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コーヒー海外事情

バリ島・ウブドゥから。生産地発信のコーヒー文化。

バリ島・ウブドゥから。生産地発信のコーヒー文化。

世界第4位のコーヒー生産量を誇るコーヒー大国インドネシア共和国。その中にあってバリ島は有数のリゾート地としてコーヒー文化も極めて先端的だ。そこには生産国ならではの事情があり、強みがある。

Seniman Coffee Studio
スニマン・コーヒー・スタジオ

開店早々の時間帯、窓際の席に陣取ったパヴィリナさんはチェコから来た長期滞在者。アイスラテを飲みながら観光プランを練る。

 近年、新しいカフェやレストランが次々とオープンし、ウブドゥの中でもホットな界隈となっているスリ・ウェダリ通りにある。バリの伝統的な装飾とポップなアートが融合したインテリア。顧客の在住外国人とツーリストがその雰囲気にカラーを与える。よくトレーニングされたスタッフが淹れるコーヒーは、ハンドドリップ、サイフォン、エスプレッソと多様なスタイル。いずれも生き生きとして、豆の個性を存分に味わえる。

左から:カフェの向かいにあるロースタリー。煎りたてが店に。またここがワークショップの会場でもある。/古式ゆかしいサイフォンがリバイバル。/通りに面したテラス席。店は2階部分がメインフロアになっている。

ソーシャルな役割を果たす、コーヒーの可能性を信じて。

メインフロアの大テーブルを囲む多彩な人々。ウブドゥらしい光景だ。

左から:フラット・ホワイトを運ぶスタッフのアリットさん。コーヒーには小菓子と水が付く。/マネージャーのレオ・ウィリーさん。ホテルマンから転身してきた。

 木彫のアーティストでもあるオーナーのロドニー・グリック氏はオーストラリア人。インドネシア産コーヒーのポテンシャルを認め、その魅力を高め内外に紹介することをこの店の使命と考えている(コラム参照)。契約農園に出向き、農薬を減らす方法や適切な収穫の仕方を指導することでコーヒーの品質を上げるよう方向づけも行なう。

 グリック氏のアピールはカフェに留まらない。隣のバーではコーヒーを使ったオリジナルカクテルを出し、通りを挟んだ向かいに開いたロースタリーではラテ・アートなどが学べるワークショップを行なっている。また、コーヒーを通じたサスティナビリティの実践にも重きを置いている。飲み水用のグラスはビール瓶をリサイクルしたものだし、ストアで販売している石鹸はコーヒーの出し殻や残った牛乳、フードメニューで使ったオレンジの皮を原料にしたものだ。

「コーヒーには社会をより良くする媒体になる可能性がある」とグリック氏は言う。気持ちの良い風の通るテラス席や寛げるデイベッドの席で美味しいコーヒーと仲間との語らいを楽しむことが社会変革への貢献になるなら、これほど喜ばしいことはない。

左から:バリ島キンタマーニ、スマトラ島アチェ、ジャワ、フローレス等々、インドネシア各地のコーヒー豆が並ぶ様は圧巻。/フルーツがふんだんに入ったミューズリー。/スニマン・スタイルのオートミール・ポリッジ。


Seniman Coffee Studio
スニマン・コーヒー・スタジオ

コーヒー農園へのコミットメント、インドネシア産コーヒーへのこだわり、持続可能型ビジネスの追求……独自のコーヒー哲学を持つオーナーの思いがこもる場所で顧客はカップの内外にインドネシアの粋を見出だす。
■ https://www.senimancoffee.com

Tony Raka Art Lounge
トニ・ラカ・アート・ラウンジ

左から:カフェラテをサービスするスタッフ。メニューにはエスプレッソドリンクだけで12種類が載る。/中央の男性がビマさん。今のところ、アートよりもコーヒーに夢中とのこと。/庭に面したカウンター席。開放感満点。

入り口の右手にある空間はテーブル1つだけのゆったりとしたレイアウト。アートを独占できる贅沢!

