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歴史、文化、味と香り。魅力あふれる、コーヒー切手の旅へ。

自国の文化を世界に向けて発信する切手には、コーヒーをテーマに描かれたものも数多い。
百年もの歴史をもつ、美しい「コーヒー切手」の世界を探訪してみよう。

 今日、誰かに送る一通の手紙に貼りつけた小さな紙切れ。多くの人にとって切手は日常の中の実用品だが、そこに印刷された繊細な絵画、鮮やかな色彩、工夫を凝らした意匠には発行国の文化が匂いたち、切手に惹かれる人たちの心をたちまち奪い去ってしまう。

伝播の歴史をささやく、小さな語り部たち。

 切手収集といえば、まさに趣味の王道で、さまざまな集め方のスタイルがある。好きな国にこだわるのもよし、印刷技術に酔いしれるのも、また一興。テーマ別コレクションの世界に足を踏み入れたら、そこは抜け出ることの叶わないラビリンスだ。動植物、スポーツ、音楽、乗り物、民族衣装。宇宙切手やクリスマス切手という選択肢もある。

 そしてコーヒーをテーマにした「コーヒー切手」である。

 たとえば朝の一杯に飲みたい、香りたつコーヒーの入った白いカップ。ジャスミンによく似た甘い香りを放つコーヒーの花。つやつやと赤く光るコーヒーチェリーを摘む美しい女性たち。

 わずか数センチ四方の限られた空間に、いったいなにを表現できるのか。コーヒーという魅力的な題材に取り組む国は数多く、代表的なコーヒー豆の産地であるブラジル、コロンビアは、これまでに何種類ものコーヒー切手を発行している。

 さらに他の中南米の国々も負けてはいない。グアテマラ、ペルー、キューバ、コスタリカ、ハイチ、エルサルバドル、メキシコ等々。コーヒー切手を出していない国の方が少数派なのである。

左上から時計回りに: 1966年国連発行「国際コーヒー協定」/ 2006年スウェーデン発行「コーヒー・カルチャー」/ 2005年ニュ ージーランド発行。コーヒーカップの形をした変形切手/ 1961 年ブラジル発行「コーヒー会議」。以上すべてFDC(First Day Coverの頭文字で、切手発行初日の消印が押された封筒のこと)。 左下: 1933年に押された消印には、「グアテマラは世界最高のコー ヒーを生産している」という文字が4カ国語で書かれている。

 一方、アジア・アフリカに目を向けると、その世界は、にわかに伝播の歴史を伝える語り部のようになってくる。

 コーヒー原産国のエチオピアは、1895年、世界に先駆けて切手に表現した最初の国だ。そして紅海を挟んで向かい側にある国、最初にコーヒーの木が伝播し栽培されたイエメン、イスラム教巡礼者が移植したと伝えられるインド、オランダ人が苗を運んだインドネシアのジャワ島と南米スリナム、フランス東インド会社が持ち込んだレユニオン島。6世紀から18世紀に渡るコーヒーの木の長い旅路を、各国発行の切手をゆっくりと眺めながらふり返ることができる。

コーヒー消費国が誇る、小粋なカフェ切手。

 カフェ文化の本場として知られているウィーンに、初めてコーヒーが伝わったのは17世紀のこと。その立役者がポーランド人のイェジ・フランチシェク・クルチツキだ。

コーヒーを飲んで167歳まで長生き!?
推定167歳まで生きて、世界でもっとも長寿といわれたコロンビアのハビエル・ペレイラさんを記念する切手。1956年発行。長寿の秘訣を尋ねられた彼の答えが切手に印刷されている。「くよくよせず、コーヒーをたくさん飲み、うまい葉巻を吸う」。ぜひ見習いたい。

 1683年、ウィーンはトルコ軍に包囲され、ロレーヌ公シャルル5世と、ポーランド王ヤン3世の救援を待っていた。通訳兼商人としてトルコの言語と風俗に通じていたクルチツキは密使となり、トルコ軍の制服を身につけて敵陣を突破。緊急の救援を要請することができた。その結果、トルコ軍は敗走し、あとにはテントや食用牛など大量の物資が残されていた。なんと、その中にコーヒー豆があったのだ。当時、誰も使い道を知らなかったこの豆をクルチツキが譲り受け、ウィーンに最初のカフェを開いた。まさに劇的なコーヒー伝来史である。

