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コーヒー海外事情

ラパス厳選カフェで味わう、アンデスの恵み。

ラパス厳選カフェで味わう、アンデスの恵み。

南米の中でも先住民文化が色濃い標高3600mの街、ボリビア・ラパス。この街では今、アンデス山麓で採れる良質なコーヒーを楽しむ消費文化が開花中だ。趣きの異なる4つのエリアから厳選したカフェを紹介。

Bronze
ブロンセ

古い邸宅の一角に半地下、中二階を設けて、限られた空間を広く利用。

左から:伝統的なチョリータ衣装をまとうアマリアさんは、調理スタッフからバリスタに転身。当店独自の注ぎ方は、適温にするための工夫。/スタッフの制服はTシャツ、手袋、マスクなど黒一色で統一。Tシャツの絵柄はボリビアのティワナク遺跡をリスペクト。

 政治の中枢機関が集まるムリーリョ広場からイリマニ通りを進むと、色褪せた街区の三叉路に立つ白壁のリノベーション建築に行きあたる。近年中にブティックホテルとしてオープン予定の新旧を融合したその建物の1階で営業するブロンセでは、ボリビアの極上の食材と最高級コーヒーが堪能できる。

 オーナーはアートディレクターとしても活動するボリス・アラルコンさん。洗練された美意識とこだわりは、料理、スタッフの接客や内装、建築設計などから心地よく伝わってくる。

「私はここ中心街で生まれ育ちました。喧騒激しく、老朽化していますが、歴史豊かな中心街の再活性化に貢献したいのです」と自らの事業に抱く目標は、スケールが大きい。

 ブロンセのコーヒー豆は、国内のコーヒー豆審査会「カフェ・プレジデンシアル」で優勝、準優勝したものなど最高級の国産豆を自家焙煎したものだ。

「ボリビアの高級豆の品質は、コロンビア産をしのぎます。生産者に競争意識と自信を持ってほしいので、最高のコーヒー豆を適正以上の価格で購入しています」とコーヒー産業にもリーダーの一人として携わっているようだ。コーヒーの他にも、チーズやボリビアの蒸留酒シンガニの生産者と契約し、良質な食品づくりを支援している。

国のイメージを覆し、コーヒー事情を塗り替える。

左から:コーヒー発酵飲料(Bs20)と薫製マスのサンド(Bs50)。/エスプレッソのシンガニ割り(Bs22)とリャマサンド(Bs44)。

左から:2019年度カフェ・プレジデンシアル優勝豆のコーヒー(Bs60)とビーツケーキ(Bs28)。/2018年度優勝豆250g(Bs200)とコールドブリュー(Bs35)。

「すべてはボリビアのためを思って行っています」と語るアラルコンさんは、南米の貧国というボリビアのマイナスイメージを覆したいのだという。人材の育成にも余念がなく、スタッフには高いプロ意識を求めている。

 今年1月にはブロンセの隣に焙煎所「ザ・グランド・セントラル」を新設した。そこでは世界水準のコーヒー学校の開講を予定している。

 コーヒーを美食として扱うアラルコンさんの主導でボリビアのコーヒー事情が塗り替えられていきそうだ。

左から:建物の左側の一角でブロンセを営業。増設した建物の4階以上はガラス張りの造りとなっている。改装に10年を費やし、ホテルとして生まれ変わる。/コーヒードリンクとパティスリーとともに観光名所を巡る「コーヒー・エクスペリエンス」はアラルコンさんが企画したVIP待遇の市内ツアー。石畳の細道ハエン通りにて。


オーナー
Boris Alarcón(ボリス・アラルコン)
ブロンセと近年オープン予定のホテル「アルトゥ・カラ」含む複数の事業を統括する「イエロ・ブラザーズ」経営者。国際的グルメガイドブックの覆面審査員として世界の美食を食べ比べ、アートディレクターとしてはザハ・ハディドとコラボ制作した経験を持つ。現在、ベルリンに飲食店開設を計画中。
Bronze
ブロンセ

高級飲食店グループのイエロ・ブラザーズが2017年に開店したカフェ。グループが再活性化を行う中心街の一角に位置する。最高級国産コーヒー豆をボリビアの良質な食材を活かした美食とともに味わえる。
■ www.hb-bronze.com

Typica
ティピカ

パンデミック中でも来客が多く、バリスタの多忙な働きぶりが印象的だった。

 ソポカチ地区のアバロア広場周辺は、賑やかな時にも落ち着きのある、街歩きが心地よいエリアだ。

 そこにある古い邸宅で営業するティピカは、食と旅の国際的な情報ウェブサイトの特集「2019年度南米カフェ50選」でトップに選出された、今ボリビアで最も勢いのある本格派コーヒーのチェーンだ。

 アンティーク家具で飾られた、コーヒーの香り漂う天井高い店内は、しばらくその“古き良き時代”の空気に浸っていたい気分にさせてくれる。

「装飾品は、古道具愛好家の間でチャットで売買しているんです」とバリスタにして経営リーダーのファビオ・アランディア・ロアイサさんがスマートフォンの画面を見せてくれた。