「木彫の村」として知られるマスに2018年オープン。元々1997年に開業したアートギャラリーがあり、「そのリビングルームとしてカフェを作った」と語るオーナーのトニー・ハルタワン氏は木彫の名手を祖父に持つ芸術家であり、世界中のアートを収集するコレクターでもある。ハルタワン家の住居を含む1万3000平方メートルの敷地内には、ギャラリーやカフェの他、ジャワから移築した伝統家屋を使ったイベントスペースなどがある。広々とした庭を眺めつつ散策することができるのも嬉しい。

ファミリーの暮らしを、見てもらいたい。

ココナツミルクに浸した黒米のポリッジにアイスクリームを浮かべたブブール・インジン。/アイス・エスプレッソ・抹茶。

「1965年からこの地で暮らしています。わがファミリーの暮らしを皆さんに見ていただきたいというのが私の考えです」とハルタワン氏。

 カフェはこのエステートのレセプションでもある。明るく開けた雰囲気があり、気軽に立ち寄れて、ギャラリーへの良い導線にもなっている。コーヒーと食事はハルタワン氏の息子のビマさんが担当している。インドネシア国内の大会でも好成績を収めるバリスタのワヤン・サンタナ氏に師事し、研鑚を積んだ。ビマさんの淹れるコーヒーは軽快で、ピュアなフレーバーを持つ、現代的なスタイルだ。豆は島内のものがメイン。本格的なインドネシアの伝統料理をモダンに昇華させたフードメニューも充実。ナシ・クニン(バリのハレの日の伝統食)のレシピはハルタワン氏の母親のものを採用。暮らしを見てもらいたいというオーナーの意図がここにも表れている。

左から:マニュアル・ブリューは4種。こちらはサイフォンで淹れたもの。/オーナーの母親のレシピを生かしたナシ・クニン。/オーナーのハルタワン氏。民族的なアートを主に収集。


Tony Raka Art Lounge
トニ・ラカ・アート・ラウンジ

アートギャラリーのリビングルームというコンセプトで建てられたカフェ。伝統とモダン、ローカルとグローバル、リアルとイメージが融合した暮らしとアート。バリの魅力のエッセンスに浸りながらコーヒーを啜る。
■ https://www.tonyraka.com/art-lounge

Bali Pulina Plantation
バリ・プリナ・プランテーション

左から:テラスの縁に立つスタッフのスマワティさん。背後は見渡す限りのグリーン!/熱帯雨林に張り出したテラス席。この辺りは標高が700mほどあって、平地よりもかなり涼しい。

 ウブドゥの中心部から7㎞ほど北に位置するテガラランは、峡谷沿いに開かれたライステラスの景観で知られるところ。ツーリストがスマートフォン片手に群がるビューポイントの少し先の森を開いて、2011年にオープンしたこの施設は「コーヒー・テーマパーク」といった趣だ。

 一対の狛犬ならぬ豚の石像が脇を固める門を潜るとすぐに見えてくるのは、なんと、いくつもの檻。中にはジャコウネコが飼われている。黒いイタチのような姿をしたこの動物の習性を利用して作られるのが、コーヒー界きっての珍味、コピ・ルワックだ。ジャコウネコはコーヒーの果肉が好物。種子(豆)ごと果実は食べられるが、豆は完全には消化されずに排泄される。排泄物の中から豆を集めて洗浄・乾燥させたものを焙煎してコーヒーにするのだ。イメージ的には美味とは程遠いかもしれないが、動物の体内での適度な分解・発酵を経て、コーヒー豆は旨味を増し、口当たりがマイルドに。手間がかかり大量生産ができないため、価格は普通のコーヒーの5倍前後になる。

左から:ジャコウネコ。/アイスクリームはココナツの実に盛られて登場。カカオも自社で生産している。/フレーバー・コーヒーなど10種類の飲み物が試飲できるセット。

コーヒーの育つ環境で、コーヒーを味わうという体験。

左から:開放感は全てのテーブルに共通する。/炭火の上でコーヒー豆を焙煎するデモンストレーション。ガイド付きで敷地内を見学するツアーもある。

左から:バリ伝統の木彫が施された堂々たる門。ここから先は表の喧騒とは別世界という造りがいかにもバリらしい。/ジャコウネコの習性を使って作られるコピ・ルワックはこのコーヒー農園の目玉。

