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コーヒーと世界遺産 Vol.6

ベートーヴェンの原動力、朝のコーヒー習慣。
ベートーヴェン自筆の楽譜「交響曲第9番」

人を驚かせることが大好きで、じつはお金に細かいなど、人間臭いエピソードも多かったベートーヴェン。
©JOSLIN PETER/ArenaPAL /amanaimages

 記憶にとどめておきたい歴史的文書や絵画などを保存する取り組みとして知られるユネスコの〝世界記憶遺産〟。ベートーヴェンの「交響曲第9番」の自筆楽譜がこれに登録されている。

「ベートーヴェンの楽譜は汚くて見辛いことで有名なんです」
 と語る音楽ライターの片桐卓也さん。
「たとえば、モーツァルトは頭の中で完成されたものを写すように楽譜に書くので、最初から完璧でとてもきれいです。ベートーヴェンの場合は、おそらく考えていることがとても複雑で多岐にわたっていて、アイディアが次々と浮かんでくるのでしょう。書きながら、あ、ここはやっぱりこうしようと思うことが出てくると、最初に書いたものを消さずにその上から書き加えたり、ということがたびたびある。それで見辛くなるのだと思われます」

 じつはベートーヴェンは、かなりのコーヒー愛好家でもあったようだ。
「彼は毎朝きっちり60粒の豆を数えて挽いていました。コーヒーを飲んで決まった時間に散歩に行き、帰ると作曲に専念。それが習慣だったようです。ある意味、雑な楽譜からは想像できない几帳面な一面ですね(笑)」

欧州の平和を象徴する、ベートーヴェンの“第九”。

ベートーヴェンの「交響曲第9番」の自筆楽譜(ベルリン国立図書館所蔵)。日本でも“第九”と呼ばれ親しまれている「交響曲第9番」はベートーヴェンの最後の交響曲であり、その第4楽章は「歓喜の歌」(作詞/シラー)の合唱とともに演奏される。「歓喜の歌」はフランス革命後にシラーが改稿したもので、これに感動したベートーヴェンが曲をつけた。リヒャルト・ワーグナーが自身の作品を上演するために設計したオペラハウス「バイロイト祝祭劇場」のオープニングで“第九”が演奏されたことから、今もこの劇場ではワーグナーの作品以外では“第九”だけが演奏することを許されている。


 豆の種類や焙煎の具合にもよるが、60粒のコーヒー豆の重さはだいたい10g前後。現在では、カップ1杯分のコーヒーには豆10gにお湯130~150ml、を目安に抽出することが多いようだ。ベートーヴェンが実際に好んだ豆や注いだお湯の量はわからないが、もしかしたら、彼は偶然にも理想的なコーヒーの豆の量をわかっていたということになるのだろうか……。

「〝第九〟の初演は1824年でしたが、作品の複雑さゆえか、評価はされず、そのまま3年後にベートーヴェンは他界。しかし、その19年後にワーグナーが復活させて演奏したことで再評価され、傑作と認められたのです。20世紀に入ると、〝第九〟は欧州連合(EU)の讃歌に採用され、1989年12月、ベルリンの壁が崩壊した直後に行われたコンサートでは、東西ドイツと世界各国から集まった混成オーケストラが〝第九〟を演奏し、ドイツの融和を祝いました。ある意味、〝第九〟はヨーロッパが一つになるための象徴的な曲という位置づけがなされてきたのです。楽譜が記憶遺産として登録された背景には、そんな歴史も影響しているのではないでしょうか」

 傑作を生み出す、ほとばしるような創造力。その原動力となった朝のコーヒー。偉大なる楽聖に想いを馳せながら、改めて〝第九〟を聴いてみたい。

片桐卓也
(かたぎり・たくや)
1956年福島県生まれ。早稲田大学卒業。「音楽の友」「レコード芸術」「モーストリー・クラシック」などのクラシック音楽専門誌に寄稿している。著作に『クラシックの音楽祭がなぜ100万人を集めたのか』(ぴあ刊)など。

監修・片桐卓也(音楽ライター)/文・牧野容子
更新日:2015/04/10



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