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コーヒー海外事情

美食の街のコーヒー、進化中。パリで人気のカフェシーン。

美食の街のコーヒー、進化中。パリで人気のカフェシーン。

カフェと言えば、パリ。パリのカフェは世界中の人から愛され、親しまれてきた。そんなパリのカフェのコーヒー事情に、今大きな変化の時が訪れている。進化し続ける美食の街で愛される、美味しくて幸せなカフェ4軒を紹介しよう。

 パリとコーヒーの付き合いは長い。コーヒー豆の伝来は1644年、1686年にはコーヒーを主力とした飲食スペース『プロコープ』が市の中心地にオープン。20世紀初頭には、山岳部オーベルニュ地方の出稼ぎ労働者が、今に伝わるパリ風カフェのスタイルを確立した。籐の椅子が並ぶテラスに、黒服のギャルソン。亜鉛のカウンターで飲む、目覚めの、食後のエスプレッソ。その時間がだんだんと長くなり、いつしかカフェは、パリジャンが自宅の居間代わりに時を過ごす場所となる。待ち合わせに打ち合わせ、宿題、愛の語らいや文化談義。お腹が空いたら食事も可能。幅広い用途の一方で、コーヒーを味わうのは二の次、という場面も少なくなかった。

 ところがここ1~2年、そんなスタイルを塗り替えるような店が急増している。豆を自家焙煎し、美味しいコーヒーを飲ませることを第一の目的としたニュータイプのカフェだ。モダンかつ若々しい店構えで、エスプレッソ以外の抽出法も取り入れた、幅広いメニューを提案するのが共通する特徴だ。

 時間を過ごすための場所から、うまいコーヒーを堪能する場所へ。原点回帰しつつ進化する、パリのカフェシーンを覗いてみよう。

Coutume
クチューム

奥の席に座るアンナさん(左)とニナさんはドイツからの留学生。「ここはコーヒーが美味しいし、落ち着いて課題の相談ができるの」

 これまでパリでは、焙煎所とカフェは別の業種だった。ほとんどの焙煎所では抽出は行わず、自宅消費用の豆を販売。一方カフェは純然たるサービス業で、豆は焙煎済みのものを仕入れる、という棲み分けができていた。二つを一緒に行う新顔たちは「焙煎カフェ」と呼ばれ、昨今のパリで増加中。コーヒーの新しい楽しみ方を伝授し、味にうるさいパリジャンを魅了している。

真剣に、かつ和やかに。コーヒーの新しい「習慣」。

左:野菜を多く使い、健康に配慮したフードメニュー。週末にはコーヒー生産国をテーマとしたスペシャルブランチも提案。右:オーナーのひとり、トム・クラーク。

「コーヒーのすべてを伝える」というオーナーの心意気のシンボルとして、コーヒーの苗を栽培。

飼い犬も歓迎と、接客ポリシーも穏やか。

自慢の水出しコーヒー抽出器は店内でもひときわ目を引く。

 そんな動きの起点になったのは、2011年3月にオープンした「クチューム」。今、最も勢いのある一軒だ。

「パリジャンはグルメなのに、コーヒーへの関心だけがなぜかぽっかり抜けていました。彼らに向けて、コーヒーにまつわるすべてを見せ、興味をそそる場所を作りたかったんです」

 そう語るオーナーのトム・クラークは、チェコ共和国でコーヒービジネスを学んだオーストラリア人。共同経営者はメルボルンで焙煎とバリスタ技術を学んだフランス人。パリと異なるコーヒー文化に触れていたことが、開店のアイデアのもとになった。

 コンセプトは「最新の知識をもとに、的確な技術でいれた一杯を味わってもらうこと。姿勢は真剣に、でも雰囲気は和やかに」。そんな風にコーヒーを楽しむ新しい習慣を作り、パリ中に広げよう。希望を込めて、店は「クチューム(フランス語で習慣)」と名付けた。

 店は、パリ7区の高級住宅街にある。ガラスのファサードから店の奥まで見通せる開放感のある空間は、従来型のカフェよりずっと明るい印象だ。入口そばのカウンターには、イタリア製エスプレッソマシンや日本製ペーパードリップなど、自慢の抽出機器がオブジェのように並べられる。中でも目を引くのはパリでは珍しいサイフォンと、水出しコーヒーの抽出器。これを目当てにやってくる愛好家も少なくない。