 ポーランド郵政は、この勇気あるひとりの男性の記憶を、見るからに香ばしいコーヒー豆のビジュアルとともに切手の中に閉じこめている。

 オーストリア本国も自慢のご当地コーヒー「メランジェ」(ふわふわに泡立てたミルクをのせたコーヒー)をイラストにした切手をリリースしているし、2011年発行の最新切手には、ウィーンを代表する老舗「カフェ・ハヴェルカ」が登場。そのクラシックな外観と名物の「メランジェ」が、4センチ×3・5センチの世界に再現され、眺めているだけでウィーンの街を散歩したような楽しい気分になる。

 この他、フランスにはギャルソンの後ろ姿が小粋なカフェ切手があり、コーヒー愛好国のスウェーデンは、そのものずばり「コーヒー・カルチャー」をテーマにした田型切手(縦2枚、横2枚、合計4枚の切手でひとつのデザインを形成しているシリーズのこと)を発行している。

 コーヒー消費大国アメリカや、新大陸オーストラリア、ニュージーランドも注意深くチェックすれば、幾つものコーヒー切手が発見できるので、コレクターに油断は禁物だ。

コーヒーの香りがふわり、匂いつき切手の登場。

 コーヒー切手とひと言で分類してみても、その世界はどこまでも広い。集めれば集めるほど次の一枚が見つかり、切手帳はどんどん増殖するばかりだ。

 最初は国王の横顔や紋章のまわりにあしらわれたコーヒーの葉という控えめな絵柄から始まったコーヒー切手だが、大切な輸出産業を表現する存在へ出世してからは、デザインのバリエーションが飛躍的に広がった。

 発芽から苗木の植え付け、開花、収穫、選別や乾燥作業、麻袋入りのコーヒー豆、牛やトラック、船での輸送。生産国は自国コーヒーのすばらしさを世界に宣伝することに工夫を凝らし、ときには消印にまで「我が国は世界最高のコーヒーを生産しています」などという文字を自信満々に埋め込んでいる。

 30年ほど前からは「食文化」を切手で表現することが世界的に流行し、ここでもコーヒー出現率がアップした。湯気のたつおいしそうなコーヒーなど、一目瞭然のデザインだけではない。「誰かが手に持っているマグカップ」とか、「テーブルの片隅に置かれたカップ&ソーサー」など「言われてみたらコーヒー切手かも」というタイプが出ているので、紙面の隅々まで確認する必要がある。また21世紀に入ると匂いつき切手の発行が増え始めた。ついに、コーヒーの芳しい香りが切手からあふれるところまでやってきたわけだ。

 植物としてのコーヒー、自慢の輸出品としてのコーヒー、伝統文化の中のコーヒー、飲んで楽しいコーヒー、コーヒーを入れるカップやポット等々。これまでに数十カ国が200種類以上を発行し、今でも毎年、どこかの国が途切れなくコーヒー切手を出し続けている。

 どの分野からでもいい。これはと思った一枚があれば手にとり、コーヒー切手の世界へ足を踏み入れてみよう。右手には専用のピンセットを忘れずに。隅々までよく観察できるよう、左手に倍率の高いルーペがあると完璧だ。

