COFFEE BREAK

文化

文化-Culture-

2016.08.18

環境先進国ドイツ、未来への取り組み。

コーヒー&エコロジー
環境先進国ドイツ、未来への取り組み。

家賃が安いため、クリエイターや移民の家族など多彩な顔ぶれが入り交じる地区にある店。余った食材を使ってお客が皆で料理を作ったり、交流も盛んだ。

リサイクル大国でもあるドイツだが、近年、増え続けるゴミに悩まされている。そこに登場したのが、コーヒーを軸にした、エコプロジェクト。カフェに集う人たちから、未来を変える小さな動きが始まっている。

 いまドイツでは、ゴミ問題が深刻化している。特にプラスチックなどの包装ゴミは国民1人あたり年間200kg以上と、10年前に比べて25kgも増加。ここ数年は、コーヒーのテイクアウト用紙コップが問題視されている。リサイクルが盛んな国だが、増え続けるゴミの量にはとても追いつかない。首都ベルリンでは、カフェを中心にゴミを減らすさまざまな試みが始まっている。

緑のカフェを通じて広がる、ゴミを減らす試み。

天気がいい日は、いつも満席。菜園は1年契約で賃貸が可能。ヒンメルベート所有の区画はお客が自由に収穫して、お金を払う。

左:栄養たっぷりで肥料に最適ともいわれるコーヒーのかすをコンポストに。/右:堆肥に混ぜるために地元の焙煎所からもらってきたゴミ(コーヒー豆の薄皮)。空気を含みやすくなる効果があるとか。

 中でも「ヒンメルベート」は、先駆者的な存在だ。使われなくなった運動場の1700m²の敷地に約300の苗床を並べ、2014年にスタートしたアーバンガーデン。併設のカフェでは、ゴミを減らす試みが行われている。

 テイクアウト用の紙コップや紙皿を一切使わないだけではなく、コーヒー豆や野菜などの食材も近隣の作り手から直接仕入れることで、運搬用の包装ゴミを減らす。食材ゴミはすべてコンポストにして苗床の肥料に。特にコーヒーのかすは、窒素やリン、カリウムが豊富で肥料には最適だそうで、苗床を借りて作物を育てている人にも好評だ。カフェの建物自体にも使用済みの運搬用パレットと粘土という完全リサイクル可能な建材を使用する……など、かなり徹底しているのだが、店ではこのプロジェクトについて声高にうたってはいない。あくまでも主役は美味しいコーヒーと、庭で摘んだハーブなどを使った軽食、開放感あふれる都会のオアシスのような空間なのだ。

カフェ経営担当のヨナス・フレトットさん。スタッフはボランティアが大半だ。

 しかし、緑の中でコーヒーを飲んでいると、庭の片隅で食材ゴミを刻んでコンポストを作っている子どもや近隣の農家の姿が目に入る。ヒンメルベートはここに集まる人たちの心に自らのゴミ習慣をふりかえる、小さな種をまいてくれているのだ。

左から:屋上では養蜂家が蜂蜜を集める。蜂蜜はカフェで販売。/庭のハーブを散らした日替わりランチ。/ベルリンの建築家が設計したリサイクル建築は、2015年の連邦ドイツ建築賞を受賞。 himmelbeet.de


リユースバケツを使えば、
もっとゴミは減らせるはず。

各地の焙煎所が集まり5つの生産国から豆を直輸入する「ロースター・ユナイテッド」のメンバーでもある。年に1度は生産者を訪ねる。

左:右からナディンさん、ゲオルクさん、オリバーさん。/右:車の修理工場跡地を改装した焙煎所は隠れ家的な立地だが、地元民を中心に口コミで人気。 www.flyingroasters.de

 コーヒーを飲む前から、ゴミを減らす工夫は始まっている。味はもちろんリユース可能な容器での納品や、パッケージのリサイクルといった環境に配慮した活動で高い評価を受けているのが「フライング・ロースターズ」だ。

