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COFFEE BREAK
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紫外線対策には、コーヒーが効く?
「美白」がもてはやされる今となっては信じられないが、ひと昔前まで太陽光は浴びた方がよいとされていた。近年、太陽光の浴びすぎは紫外線による日焼けやしわ、シミなどの原因となることは広く知られているし、長い期間浴びていると腫瘍や白内障などを引き起こすこともある。
このように、紫外線は悪役のように扱われているが、一方では生きものにとってなくてはならないものでもある。紫外線には体内でビタミンDをつくるのを助ける役目がある。また、強い紫外線には病原菌を殺す力もあるので、洗濯物やふとんを日に干すのが「昔からの生活の知恵」として受け継がれているのは周知の事実だろう。
日本の紫外線照射量は、10年間で4~5%増加。
紫外線を地球に届けているのは太陽光だ。太陽光には「可視光線」と呼ばれる目に見える光のほかに、「赤外線」や「紫外線」など目に見えない光もある(図1)。
さらに、紫外線は波長の長短によってUV-A、UV-B、UV-Cの3種類に分類される。UV-Cはオゾンなどの大気層に吸収されて地表には届かない。人に影響を与えるのは、主にUV-AとUV-Bの2種類である。
UV-Bは、そのほとんどは大気層に吸収されるものの、一部は地表に到達して皮膚や目に害を与え、日焼けを起こしたり皮膚がんの原因となる。なぜならUV-Bは遺伝子に吸収されやすいため、皮膚を構成する細胞の遺伝子を傷つけ、慢性化すると皮膚がんへの変化をもたらすのだ。
一方、UV-Aは、その多くが吸収されることなく地表に届くため、長時間浴びた場合には健康への影響があるといわれている。
紫外線は、季節や時刻、天候などによってその量や太陽光に占める割合が変わる。建物や衣類で大部分は遮断されるものの、特にUV-Bは大気中で散乱する性質もある。また、地表によって反射率は大きく異なり、芝生や土なら10%以下だが、水面ならば10~20%、新雪なら80%にもなるという。さらに標高が1000m上昇するごとにUV-Bは10~12%増加する。
気になるのは、日本における紫外線の照射量が徐々に増えていること。気象庁は1990年から紫外線量の観測を始めたが、長期的な増加傾向がみられる(図2)。
大気中に放出されたフロンガスが原因とされるオゾンホールが一時期問題になったが、日本の上空のオゾン量は1990年代初頭がもっとも少なく、その後はほとんど変化がない、もしくはゆるやかに増加している。つまり、紫外線照射量の増加はオゾン量からは説明がつかない。
環境省の『紫外線 環境保健マニュアル2015』によると、照射量の増加には雲の量やエアロゾル(大気中に浮遊する液体や固体の微粒子)がかかわっている可能性があるという。エアロゾルについては、公害をなくすために進められた取り組みによって大気がきれいになった。つまり、紫外線を遮っていた大気汚染物質が減った結果、照射量が増えたと考えられている。
目にも紫外線が入るので、サングラスを推奨。
このような現状では、やはりなんらかの対策が必要だ。紫外線の強い時間帯(太陽がもっとも高くなるとき=南中時)は外出を控えること、日陰をうまく使うこと、日傘や帽子の利用、長袖など体を覆う部分の多い衣服を着ること、日焼け止めをうまく用いることなどが重要となる。日焼け止めの効果は、UV-Bを防ぐ『SPF』とUV-Aを防ぐ『PA』で表示されている。
また、近年は「目を守ること」が注目されている。実は、目から入った紫外線が体内に影響を及ぼすことが21世紀になってからわかったのだ。
今回のマウス実験によって、コーヒーを飲むことで紫外線による皮膚の炎症や色素の沈着が抑えられる可能性があることを確かめた鈴鹿医療科学大学 薬学部 研究員の山手百合香さんは、サングラスや紫外線カットのメガネおよびコンタクトレンズの着用を促す。
「紫外線が皮膚に当たると炎症を起こすことはよく知られています。しかし、目から紫外線が入ると脳下垂体を通してメラノサイトという色素細胞の数を増やし、色素沈着の増加に関係しているホルモンであるα-MSH(a-melanocyte stimulating hormone)を活性化させることもわかったのです」(山手さん)
実は、これを明かしたのが山手さんの共同研究者で、今回のマウス実験の指導・統括にあたった鈴鹿医療科学大学 薬学部 助手の平本恵一さん。この論文は2001年8月に朝日新聞でも掲載され、それ以来、『紫外線 環境保健マニュアル』にもサングラスに関する記述が載るようになったという。
コーヒーをマウスに飲ませたプレ実験。
大阪市立大学の大学院で紫外線の研究をはじめた山手さんは、なぜコーヒーに着目したのだろうか。
「ここ数年、コンビニエンスストアでもコーヒーを販売するなど販路が広がってきていますよね。ならば摂取量も多くなっているはずです」
コーヒーは人体によい影響を与えるとの論文を読んでいたという山手さん。もしもコーヒーに皮膚の炎症や色素沈着を起こす紫外線の影響を予防する効果があれば興味深いと考えたのだ。
「コーヒーに多く含まれているポリフェノールという物質自体に抗炎症作用があることは広く知られていますので、『紫外線に対する防御作用があるかもしれない』と期待を抱いていました」
