捨てるのはもったいない! 資源になる抽出後のコーヒー粉 (コーヒーグラウンズ)

世界中で愛され続け、私たちの日常にそっと寄り添うコーヒー。普段の生活で何気なく手にしている一杯の裏側には、環境問題や生産者の貧困といった課題があることをご存知でしょうか。消費量が世界的に拡大している一方で、気候変動などの影響や生産者の離農により生産量の減少が危惧されているいま、私たちにできることはこうした課題に目を向けること。第2回目は、近年、大量に廃棄されている抽出後のコーヒー粉 (コーヒーグラウンズ)の活用法に注目します。
Profile

教えてくれたのは…… 祖山 均先生
東北大学 大学院 工学研究科 教授。主に、金属などの素材が持つ表面の性質を改良する技術(表面改質技術)や、水や空気が流れる際に起きる流体現象の応用研究を展開。最近では、機械の損傷を引き起こす現象として知られる「キャビテーション」を利用して、抽出後のコーヒー粉 (コーヒーグラウンズ)から有用物質を抽出する技術を開発。
コーヒー抽出後のコーヒー粉 (コーヒーグラウンズ)を廃棄物にしないために

家庭や職場、お店などで日常的に、そして世界中でコーヒーが愛飲されている裏側で、近年、問題視されている抽出後のコーヒー粉 (コーヒーグラウンズ)の大量廃棄。消臭剤や脱臭剤、肥料、虫よけなどへの再利用のほか、コーヒーグラウンズに含まれる「カフェ酸」などのポリフェノール成分は、バイオ燃料や抗がん剤として活用することが提案されています。しかしながら、水分を多く含むコーヒーグラウンズは乾燥しにくく、かびやすいといった扱いづらさがあることから、家庭や企業で容易に取り入れることが難しく、未だ大量に廃棄されています。問題なのは、焼却の際に多くのエネルギーが必要となり、同時に二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガスが発生するということ。こうした状況は環境への負担となっているため、コーヒーグラウンズのさらなる資源化とサステナブルな処理技術が求められています。
祖山先生
粉抽出後のコーヒー粉 (コーヒーグラウンズ)には、カフェ酸などの「生理活性物質」と呼ばれる有効な成分があります。しかしながら、カフェ酸だけを取り出しても、残った繊維質の部分は新たな産業廃棄物としてカウントされてしまいます。そして、その繊維質を活用するためには、そのままでは使いにくいため新たなものにしてあげないといけません。つまり、コーヒーグラウンズを産業廃棄物にしないためには、カフェ酸を取り出しながら、残った繊維質を工業材料として利用できるようにほぐすことが必要になります。こうした課題に対して着目したのが、「キャビテーション」という現象です。
資源化を実現するキャビテーションって?

キャビテーションとは、水が流れる速度が増すことで圧力が低下し、水が泡になる現象のこと。工場施設や機械の稼働時に発生する現象として知られていますが、泡が潰れる際に金属を変形させるほどの強い衝撃力が生じるため、従来は機器への悪影響が懸念されていました。
祖山先生
水が泡に変化する条件は2つあります。ひとつ目は、温度が上がること。つまり「沸騰」です。平地など、気圧の値が1気圧(大気圧)の場所であれば水は100℃で沸騰しますが、高い山などの気圧が低い場所、例えば富士山の山頂では87℃程度でも沸騰します。これは、水が空気や水蒸気などの気体になるという意味。ふたつ目は、水が流れる速度が増すこと。1気圧であっても、水が流れる速度を上げることで圧力が低下し、水は「水蒸気」と呼ばれる泡になります。これが「キャビテーション」という現象です。そして速度が下がると再び水に戻るのですが、その際に泡の一部が変形して「マイクロジェット」という噴流を起こしたり、金属をへこますような衝撃波が生じたりします。例えば、弱いキャビテーションであれば、メガネレンズの洗浄などに使われていたりします。従来は機器への悪影響が懸念されていた現象ですが、コーヒーかすに利用すれば、カフェ酸を取り出しつつ繊維質を細かくすることができるため、大量廃棄や環境保護に役立てることができるかもしれません。
実用化を目指して

コーヒーグラウンズに含まれる『カフェ酸』などのポリフェノール成分は、抗がん剤として活用することが提案されています。また、ほぐした繊維質は歯ブラシやペットボトルなどのプラスチック製品に活用することができ、石油に代わるエネルギーとして役立てることができます。キャビテーションを用いて大量廃棄していたコーヒーグラウンズを資源化し、実用化することで、私たちの暮らしもコーヒーの生産も持続可能になる可能性を秘めていると言えそうです。
祖山先生
コーヒーグラウンズには有用物質が含まれているので、それらを抽出すれば様々なものに活用することができますが、実際には処理のコストが見合わず、企業などに導入するにはまだまだ課題があるように思います。一方で、コーヒーかすに限らず、日本にはバイオマスとして役立てられる資源はたくさんあります。低コストで正しい処理をしなければならないというのが最大のネックに思いますが、それでもきちんと循環させてあげることで、SDGsや地球温暖化などの課題解決につなげることは十分できるはずです。従来の技術にしても、キャビテーションのような新たな方法にしても、コストが高いというのは実用化をするうえでひとつの課題になりますが、しっかりと現象を見て効率を上げることで、キャビテーションが実用的になることを願っています。