 店内奥は焙煎所。オーナー自ら産地を巡って洗浄や乾燥工程をチェックした豆を、鮮度重視で日ごとに焙煎する。

 店のモットーは、豆自体の味をカバーしない浅めの焙煎と、味のバランスに合わせて選ぶ抽出法。クリアな味わいが、一口ごとにほっ、と心身をほぐしてくれる。そんな味に呼応するのか、この店のお客はみなリラックスムードだ。カウンターでスタッフたちとマニア話に花を咲かせる常連も、いれたての一杯を前に顔をほころばせる。「ここのカプチーノは、パリで一番美味しいんだよ」

Coutume
クチューム

パリの「今」を牽引する、新型カフェの代表格。クリアな美味しさのコーヒーと合う野菜いっぱいのヘルシーフードも人気。
■ www.coutumecafe.com

Café Lomi
カフェ・ロミ

アーティストの作品を壁一面に飾った店内。落ち着いた色調でまとめられている。

 前述の「クチューム」と二枚看板でパリのコーヒー事情を動かしているのが、市境に近い18区の「カフェ・ロミ」。お互いに熱意や実力を認めあう同志だが、そのスタンスにはちょっとした違いがある。「うちはもともと、プロ向けの焙煎所。カフェは〝おまけ〟なんですが、やってみたら人気が出てしまって」オーナーのアローム・パチュールは飄々とした調子で言う。

豆を買うなら研修を。最適の抽出法を伝授します。

サイフォンの技術を研修中なのは、ミシュラン一つ星レストランのサービスマン。

フィルターコーヒーはスタイリッシュなガラス製容器で。

エスプレッソ2ユーロ、チーズケーキ4.90ユーロ。

コーヒーの加工過程を紹介する研修用教本を作成。

 生豆の仲買をしていた親戚とともに、若いうちから生産地を旅していたアローム。アメリカでバリスタ技術を身につけ、20代半ばで空港や駅構内に展開するフランチャイズコーヒースタンドを起業した。そのうちコーヒー豆そのものを扱いたくなり、2010年、プロ向けの焙煎業者として「カフェ・ロミ」を始める。豆の販売とセットで抽出の研修を行い、業界の信頼を得た。

「顧客の店の性格に合わせて豆を厳選するのだから、その味を正確に出す技術を伝えるのも僕らの役目です。数百室規模の大ホテルでも、キャパシティに合った抽出法を研究、伝授します」

 さらなる転機が訪れたのは昨年。週500㎏を超える焙煎作業ができる広さの工房を探している時、パリ市所有の物件に行きあたった。賃貸契約で出された条件が、「一般客向けの飲食スペースを作ること」。ならば、と始めたカフェに、「本当に美味しいコーヒー」を再発見したパリジャンが飛びついた。国内の焙煎コンクールで優勝歴を持つロミの味を、もともと舌の肥えた人々が放っておくはずはない。市の中心から離れた店舗まで、客はわざわざ足を運ぶ。観光客も少なくない。

「その道の専門店には美味しいものがあると、パリの消費者は知っていますからね。ここ数年のコーヒー事情の大変革は、消費者のおかげですよ」

 ロミの特徴は、アロマと味の特徴を最大限引き出すために、豆ごとに変える焙煎加減。従来の焙煎基準(ライトロースト、フレンチロースト…)は意識していない。豆は少量ずつ、可能な限り新鮮なものを入荷。個性の際立った豆も扱うが、カフェ用には苦みと酸味を抑えた飲みやすいものを選ぶ。

 シンプルな店内は、彼らの姿勢そのままに硬派な印象。ガラス窓で囲まれたラボはカフェに隣接し、プロ向けの研修の様子は客席からも窺える。一般客向けの研修も、目下計画中だ。

Café Lomi
カフェ・ロミ

ガラス窓から店内の様子が見える、シンプルな外観。星付きレストランも顧客に名を連ねる、プロ向け人気焙煎所の併設カフェ。中心地から遠くともパリ中からお客が足を運ぶ。
■ www.cafelomi.com

Cafés Verlet
カフェ・ヴェルレ

2階の喫茶室。オーナー撮影の生産地の写真が飾られ、どことなくノスタルジックな雰囲気。

 今や市内に10軒以上を数える焙煎カフェだが、個性や質で評判を呼ぶ店はここ1、2年のニューオープン店ばかり。その中にあって100年以上の歴史を誇り、新顔に負けない輝きを放つ老舗がある。オーナーは研究熱心なベテラン焙煎家。その熱意と見識には、破竹の勢いの若手焙煎家たちも最大級の敬意を示す。それがパリ1区の「カフェ・ヴェルレ」だ。

