

生産国からの視点で自身の仕事を見つめる、ペルー人焙煎士。
彼には焙煎技術よりも重要なものがある。それは「豆の物語」 だ。美食の都で活躍する、個性豊かな仕事人たち。その流儀に迫る連載。

 コーヒーショップの隆盛に伴い、独立系の小規模焙煎所が数を増やすパリ。6区商店街にある自家焙煎カフェ「アン・グラン・デカレ」は、中でも硬派で知られる店だ。店長兼バリスタのロール・プレノーは国内コンクール入賞者で、若手バリスタの教育役。焙煎士イヴァン・アルファロはペルー出身、生豆の商品化や品質管理を手がけて20年のキャリアを持つ。
 この二人がコーヒーを語る言葉は、どの店よりもテクニカルで具体的。酸味、苦味、甘味を度数で表し、パリのコーヒー関係者が好むような、ワイン的な修辞を用いた賞味表現(ベリーのような酸味、チョコレートがかった苦味......)は一切出てこない。
「コーヒーの味は酸味・苦味・甘味の指数で示せます。それ以外の表現は全て主観です。僕たちはお客さんに、客観的なコーヒーの美味しさを伝えたいんです」と、アルファロは語る。
 彼のもう一つの信条は「シングル・エステート」の豆選び。店では9カ国の豆を扱うが、どれも選択基準は国ではない。一番重要なのは、生産者のあり方。取引の前に、彼らの畑での作業や生活ぶりを細かく調べるという。
「豆の出自にスポットが当たり、シングル・オリジンという言葉が一般的になりました。でもこの言葉の実態は、従来の大量生産方式と大差ありません。同じオリジンにも様々な生産者がいる。オリジンが示すのは豆の特徴の違いだけ。どこの豆であれ、生産者次第で美味しくもまずくもなるのです」

生産者の生活を、向上させたい。

 生産者を注視するアルファロの視点は、彼の来歴による。
「ペルー人にとってコーヒーは、売るための産物。7ヘクタールの農地から得られる年間収入は4500ドル(約40万円)です。コーヒー豆は、貧しい人々の生活の糧なんです」
 その国で長年、生豆の商品化に関わってきたアルファロは、生産者の生活を向上させる実直な商いを願っている。
 そんな彼が焙煎作業の最初に行うのは、「豆の物語」に従った焙煎計画を作ること。産地、高度、農園の特徴を書き記しながら、その豆の来歴に思いを馳せる。どんな地で生まれ、誰の手を経てここに来たか。その豆の特性が最も生きる焙煎温度と温度の上昇時間を分刻みでシミュレーションし、書き記す。精緻で細やかな仕事ぶりには、「職人」の言葉がよく似合う。

焙煎計画メモ
焙煎仕事の最初に作成する、焙煎計画。この日の豆はペルー産、高度1500メートル栽培のゲイシャ種カフェインレス豆だ。メモ自体は単純な数字の羅列。1回の焙煎ごとに1ページを使う。

焙煎機のスコップ
「焙煎士が一番手を触れる道具だから」と、スコップをチョイス。焙煎中に何度も取り出してみることで、細やかな豆の変化をキャッチする。データには見えない感覚が試される場面だ。

カッピングスプーン
ブラジリアンテイスティング用のスタンダードなスプーン。「約7gのコーヒーが掬えるサイズ。よくすすれるようになっていますね」。焙煎結果を自分の舌で確かめ、微調整する必需品。

Un Grain Décalé
アン・グラン・デカレ

パリ6区の商店街に位置する自店には、焙煎スペースがない。知人の店で焙いた豆をエスプレッソ、フィルターなど様々な抽出法で提供する。
3, rue Vavin 75006 Paris
https://www.facebook.com/ungraindecale/

文・髙崎順子 / 写真・村松史郎
更新日:2018/04/18

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