 煉瓦造りのビルの一角に2015年にオープンした小さな焙煎所。香ばしい匂いが漂う入り口の前には、使用済みパッケージの回収ボックスと植木鉢が並んでいた。

「煎りたての豆の香りと鮮度を保つためには、どうしてもコーティングした袋で包装しなければいけない。でもこの袋はリサイクルが難しいのが悩みでした。そこでリサイクルしにくいゴミを専門に扱う「テラサイクル」に回収を依頼するだけでなく、少しでも自分たちで再利用のアイデアを出して、買ってくれる人に伝えたいと思って」と、焙煎マイスターのオリバー・クリッシュさんは言う。水分を逃がさない作りになっているコーヒー袋を植木鉢として活かせないか、実験中なのだ。また、飲食店への納品はリユース可能な2kg入りのバケツの使用を推奨して、包装ゴミの削減に努めている。

「卸先の方針にまで口出しはできないけれど、自分たちができる範囲でゴミを減らしたい」とオリバーさん。

 焙煎所の近くのオーガニックカフェをはじめ、市内の数店舗がこの試みに賛同し、輪は少しずつ広がっている。個人でも、タッパーウェア持参で焙煎所まで買いに来る人もいるそうだ。

小さな力が集まって、大きなムーブメントになる。

左から:リユース可能なバケツでの納品。回収や納品時の会話も増えて交流が深まる。/アロマを逃がさない加工を施した袋はリサイクルが難しいので、アップサイクリングを試みている。/環境団体に依頼して設置を始めたパッケージのリサイクル回収ボックス。

コーヒーかすを肥料に。焙煎時に出た薄皮はコンポストにしている。

 焙煎担当のオリバーさんとゲオルク・ルームさん、試飲や販売、宣伝を兼任するナディン・ヘイマンさんというたった3人のメンバーで経営する同店だが、欧州各地の7つの焙煎所と共同で、小規模農家から生豆を直輸入する「ダイレクト・トレード」も行っている。実際に農家を訪ね、品質と味、そして人柄を確かめて納得したうえで豆を買いたいと思っているからだ。

「ドイツでは近年、オーガニックなどの認証制度に懐疑的な人も増えています。うちで扱う豆はオーガニックですが実際に生産現場を見ているので、胸を張ってほかの人の手に渡すことができる」とナディンさん。焙煎所自体は目が届く規模のまま、仲間とともに世界中のコーヒー豆農家と知り合っていきたいと意気込む。ゴミを減らす工夫もしかり。小さなロースターから世界へと、大きな輪が広がっていくのだ。

コーヒーカップやきのこ栽培。
"コーヒーのかす"が資源に変身。

デザイナーのユリアン。イタリア留学の際に、大学前の行きつけのカフェでこのアイデアを思いついたという。2015年にカフェフォームを立ち上げた。

耐熱性も高く、食洗機に入れても壊れない。

左:エスプレッソカップのほかカプチーノ用の大きめサイズも開発中。 /右:コーヒー豆を入れる袋に入っていて、開封すると香ばしい匂いがする。1セット20ユーロ~。www.kaffeeform.com

 ドイツ人の1人あたりの平均年間コーヒー消費量は、6.5kg。飲んだ後のコーヒーのかすもただ捨ててしまってはもったいないと、再利用するプロジェクトが次々と登場している。
「カフェフォーム」もその1つ。ざらりとした独特の質感と深い焦げ茶色が印象的なエスプレッソカップは、手に持つと、ほんのりとコーヒーの香りが漂う。実はこのカップ、なんとコーヒーのかすでできているのだ。
 考案したのはベルリンのプロダクトデザイナー、ユリアン・レヒナー。「最初はコーヒーかすを砂糖で固めて成形したんです。カフェに欠かせない素材で作るというコンセプトは良かったのですが、コーヒーを注いだら、当然ながら溶けてしまった」と笑う。