左から:エメラルドグリーンなどのパステルカラーを多用し、カジュアルな雰囲気を演出した店舗。/通りの喧騒から遮断された開放的な裏庭の席を選んでコーヒーを楽しむ客も多い。

パンデミックを機に、小売りに乗り出す。

左から:エンパナーダの盛り合わせ(Bs31)とフラットホワイト(Bs18)。/3種のチーズとビーフジャーキーのサンドイッチ(Bs31)と自家製コールドブリュー(Bs22)。

左から:チーズケーキ(Bs21)と自社焙煎ブランド「ラ・エンビディア」のペーパードリップ(Bs22)。/コーヒーの皮を煎じ、レモン、炭酸水を加えた「スルタナ・ソーダ」(Bs20)。

 店の奥には陽光注ぐ広い裏庭があり、そこで飲食を楽しむ客も多い。

「裏庭には焙煎室もあります」とスタッフに目を配りつつ、自らも接客を行うラトビア出身の店長アグリス・ゾゴタさんが店内を案内してくれた。

 ティピカはシングルオリジン3種とブレンド1種をそこで焙煎している。コーヒー豆はいずれも、国内最大の生産地カラナビで生産されたものだ。

「パンデミック前は、週5日、1日2回、1ヶ月に約500kgをローストしていました。現在は1日1回で1ヶ月約300kg程度です」と焙煎担当のクリスチャン・サンカリさんが11月上旬の訪問時に語ってくれた。

 その後、ティピカは保健省からの営業許可を得ていよいよ今年3月から焙煎コーヒー豆の小売りを始める。

「新型コロナ流行による昨年の営業規制で利益が激減しました。スーパーや食品店は、規制の対象だったので、リテールに販路を築くべきだと考えたのです」とロアイサさん。

 困難を好機と捉える柔軟な姿勢こそがティピカの成長の原動力なのだろう。

左から:接客も務めるバリスタのミシェル・ペニャランダ・エイサギーレさん。キッチンとホールを行ったり来たり。/焙煎を担当して2年目のクリスチャン・サンカリさんが豆の煎り具合に集中する。/1940年代に建てられた邸宅で営業するソポカチ店。この吹き抜けのホールを含む6つの喫茶スペースがある。他店舗もカジュアル&アンティークで統一。



右:共同経営者 Fabio Arandia Loayza(ファビオ・アランディア・ロアイサ )/左:店長 Agris Zogota(アグリス・ゾゴタ)
共同経営者の一人として2015年にティピカを創業したロアイサさんは、市内サンミゲル地区の本店の店長も務めている。ゾゴタさんは、ボリビア人女性との結婚を機に2013年にラパスに移住。2017年のソポカチ店開店からティピカのチームに加わった。
Typica
ティピカ

バリスタ、焙煎士、鑑定士の4人のコーヒーラバーが共同出資で2015年に創業したカフェチェーン。現在、ラパスの3店舗の他、首都スクレやサンタクルスなど国内主要都市で5店舗を営業している。
■ https://www.typicabolivia.com/


Café del Mundo
カフェ・デル・ムンド

アンデスの動物リャマやラパスのロープウェイなどボリビアのシンボルが描かれた店内一角。

 ラパスの街が歴史遺産として誇るバロック様式厳かなサンフランシスコ大聖堂。その横手の坂を上るサガルナガ通りは、石畳の両側に土産店が軒を連ねる観光客に人気のエリアだ。パンデミック中でなければ、英語が聞こえてくるその通りで営業するカフェ・デル・ムンドは、主に旅行者相手に憩いのひと時を提供してきた。

 店舗に立ち入ると〝世界のカフェ〟の名のとおり、ボリビアのみならずヨーロッパ、アフリカやアジアなど世界の人と風景の写真が店内の壁のあちこちに飾られている。

「29歳の時に世界一周の旅をしました。スウェーデンの田舎町で生まれ育ったので、外に出たかったのです」とオーナーのエリン・オロフソンさん。その後、スウェーデンの旅行会社に添乗員として勤め、世界各地でガイドしていたころに、ラパスで知り合ったボリビア人のホテル経営者と結婚し、このカフェをオープンしたのだという。

 カフェのメニューも国際色豊かだ。国や地域の名前を冠したサンドイッチやパスタなどの軽食が並ぶ。アンデス原産のキヌアを多用するなど地域色を健康志向の客にアピールすることも忘れていない。コーヒーはエスプレッソをベースとした各種ラテが豊富だ。

左から:牛肉、ポテト、目玉焼きなどが入ったバケットサンド「エル・ボリビアーノ」(Bs45)とエスプレッソベースの「チョコレート・ラテ」(Bs18)。/レッドキヌアのカーシャ(Bs29)とアイスコーヒー(Bs15)。/チアプディング(Bs22)とエスプレッソ(Bs12)。