|コーヒーの発芽〜船出| Production

ハイチ 1928年
コーヒーの花と実を描いた切手。精密な凹版技術によって印刷されている。表面を触るとインク部分が微かに盛り上がっているのがわかる。

パプアニューギニア 2010年
コーヒーの発芽から実がなるまでを描いた4枚セットの中の1枚。内果皮をかぶったまま発芽しているコーヒーの新芽の様子がわかる。

グアテマラ 2006年
コーヒーの収穫から出荷までを楽しいイラストで描いたミニシート。切手には町の名前入り。単片6枚と一緒に発行されている。

ルワンダ 1975年
「農業近代化10周年」を記念して発行された2枚セットのミニシートのうちの1枚。赤く熟したコーヒーチェリーの実と収穫を描いている。

キューバ 1960年
コーヒーの白い花と讃美歌の楽譜を描いたクリスマス切手。4枚連刷の1枚。他に額面違いで、地色がオレンジ、黄土色の2種類がある。

コスタリカ 1945年
二頭立ての牛車でコーヒーチェリーを搬出している絵柄。当時のコーヒー産業の様子がわかる珍しい切手だ。細密な凹版印刷がすばらしい。

|世界のコーヒータイム| Coffee break

ニュージーランド 1999年
ミレニアム記念6枚セットの中の1枚。かつて市街地を運行していた路面電車の名物だった白無地のコーヒーカップが描かれている。

アメリカ 1987年
10枚セットのグリーティング切手の中の1枚。お父さんを象徴するのがメガネとクロスワードと、いれ立てのコーヒーだ。

オーストリア 2011年
ウィーンの老舗「カフェ・ハヴェルカ」と名物コーヒーのメランジェをデザイン。店構えは20世紀初頭からほとんど変わっていない。

オーストラリア 1988年
建国200年記念。ニュージーランドとの共同発行でコアラとキーウィが団らん中。よく見るとコアラの手にコーヒー入りカップが。

日本 2008年
「日本ブラジル交流年」記念。日本唯一のコーヒー切手だ。左は移住開始当初のビザスタンプ、右は最初のブラジル移民を運んだ笠戸丸。

ポーランド 2009年
「ヨーロッパにおけるポーランド人の足跡」がテーマ。ウィーンに最初のカフェを開いたクルチツキの肖像と耳紙(※)にコーヒーの絵柄つき。

※耳紙:切手の周囲についている余白部分の紙のこと。通常はカラーマークなどが印刷されているが、さまざまなデザインが施されることもある。

ポルトガル 2009年
嗅覚、味覚、視覚、触覚、聴覚の五感を表現した5枚セットの1種。コーヒーの匂いつき切手で嗅覚を表現。斬新なアイデアが光る。

フランス 2006年
地方の食文化などを紹介する10枚セットのミニシートに含まれていた1枚。日本でいうところのふるさと切手のフランス版だ。

|コーヒー切手の歴史| History

イエメン 1958年
美しいアラビア文様の中にコーヒーの木を描いている。国章にもコーヒーの木が登場するほど、イエメンにとってコーヒーは大切な存在だ。

エチオピア 1895年
世界初のコーヒー切手。当時の皇帝メネリク2世の横顔の周囲に、コーヒーの木の葉がデザインしてある。単色刷に歴史を感じる1枚。

コロンビア 1989年
国際コーヒー機関の加盟国を表す地図切手。赤が産出国、緑が消費国。当然、日本も消費国のひとつとして緑色に塗られている。

メキシコ 1988年
メキシコの輸出品を描いた切手シリーズの中の1枚。同国にとってコーヒーは世界に誇るべき産物のひとつ。デザインにも工夫がある。

ヨルダン 2008年
アラビア風コーヒーを入れるための道具を描いた5枚セットの中の1枚。豆を炒り、粉砕し、煮立てる道具が一式用意されている。

エチオピア 1982年
コーヒーの植え付けから出荷までを描いた5枚組の1枚。コーヒー原産国らしく、伝統的なコーヒーの儀式「カリオモン」を描いている。

|美女とコーヒー| Coffee Venus

エルサルバドル 1924〜25年
1924年に開かれたナショナル美人コンテストで優勝したトゥラー・セラーさんを描く普通切手。顔の周囲をコーヒーの葉がとりまく。

コロンビア 1959年
コロンビア代表がミスユニバースに選ばれたことを記念して発行された1枚。ミスの背景に実をつけたコーヒーのひと枝がある。

コスタリカ 1950年
カルタゴ農業博覧会を記念して発行された14枚シリーズの中のひとつ。コーヒーチェリーをカゴいっぱいに入れて微笑むコスタリカ美人。

ニューカレドニア 2002年
コーヒーチェリー、豆の焙煎、カフェの様子まで描いた3連刷りの1枚にニューカレドニアの美人が登場。コーヒーの匂いつき切手でもある。

グアドループ 1947年
カリブ海に浮かぶ島国だが、フランス海外県らしく、切手はなかなかの出来栄え。二人の美女がコーヒーの収穫にいそしんでいる。

エルサルバドル 1956年
セント・アナ県100周年記念の切手。同柄の色違いで9枚セット。コーヒーチェリーを摘む美女が9人ずらりと揃うとゴージャスだ。

コスタリカ 1970年
大阪万博を記念して発行された切手。よく見ると漢字やカタカナが使われているのに気づく。愛くるしい笑顔の美人が収穫作業中だ。

バヌアツ 2011年
おいしそうなカプチーノを描いたバヌアツの新作コーヒー切手。ハイビスカスをつけた美女が微笑んで、コーヒーの魅力がさらにアップ。

文・馬場千枝 / 写真・青野豊 / 取材協力・突々啓行(切手収集家)※
※突々啓行(とつとつ・ひろゆき):1942年京都市生まれ。切手収集の範囲は世界三大茶。
更新日:2011/09/30



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