 ジャコウネコ・コーナーの先には山肌に沿ってコーヒーの畑が広がる。枝についたコーヒーの実が見られるのは生産国ならでは。さらにコーヒーの伝統的な製造工程を紹介する展示が続く。炭火が赤々と燃えるかまどに置かれた土鍋で焙煎のデモンストレーションが行われ、あたりには香気が漂う。

 原料と工程の理解を深めたら最後は一番奥のウッドテラスの席で一面熱帯グリーンの絶景を堪能しながらコーヒーを飲むという趣向だ。生姜や朝鮮人参などで風味を付けたフレーバー・コーヒーや紅茶、チョコレートドリンク(カカオも同農園で栽培)、全10種を試飲できるセットがお勧め。コピ・ルワックは別メニュー(単品)で。

Bali Pulina Plantation
バリ・プリナ・プランテーション

コーヒー畑、加工のプロセスを見学し、緑の森に浮かぶ夢のようなセッティングで美味しいコーヒーを味わう。生産国だからこそできる「コーヒー・ツーリズム」。この動きは今後ますます広がりそうな予感がする。
■ https://www.facebook.com/Cafemokasanjose/

Juria House Café
ジュリア・ハウス・カフェ

左から:この日のコーヒーはシングル・オリジン4種。フローレス島のイエロー・カトゥーラ(果肉が黄色い品種)もあった。/店内には在りし日の平川氏の写真が置かれている。

 一昨年、惜しまれつつこの世を去った一人の日本人コーヒーハンターがいた。その人の名は平川隆一。30年ほど前、テレビの番組制作の仕事をしていた頃コーヒーの魅力の虜になり、趣味でコーヒーを探究。引退後はさらに本腰を入れて、産地に出向くなどしていた。そんな彼が「運命的な出会い」をしたのがフローレス島で奇跡的に生き残っていた古木のティピカ種〝ジュリア〟だった。同島マンガライ県の岩だらけの土地に生息するたった数本の樹齢約130年の古木。通常、商業ベースのコーヒー農園では生産性が重視されるため、年老いて実りの減った木は引き抜かれ、若い木に植え替えられてしまう。しかし、ジュリアは人の入りにくい岩場に生えていたのと、地元で消費されるためのコーヒーだったことから、生きながらえた。現地でジュリアの豆で淹れられたコーヒーを飲んだ平川氏は、ブラウンシュガーを思わせる深い甘みと長い余韻に衝撃を受ける。

出会えたらラッキーな、とても貴重なコーヒー。

左から:西ジャワから取り寄せた豆でコーヒーを淹れるスタッフ。淹れ方はハンドドリップと水出しのみ。/狭く雑然としたスペースは友人の部屋に招かれたよう。/ほぼ毎日通ってくるという常連客のディッキーさん。

 この貴重なコーヒーの存在を知らしめ、保存のための援助をすることを目的に、平川氏がウブドゥにオープンしたのが、ジュリア・ハウスだった。当初は単なるカフェというよりはワークショップなどを行うための情報発信基地だった。現在は、平川氏の遺志を受け継いだスタッフが、インドネシア各地の貴重なコーヒーを紹介している。ちなみにジュリアは2年に1度しか収穫が行われず、店に入ってくるのも1回につき20kgだけ。体験することができたら幸運だと思うべきものだ。


Juria House Café
ジュリア・ハウス・カフェ

バリ島での暮らしとインドネシア産コーヒーに惚れ込んだ、今は亡き日本人の想いが結実した店。コーヒーが栽培家やロースター、バリスタのストーリーと共に楽しまれるようになったが、ここにある逸話は出色である。
■ https://www.facebook.com/juriahousecafe/

1,000ルピア=約7.2円(2020年8月現在)

取材・文・写真 浮田泰幸/コーディネート 成瀬潔
更新日:2020/10/12



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