COFFEE BREAK

世界のコーヒー

世界のコーヒー-World-

2014.09.30

【駐日大使のコーヒーブレイク】駐日フィンランド大使

【駐日フィンランド大使】マヌ・ヴィルタモ閣下 コーヒーが結ぶ、フィンランド人の心。

 一人当たりコーヒー消費量が世界第一位といわれるフィンランド共和国。人々がコーヒーを愛する理由とそのコーヒーのある生活を、駐日フィンランド大使が明かして下さいました。

フィンランドの家具やアートを配したリビングでコーヒーを楽しむヴィルタモ大使ご夫妻。来年結婚40周年を迎えられるそうだ。

「日本で大使を務めるのはひとつの夢でした。いまはその夢が叶い、本当に嬉しく思っています。日本に住んでみての印象も、ポジティブなものばかりです。治安がいいし人々がとても友好的。それに何千年もの歴史の中で培われた文化がある。フィンランドとの共通点も多く、特に自然への愛やデザイン、〝静けさ〟を大切にする気持ちなどはとても似通っているように感じます」  ロイヤルブルーのコーヒーカップを手にそう微笑むのは昨年9月に駐日フィンランド大使に着任されたマヌ•ヴィルタモ閣下。日本人とフィンランド人に〝静けさ〟を尊ぶ共通点があることに気づいたのは、公邸界隈を散策後にリーサ夫人とともにコーヒーブレイクのために訪れた店でのこと。 「私たちはカフェを訪れると15分くらいの間でしょうか、これといった会話もせずただコーヒーを楽しみます。静かな時を満喫するのですが、日本の皆さんも同じように過ごされていますね」

コーヒー休憩を保証する、世界で唯一の雇用契約。

モノトーンが基調の清潔感溢れるインテリア。


飾り棚にはフィンランドのアートに混じり日本の扇子も。両国のデザインの競演が見事。

〝森と湖の国〟フィンランドらしい、青のテーブルセッティング。

 フィンランドは国民一人当たりのコーヒー年間消費量が世界第一位。ブラジル、コロンビア、グアテマラなどから輸入した生豆は国内の焙煎所でロースト、グラインドして販売される。 「我が国では浅炒りのコーヒーが好まれます。フィンランドの軟らかくピュアな水には浅い焙煎が合いますし、毎日たくさん飲むにはそのほうが健康にいいのではないでしょうか。飲み方ではブラック派が圧倒的だと思います」  朝食後にコーヒーを飲みながら新聞を読む......というのがフィンランド人の定番。そこまでは日本人のライフスタイルとさほど変わりはないが、その後に向かう職場で、雇用契約によって一日に午前と午後の計二回、〝コーヒーブレイク〟を取る権利が保証されている点が実にユニークだ。単なる休憩ではなく、〝コーヒー〟と明記されているのがポイントで「これは世界の中でも唯一、フィンランドだけのルール。コーヒーブレイクは職場の人々とコミュニケーションを図る絶好の機会です」とヴィルタモ大使も胸を張る。  各々の職場には〝コーヒーバンク〟のような制度があり、皆で少しずつお金を出し合って豆の購入などに充てるそうだ。コーヒーマシンのある部屋には休憩を取るために自然と人々が集い、コーヒーを片手におしゃべりに興じる。ところが近年のインターネットの普及により、フィンランドでは自宅で仕事をする〝在宅勤務〟族が急増中。 「そんな人々が真っ先に口にするのが〝コーヒーブレイクが恋しい〟なんです」

コーヒーが不可欠な、フィンランド人のもてなし。

「日本着任以来、自宅でコーヒーを口にする機会が増えました」と大使。

 なぜフィンランド人はこれほどまでにコーヒーを愛しているのだろうか? 「私個人的には、やはりフィンランドがとても寒い国だから温かいコーヒーが好まれるのだろうと考えます。歴史を繙いてみると、フィンランドにコーヒーが伝わったのは18世紀初頭。まだスウェーデンの一部だった頃で、最初は特権階級のみに許された飲み物でした。その後だんだんと一般家庭にまで浸透していき、戦争で輸入が禁止された時代などを経て、いまではコーヒーはフィンランド人の日常生活にごく当たり前にあるものになりました」  特筆すべきは女性の社会進出が進んだ19世紀初頭、彼女達の集まりにコーヒーとお菓子が不可欠だったこと。その頃には『コーヒーとともに、テーブルに7種類のお菓子(それも手作り!)を並べる』ということわざもあった。これは必ず7種類のお菓子を用意しなくてはいけない......という意味ではなく、客人に対してのおもてなしの気持ちを表す表現だという。

左上から時計回りに:焦がしバターの風味が魅力のスプーンクッキー。国民的詩人の名を冠したルーネベリタルト。フィンランド共和国外務省公式の大使専用コーヒーセット。

ムーミンの故郷もフィンランド。大使は日本製のムーミンマグをご愛用中。

「今日のフィンランドでは家庭やオフィスの区別なく、お客様がいらしたら必ずコーヒーをお出しすることになっています。そうしなければ、とても失礼にあたるのです。それほどまでにコーヒーはフィンランド人のおもてなしの心に欠かせない要素。結婚式やお葬式など家族•友人が集う機会にも必ずコーヒーが登場します」  そう語る大使に誘われ、やわらかな陽光が差し込むダイニングスペースへ。美しい北欧デザインで彩られたテーブル上には、なんとリーサ夫人お手製のお菓子がずらり。北欧らしいベリーのジャムを使ったルーネベリタルトにスプーンクッキー、マーブル模様のタイガーケーキなど、いずれも目にも舌にも美味しい絶品揃い! フィンランドの紋章入りカップに注がれた熱いコーヒーとの相性も抜群だ。  ここ数年、日本ではフィンランド生まれの菓子店やフィンランドをコンセプトにしたカフェが続々とオープンしているが、大使はどのような感想をお持ちなのだろうか。 「これからもその流れは続くと聞いています。どんどんフィンランドのコーヒー文化を紹介してほしいですね」  政治や経済はもちろんのこと、「日本では文化的な外交でも大きな役割を果たしたい」と考えるヴィルタモ大使にとって、コーヒーは頼もしきパートナーに違いない。
駐日フィンランド大使 Mr. MANU VIRTAMO マヌ・ヴィルタモ閣下 1952年、フィンランド共和国生まれ。1979年、ヘルシンキ大学政治学修士号取得。1980年、フィンランド共和国外務省入省。在ロサンゼルス(米国)フィンランド総領事、在ヘルシンキ本省対外経済関係局 輸出・国際化・投資促進調整官などを経て、2013年9月、駐日フィンランド大使として来日。
Finland フィンランド フィンランド主要情報 ■ 面積 : 338,430平方キロメートル(日本の約9割) ■ 人口 : 約540万人  ■ 首都 : ヘルシンキ ■ 言語 : フィンランド語、スウェーデン語 ※フィンランド外務省データによる
フィンランド大使館 Embassy of Finland in Japan 東京都港区南麻布3-5-39 ☎03-5447-6000
文・伊藤ゆずは / 写真・大河内禎 更新日:2014/09/30
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