 改良を重ね、コーヒーかすとリサイクルしたセルロースと木の繊維などを混ぜ合わせ、熱を加えて鉄型で成形する現在の形に落ち着いた。エスプレッソカップ1個につき、60g(エスプレッソ約6杯分のかす)が使われている計算になるそうだ。コーヒーかすは行きつけのカフェから、1日あたり約5kgを引き取っている。香り高いカップはコーヒー好きへのプレゼントとして好評を博し、昨年1年で約7000個を売り上げた。時には、お気に入りのコーヒーでカップを作ってほしいというリクエストもあるそう。現在は、テイクアウト用のリユースカップの開発も進め、さらなるゴミ削減のために努力している。

コーヒーから生まれる、ゴミ問題への明るい光。

左:コーヒーかすの回収や市場での販売には自転車が活躍。/右:ハーブなどに比べ、目に見えて成長がわかりやすいきのこは自由研究にも人気とか。

左:肉厚のヒラタケや、美しい色合いのトキイロヒラタケなど種類は様々。あまり見かけない種類なのが嬉しい。/右:植木鉢に移してもよく育つ。 www.pilzpaket.de

 コーヒーのかすを使って小さな畑を生み出しているのが「ピルツ・パルケット」だ。ドイツ語で「きのこの小包」という名のこの商品は、コーヒーのかすで作った人工培地にきのこの種菌を植えた、栽培キットである。小包サイズの箱を一部開封し、霧吹きで水をかけて、待つこと5日。にょきにょきときのこが生えてくる。約10日間で収穫できる大きさになり、1つの小包から4回、約300gほどが採れる。香り高い新鮮なきのこはどんな料理法でも美味しく、コーヒーが持つパワーでぐんぐん成長する様子が、特に子どもたちに人気があるのだそうだ。

 ゴミは本当に大きな問題で、1人の力ではとても解決できない。しかし、皆が自分のゴミ習慣を少しだけ見直してみたらどうだろう。コーヒーを楽しみながら、自分でやれることがきっと見つかる。ドイツの例を見ると、美味しいコーヒーを軸に未来が少しずつ変わっていくのが、実感できるのだ。

ハンブルグの市政府では、カプセルコーヒーがNGに。

年間30億個、約5000トンものリサイクルしにくいゴミを減らしたい。一回使ったらポイ、そんなメンタリティに警鐘を鳴らす。

ハンブルグ市環境大臣
イェンス・ケルスタン氏

 今年1月にハンブルグ市政府が発表した「環境に負担をかけない供給への手引き」は、ドイツ国内外で大きな話題を呼んだ。世界中で大人気のカプセル式コーヒーの購入を禁止していたからだ。この手引きをまとめたハンブルグ市環境大臣のイェンス・ケルスタン氏に話を聞いた。

 ドイツ第2の都市ハンブルグは、コーヒー生豆も数多く行き交う貿易港を持つ、ドイツのコーヒー首都でもある。ケルスタン氏も日に何杯も飲むという大のコーヒー党だ。

「特にドリップ式のコーヒーが好きですね。カプセルでなくても、コーヒーを香り高くいれる方法は沢山ありますよ。市当局の調べによれば、2015年はドイツ国内だけで30億個ものコーヒーカプセルが消費されたそうです。このカプセルがアルミニウムとプラスチックを混合した、リサイクルしにくい素材でできていることも問題でした」

 年間約2億5千万ユーロという市の予算を、もっと環境に配慮した使い方ができないか、見直すために作られたこの「手引き」。カプセル式コーヒーだけでなく、ペットボトル入りの水なども禁止対象になっている。

「禁止することによってどれくらいのゴミが減るのか、具体的な数字はまだわかりませんが、無駄な包装ゴミへの注意を喚起する措置だと思っています。テイクアウト用の紙カップもそうですが"1度使ったら捨ててしまえばいい"というメンタリティが、資源の浪費につながっているんですよ。今回の措置がほかの町や、個人の心にも響いて、別のコーヒーのいれ方に変えたり、自分たちのゴミ習慣そのものを見直してくれたら嬉しいですね」

文 河内秀子/写真 Gianni Plescia
更新日:2016/08/18

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