迎える創業10周年、貫きたい店の在り方。

パンデミックによりスウェーデンに帰国中のオーナーの留守を預かるスタッフたち。スタッフは交代制で随時20~24人ほど。

左から:スウェーデンカラーを配した店内。/次に紹介のロースターで自らバリスタ講座を受けたマネージャーのパウラ・モラレスさん。

 カフェは今年9月に創業10周年を迎える。オロフソンさんのスペイン語がままならなかった開店当時は、1階のみでの営業だったが、改装を重ねて店舗空間は3フロアに拡張された。

「パンデミック直前に2号店を開けました。しかし今は営業できていません。今後はもっとボリビア人のお客様に来てもらえるようにすべきでしょうね」とオロフソンさん。

 それでも世界の誰にでもアットホームに食事とコーヒーを楽しんでもらうことこそが店のモットーであり、自身の喜びなのだという。

左から:オロフソンさんが各国で撮った写真が壁を飾る。/入口にボリビアとスウェーデンの国旗を掲げる。

オーナー
Elin Olofsson(エリン・オロフソン)
旅行会社添乗員時に、主に陸路でストックホルム-キンシャサ間、モスクワ-東京間の旅を経験。2009年に初めてボリビアを訪れ、翌年改めてスペイン語習得でラパスを訪れた際に伴侶に出会い結婚。パンデミック中の本稿取材時には、スウェーデンに一時滞在。
Café del Mundo
カフェ・デル・ムンド

世界旅行の経験豊富なスウェーデン人女性が2011年に開業したカフェ。観光エリアに位置することで世界中からの旅行者を迎えて成長してきた。2020年1月に2号店を同じ通りにオープン。
■ http://www.cafe-delmundo.com/

Roaster
ロースター

地区に根差して10年。常連とスタッフの会話に信頼が見て取れた。

左から:客同士の距離の確保に人形を使用。/焙煎とバリスタ講座も行う勤続7年のバリスタのマイラ・メルビアさん。

 富裕層が集う商業地区サンミゲルにあって、国産高級豆のコーヒーの味わいを広めてきたロースターは、ラパスにおけるコーヒーブームの火付け役的存在のカフェだ。

 店舗の奥では、年季の入ったトルコ製焙煎機で煎ったコーヒー豆の具合を確認するオーナーの姿があった。

「ここで焙煎するのは扱うコーヒー豆の一部で、7割は欧米に輸出しています」と語るオーナーのマウリシオ・ディエス・デ・メディナさんは、ボリビアの高級豆に商機ありと20年前にコーヒービジネスに乗り込んだ。

 前職の投資公社勤務時代に、コーヒー生産者への投資を望むコロンビア人とともにボリビアの一大生産地であるユンガス地方のカラナビを訪れて、すっかりコーヒーに魅了されたのだという。それより8カ月後には早速、購入した農地で苗木を植えていたそうだ。

コーヒーの楽しみを広め、業界の成長を後押し。

左から:牛肉のパニーニ(Bs45)と「マチャカ」ブランドのコーヒー(Bs19)。/ボリビア風ポン・デ・ケイジョ「クニャペ」(Bs14)とコールドブリュー(Bs20)。/チーズケーキ(Bs25)とカプチーノ(Bs16)。

 生産を始めてから10年後に開業したロースターでは、飲食をサービスするのみならず、コーヒーの楽しみを広めるためにラパスで最初のバリスタ講座を始め、これまで継続してきた。

「“ティピカ”や“カフェ・デル・ムンド”もそうですが、街のバリスタの9割は、うちでの勤務か講習の経験者です」とメディナさん。先駆者として業界の成長を喜んでいるようだ。

 ロースターは現在、市内のホテルやレストラン45箇所にコーヒー豆を販売しているが、中には必ずしも適正な方法でコーヒーを淹れていない店もあるという。志望者が後を絶たないバリスタを育成することで、ラパスのコーヒーはますます美味しくなるだろうとビジネスの見通しは明るそうだ。


オーナー
Mauricio Diez de Medina(マウリシオ・ディエス・デ・メディナ)
2001年にコーヒー農園の経営を始め、2009年にボリビアのカップ・オブ・エクセレンスで優勝。2012年に農園を手放したが、現在生産者75世帯と契約し、コーヒー生豆の輸出を行う。ロースターでは飲食業の他、コーヒー器具の輸入や焙煎豆の販売も行う。
Roaster
ロースター

2011年の開店以来、バリスタ講座を行う他、2018年にバリスタとテイスティングの選手権を主催するなど、街のコーヒー文化を牽引してきた。2019年にはソポカチ地区のホテル内に2号店をオープン。
■ https://www.facebook.com/roasterspecialtycoffees

1Bs(ボリビアーノ)=約15.7円(2021年3月現在)

取材・文・写真 仁尾帯刀/コーディネート 山村ちひろ
更新日:2021/04/15



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