グルメ大国にふさわしい、エレガントな一杯を追求。

オーナーのエリック・ドゥショソワ。

入口近くに並べられたコーヒー豆。窓越しにも香りが届きそう。

珍しいセント・ヘレナ島の豆のエスプレッソ4.50ユーロ。

さくっと歯ごたえのよいクロックムッシュはパリのベスト3に選ばれた。6.50ユーロ。

 ルーブル美術館にほど近い高級ショッピング街サントノーレ通り。ダークグリーンの窓枠がシックな店頭には、毎日焙煎される豆の麻袋が誇らしげに並べられる。年季の入った木製テーブルと皮張りの椅子の客席は、あたかも時が止まったような雰囲気。パリの老舗焙煎所には珍しい、広々と居心地のよい喫茶スペースだ。そこに一日中、絶え間なく漂うコーヒーの芳香。1880年の創業以来、親族経営で守ってきた、端正な魅力に溢れている。

 現在のオーナー、エリック・ドゥショソワは4代目。先代の叔父について焙煎を学びつつ、生産地を回って生豆を見る目を養った、生粋の職人だ。

「1960年代、フランスで初めて単一生産地のコーヒーを扱ったのが先代でした。それまではブレンド一辺倒だった大メーカーも彼に倣い、この国のコーヒー市場が変わったのです。アジアの単一生産地豆を積極的に仕入れたのも、パリではうちが最初でしたね」

 静かな声で滔々と店の歴史を語る姿は、まるで修道僧のよう。世界を旅して培った経験と人脈は、国内で並ぶ者のない財産だ。その知見を頼られ、とある生産国のコーヒー園再生計画で、アドバイザーに指名されたこともある。

 目指すのは「美食の国フランスにふさわしい、芳醇なコーヒー」。〝僧衣色〟と呼ばれる浅めの焙煎で、アロマがふわっと広がる加減を求める。抽出はエスプレッソ一本だが、流行のチェックも怠りなく、バリスタコンクールの入賞者をスタッフに迎えている。

 お客のほとんどは、本物を知るパリのグルメたち。オーナーが見つけてくる新しい豆の味と、変わらぬヴェルレの味の両方を求めてやってくる。

「心から〝ああ美味しい〟と感じられる味わいこそが、フランスらしいコーヒー。技術よりも、そういう感動を大切にしています。体験したければ、ぜひうちに飲みにいらっしゃい」

Cafés Verlet
カフェ・ヴェルレ

サントノーレ通りに面したシックな店頭。100年以上追求し続けてきたのは「フランスらしいコーヒーの味」。ベテラン焙煎家の仕事が光る、現代に生きる老舗カフェ。
■ www.cafesverlet.com

Téléscope
テレスコープ

フィルターコーヒーの抽出時間は、きっかり4分。待ち時間が長くとも、文句を言う客はいない。

 数ある新顔カフェの中でも、一風変わった魅力を持つ「テレスコープ」。自家焙煎は行わず、世界の優良な焙煎所の豆を扱う。そのココロは「コーヒーのソムリエ」。最上の豆を見極め、ベストの抽出方法で飲ませることを目指す。

定休日なしで毎日営業。厳粛な職人技の味わい。

取材日に使用した豆は4種類。イギリス、アメリカ、北欧と、遠方からも焙煎した豆を取り寄せている。

エアロプレスでいれたコロンビアのフィンカ・タマナ4.50ユーロ。

 小ぶりな店内の中心には抽出用のカウンター。特注した湯温・量の自動調節機能付き湯沸かし器が鎮座し、そこで作業するオーナーのニコラ・クレールの所作は、儀式のように厳粛だ。

 開店は2012年3月。米国仕込みのバリスタ技術でいれるコーヒーは「夢のように美味しい!」とすぐ評判になる。当初は自家焙煎もしていたが、ひとりで週に50㎏の豆を焙煎しつつ店に立つには限界がある。自分は抽出に専念しようと決め、今のやり方に。

 定休日なし、週7日の営業。常連はひとり客が多く、あまり長居をしない。1杯を愛おしそうに味わったら、さっと店を出る。常連の紳士は立ち去り際、「朝と食後の一杯は、ここに決めているんだ」と言い残した。美味しいコーヒーのためだけに存在する店では、お客のスタイルも潔い。

Téléscope
テレスコープ

車があまり通らない小道にある。世界の名焙煎家の豆をベストの状態で、シンプルに飲ませる。小さいながら本格派の店。
■ www.telescopecafe.com

1ユーロ = 約128円(2013年6月現在)

文・ 髙崎順子 / 写真・村松史郎
更新日:2013/09/9



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