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コーヒーと世界遺産 Vol.5

ヴェネツィアの、カフェ文化発祥の店。
カフェ・フローリアン

創業時の店名は「アッラ・ヴェネツィア・トリオンファンテ」で“勝利のヴェネツィア”というような意味。後に、創業者のフロリアーノ・フランチェスコーニに因んで「カフェ・フローリアン」と呼ばれるようになった。カフェ・ラテは9ユーロ。カサノヴァの名を冠したメニューもある。

 世界遺産ヴェネツィア。共和国時代の総督の館であったドゥカーレ宮殿や壮麗な大聖堂を擁するサン・マルコ広場にカフェ・フローリアンがある。

「1720年創業のこの店は現存するヴェネツィア最古のカフェで、カフェ・ラテ発祥の店と伝えられています」と語る池上英洋先生。

「なにしろここは17世紀にヨーロッパで最初にコーヒーが伝わった国。大航海時代の到来でスペインやポルトガルの勢いが強くなるまで、ヴェネツィアはヨーロッパにおける東方交易の玄関口でした」

 カフェ・フローリアンの店内も、憧れの都を訪れた外国人旅行者や地元の有力貴族、大商人たちでにぎわっていた。

あのカサノヴァも、カフェ・フローリアンの常連。

上左/カフェ・フローリアンのきらびやかな店内。©Anzenberger/amanaimages 上右/サン・マルコ広場からほど近いリアルト橋は1591年に再建されたもの。 下左/店の外に並ぶ席のそばに楽団のスペースがある。 下右/毎日大勢の観光客でにぎわうカフェ・フローリアン。これは広場に面した部分。


「当時のカフェはコーヒーを飲むだけでなく、トランプや賭け事に興じ、政治について語り合い、お金持ちの客を目当てに来る娼婦もいたりと、社交場の役割も兼ねていました。2室で開業した店は1858年に拡張されて4室になり、現在目にするロココ風の優美な装飾と絵画で埋め尽くされました」

 ヴェネツィア随一のこの〝サロン〟は多くの作家や芸術家をも魅了した。
「女性遍歴で有名なカサノヴァは、初期の常連客。洒落者の一人として、当時の最先端の珍しい飲み物であったコーヒーにきついお酒を入れてみたりしながら、夜な夜な女性たちとの逢瀬を楽しんでいました。ゲーテは著書『イタリア紀行』に「サン・マルコ広場に肩を並べるものはない」と書くほどヴェネツィアに惚れ込んでいました。当時、カフェ・フローリアンではイタリア初の新聞や地図も販売されていて、ゲーテはここで地図を買っています」

 ヴェネツィアの歴史の証言者としてもなにかと興味深いカフェである。
「夜になると店の楽団の演奏が始まり、オレンジ色の街灯の下、広場に散歩に来ていた地元のおじいさんやおばあさんがそれに合わせて自然とダンスを踊りだす。それがとてもいい雰囲気なのです。いまもヴェネツィアの人々の生活に溶け込んでいるカフェの存在がいっそう素敵に感じられますね」

池上英洋(いけがみ・ひでひろ)
東京藝術大学卒業、同大学院修士課程修了。イタリアを中心とする西洋美術史・文化史が専門。著書に『レオナルド・ダ・ヴィンチー西洋絵画の巨匠8』(小学館)、『イタリア24の都市の物語』、『ルネサンス 三巨匠の物語』(ともに光文社新書)など。

監修・池上英洋(東京造形大学造形学部 准教授) 
文・牧野容子/写真・仁尾帯刀
更新日:2014/02/26



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