ただし、山手さんと平本さんは、コーヒーの実験は初めて。そこで、まずはインスタントコーヒーを用いてマウスでプレ実験を行なった。
「ふだん人間が飲むコーヒーを用いてマウスに塗布したり、または飲ませたりして効果があるのかを検討してみました」
すると、コーヒーを塗布した群や飲ませた群は、塗布しない群や飲ませていない群よりも皮膚の炎症が抑制されるという結果が出た。
実験で際立ったのは、カフェ酸の作用。
プレ実験の結果を受けて、山手さんたちはコーヒーの成分に多く含まれるポリフェノールのうち、カフェ酸(caffeicacid)とクロロゲン酸に絞り、UV-Bに関するマウス実験を行なった。
紫外線を照射したあとの皮膚の炎症や色素沈着に関して、コーヒーの成分にどのような効果があるのか。これまで細胞レベル(*)では報告されていたものの動物実験はまだ少ない。仮にマウスで効果があれば同じ哺乳類である人間にも結びつけやすいと考えた。
実験は、①マウスにコーヒー成分を塗る「塗布実験」、②マウスにコーヒー成分を飲ませる「経口投与実験」の2種類を行なった。
コーヒー成分を塗る実験では、マウスに麻酔を軽くかけて毛を剃ってから紫外線を3日間照射し、各日カフェ酸とクロロゲン酸を塗った。そして5日後に背中の皮膚の炎症の変化と耳介(じかい **)表皮の色素細胞の変化を解析。比較対照群として、緑茶ポリフェノールで有名なEGCG(エピガロカテキンガレート)を用意した。
その結果、カフェ酸、クロロゲン酸ともに皮膚の炎症を抑えた。特にカフェ酸はより効果が高いことがわかった。
「マウスに成分を塗ったのは直接的な効果を見たかったから。しかしコーヒーは飲むものですから、今回の実験のメインは経口投与と考えています」
経口投与実験は、マウスにコーヒー成分を先に飲ませてから紫外線を当てた。飲んだあと、マウスの体内で作用するまでに多少時間がかかるからだ。塗布実験と同じように紫外線を3日間照射し、その後の5日間にわたり各成分を口から飲ませた。
まず、皮膚の炎症の変化は図3の通り。塗布実験ではカフェ酸、クロロゲン酸ともに炎症が抑制されたが、経口投与実験ではカフェ酸のみ著しい炎症抑制を現した。
図4は、マウスの背中の皮膚の炎症をドレイズ法(***)でスコア化し、グラフにしたもの。溶媒、クロロゲン酸、EGCGに比べて、カフェ酸を飲ませたマウス群の炎症が圧倒的に軽い(抑えている)ことがわかる。
続いて、耳介表皮の色素沈着の変化は図5の通りである。UV-B照射後5日目のマウスの耳介表皮の色素細胞を観察すると、比較対照群に比べて溶媒、クロロゲン酸、EGCGには黒ずみ(メラニン放出の増加)が見られるけれど、カフェ酸を飲ませたマウス群はきれいな状態を保っていることがわかる。
図6は、耳介表皮のDOPA染色による色素細胞を顕微鏡で数え、一定面積あたりの数をグラフ化したもの。ここでもカフェ酸が群を抜いてメラノサイトの増加を抑制する作用があることがわかる。
今回の経口投与実験をまとめると、特にカフェ酸においてUV-B照射後の皮膚の炎症を抑制する作用と色素沈着抑制作用が認められるという結果となった。
山手さんは「この結果は予想外でした」と明かす。
「カフェ酸群は、皮膚の炎症も抑制し、色素沈着も抑制するという結果が非常に顕著に出たのでびっくりしました。動物実験でこれほど明確な差が出ることはなかなかないのです」
一方、コーヒー成分であるクロロゲン酸は、今回の経口投与実験では抑制作用は認められなかった。
「クロロゲン酸は、口から体内に入って皮膚まで到達する間に、なにがしかの変化、もしくは代謝があるのかもしれないと考えています」
山手さんは、クロロゲン酸については、経口による皮膚への到達濃度などさらなる検討が必要だと述べた。
「コーヒー」という飲み物としての効果。
今後、どのような研究をしていくつもりなのか、山手さんに聞いた。
「カフェ酸を投与したマウスは、メラニン色素の増加を抑えるという現象は出ましたが、なぜそれが起きているのかを解明しなければなりません」
紫外線によってメラニン色素が増加する一般的なメカニズムおよび経緯はわかっている。そのどの部分にカフェ酸が関与しているかを解き明かせば、現代の「美白」ニーズにもつながるヒントが得られるかもしれない。今回の実験の続きはぜひ進めてほしい。
平本さんは1日にコーヒーを約3杯、猫舌の山手さんは朝と夜、アイスコーヒーを2杯は必ず飲む。今回の実験にあたり、コーヒーの成分をあらためて調べて驚いたそうだ。「コーヒー豆にはいろいろな成分が含まれているのですね。糖類やアミノ酸、脂質まで入っていました」と山手さんは言う。
今回、マウスに飲ませたコーヒーの成分は、メーカーや製品によってばらつきはあるが、一般的な数値で見ると人間が飲む20杯ほどに相当する。平本さんは「『量が多い』と感じるかもしれませんが、自然界の食物全般はさまざまな物質や細胞がミックスしたことの効果のようなので、いろいろなものが混ざり合って構成する『コーヒー』という飲み物で効果があると考えた方が自然ですね」と話している。
鈴鹿医療科学大学 薬学部 研究員。医学博士。大阪市立大学大学院医学研究科博士課程修了。2014年から現職。研究分野は光生物学、皮膚免疫学、皮膚・消化管粘膜の免疫応答変化。
鈴鹿医療科学大学 薬学部 助手。農学博士。研究テーマは紫外線による光老化のメカニズム、目から侵入した紫外線の行動への影響、アトピー性皮膚炎のメカニズムなどの解明。