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コーヒーと健康

パーキンソン病と、コーヒーの関係性。

 治療法があまりなく、難病の1つに挙げられるパーキンソン病。コーヒーがその発症を抑える効果をもたらすかもしれない。

 神経変性疾患(脳の特定の神経系が進行性に神経細胞死を起こす疾患)のなかで、アルツハイマー病に次いで患者数が多いパーキンソン病は、脳に異常が起こり、体の動きに障害が現れる。患者は、手足が震える(振戦)、動きがなくなる(無動)、動きが少なくなる(寡動)、筋肉が硬くなる(筋強剛)などの運動障害に悩まされる。

 ところが、コーヒー成分がパーキンソン病の発症を抑えたり、発症するとしても時期を遅らせる可能性がある。岡山大学大学院 医歯薬学総合研究科 脳神経機構学分野教授の浅沼幹人さんに、2年前(91号)にお聞きした研究の「その後」を伺った。

動物と培養細胞の、「たすき掛け」実験。

 浅沼さんは、神経変性疾患の一種であるパーキンソン病を阻止する薬剤・物質の研究を行なっている。

 自らの意志でうまく体が動くように調節を指示しているのが神経伝達物質の「ドパミン」だ。しかし、パーキンソン病になるとこのドパミン神経が減り、ドパミンが十分につくられない。パーキンソン病患者は、中脳にある神経核「黒質」のドパミン神経が変性脱落しているからだ。

 浅沼さんたちは、前回はパーキンソン病発症の環境要因の1つと考えられている農薬の「ロテノン」を慢性投与してつくった①パーキンソン病モデルのマウスと、②ロテノン添加消化管初代培養細胞を用いた、2つの実験を行なった。

 ①ロテノンを投与したパーキンソン病モデルのマウスに、コーヒー酸とクロロゲン酸を1カ月投与して脳を調べると、コーヒー酸、クロロゲン酸ともに黒質のドパミン神経の脱落を抑制する効果が認められた。そして、②あらかじめコーヒー酸とクロロゲン酸を24時間添加した消化管初代培養細胞にロテノン添加を行ない、48時間培養して変化を見た。こちらもロテノンによる神経細胞死を防ぐ効果が認められた。

 今回は、さらに2つの新たな実験を行なった。③ロテノンを投与したパーキンソン病モデルのマウスを用いて末梢の「消化管」を見るものと、④ラットの脳の神経細胞にロテノンを添加した培養細胞を見るもの。いずれもコーヒー酸とクロロゲン酸を投与する。

 前回は「マウスの脳」と「培養細胞の消化管」、今回は「マウスの消化管」と「培養細胞の脳」を対象としている。つまり、動物と培養細胞、脳と消化管の「たすき掛け」の実験を終えたというわけだ。

2つの新たな実験で、確認した抑制効果。

 では、まず③パーキンソン病モデルマウスの「消化管」の実験から見ていこう。ロテノンを4週間皮下投与し、コーヒー酸とクロロゲン酸はロテノン投与の1週間前から5週間にわたって経口投与した。図1を見てほしい。赤く囲っているのは、マウスの腸管を動かすための神経が集まっているところだが、ロテノンを投与するだけならば赤い面積は格段に減る。つまり神経が脱落している。ところが、コーヒー酸とクロロゲン酸を5週間投与したマウスの腸管を見ると、健康な状態とほぼ変わらない。コーヒー酸とクロロゲン酸を投与することで、ロテノンによる腸管の神経障害を明らかに抑制するという結果が読みとれる。

 次に、④ラットの脳の神経細胞にロテノンを添加した培養細胞の実験を見てみよう。ドパミン神経を含む中脳の細胞(中脳アストロサイト)にコーヒー酸とクロロゲン酸をそれぞれ添加し、その24時間後にロテノンを投与して48時間培養した。この結果もコーヒー酸とクロロゲン酸をあらかじめ添加しておくと、ロテノンを投与しても通常の状態とはほぼ変わらなかった。つまり、コーヒー酸とクロロゲン酸は神経細胞の脱落を防ぐという結果が出た。(図2)

「ロテノンを投与すると中脳アストロサイトの抗酸化物質『メタロチオネイン』の発現が下がりますが、コーヒー酸とクロロゲン酸をあらかじめ添加しておくと、メタロチオネインの発現が高まりました。メタロチオネインの上流にある『Nrf2』()という転写因子をコーヒー酸とクロロゲン酸が活性化するという報告があり、実際にメタロチオネインの発現が高まることを確認しました」(浅沼さん)

 今回の一連の実験によって確かめられたコーヒー酸とクロロゲン酸による細胞死の抑制効果は「メタロチオネインの発現増加によるもの」と浅沼さんは考えている。

(注)Nrf2:多くの抗酸化因子群の遺伝子発現を調整している転写因子。ストレスを防御するために重要な働きをする。

パーキンソン病を、「入口」から防ぐ。

 実験結果を「予想通り」と言う浅沼さん。ただし、当初より深いところまで知ることができたとも語る。
「当初は『脳』に焦点を当てて、中脳のドパミン神経への保護効果を見ようと考えていましたが、ロテノンのパーキンソン病モデルマウスは脳だけでなく消化管の神経変性も引き起こすことがわかったのです。そこで腸管の神経細胞の変化に対する効果も調べましたが、これほどきれいな結果を示せたという意味では予想外でした」

 最近、パーキンソン病の神経障害は脳よりも先に「末梢の腸管から始まる」とも考えられているそうだ。その意味でも意義のある実験だったと浅沼さんは振り返る。
「コーヒー成分が真っ先に影響するのはやはり腸管でしょう。すると、コーヒーを飲むことはパーキンソン病を『入口』から防ぐ可能性があることを示すことができたといえます」

 そもそもコーヒーなど嗜好飲料を多く摂る人のパーキンソン病発症率は、摂らない人に比べ40~50%も低いという疫学的データがある。それとも合致する今回の研究結果は、実に興味深いものといえるだろう。

浅沼幹人(あさぬま・まさと)
岡山大学大学院 医歯薬学総合研究科 脳神経機構学分野 教授。博士(医学)。岡山大学医学部卒業。専門分野は神経薬理化学。加齢に伴う神経疾患の病態や神経保護について、動物モデルや培養細胞を用いて研究している。

文 前川太一郎 / イラスト 西田ヒロコ
更新日:2020/04/16



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