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CINEMA

“ダイナー”の男女は、ほろ苦い人生が似合う。

Illustration by takayuki ryujin

 アメリカには〝ダイナー〟という独特の食文化がある。レストランでもカフェでもファストフードでもなく、卵料理やパンケーキ、ワッフル、ハンバーガーやパイなど、おおよそアメリカ的とされる様々な料理がリーズナブルな料金で供される庶民の味方である。

 そしてダイナーに付き物なのが飲み放題のコーヒー。ワンピースの制服にエプロンというお決まりの格好をしたウェイトレスがコーヒーサーバー片手に注ぎ足しに来てくれる。これまたアメリカの風物詩的光景で、幾多の作家の卵がコーヒーだけで粘るだけ粘り、いつか出版されるはずの原稿を書き続けたに違いないなどと、想像をめぐらせずにいられないロマンがある。

ウェイトレスと新人コック、2人の恋の行方は…。

 アメリカではダイナーを舞台にした映画も数多く作られているが、なぜだろうか、映画に登場するウェイトレスにハッピーな人物は少ない。薄給でわずかなチップに頼って生活し、ままならない人生を呑み込んだような諦念を感じさせる彼女たち。例えば『恋のためらい/フランキー&ジョニー』でミシェル・ファイファーが扮したフランキーは、頑なに幸せから背を向けようとしているウェイトレスだ。

 30代でひとり暮らしのフランキーの職場は、マンハッタンにある老舗ダイナー。常連客のオーダーを熟知し、ベテランの同僚からも頼られる姉御肌で、なぜかどんなに固い瓶のフタも開けてしまう特技の持ち主。職場の仲間とは友情の絆で結ばれているが、心の奥底ではとてつもない傷と孤独を抱えていて、本当に心を開くことができない。目下の願いは、中古のビデオデッキを買ってレンタルビデオを見まくること。ビデオデッキ、というのは、これが懐かしい80年代の物語だからである。

 そんなフランキーの閉じた殻をこじ開けるように、猛烈にアタックしてくる男が現れる。新人コックのジョニーだ。「俺たちはフランキーとジョニー、歌に出てくる2人みたいだろう!」と夢見がちに熱弁を振るうけれど、実際には46歳の中年男。ケチな犯罪で刑務所に入れられて、さんざん人生を棒に振ってきたジョニーは、今度こそは人生をムダにしないと誓っているのだ。

 最初はジョニーの無神経なゴリ押しに辟易していたフランキーも、やがてジョニーのまっすぐな求愛に心が動く。しかし、フランキーの辛い過去がジョニーとの未来を拒絶する。人生に期待しても傷つく結末が待っているだけ。これ以上、1ミリたりとも傷つきたくない。弱みをさらけ出すフランキーの心の叫びを、ジョニーは希望へと向けさせることができるのか?

 フランキーのアパートで、2人の迫真のやり取りが15分間続くラストが圧巻で、アクの強さを隠そうともせずに熱演する名優アル・パチーノの存在感と、繊細さと芯の強さを感じさせるファイファーの美しさが際立つ。2人を取り持つドビュッシーの名曲「月の光」の使い方も絶妙な名シーンである。

監督が自身の娘に捧げた、ハッピーエンディング。

 『ウェイトレス~おいしい人生のつくりかた』のヒロイン、ジェナもまた不幸を抱えた人物だが、彼女の不幸はいささか変わっている。夫との間に子供ができたのだが、妊娠した自分にどうにも耐えられないというのだ。

 ジェナは町一番のパイ作りの名人で、働いているダイナーのパイはすべてジェナのお手製。彼女の夢は、地元のパイ作りコンテストで優勝して、賞金をもらって一から人生をやり直すこと。夫のアールは嫉妬深く威圧的で、ジェナの愛情を独占していないと気が済まない極度の束縛男だったのだ。

 ウェイトレスのチップは毎日夫に取り上げられ、わずかに貯めたヘソクリも家出をするには到底足りない。しかも追い打ちのような妊娠。愛してもいない男の子供を産んで牢獄のような人生を生きるしかないのか? 脳裏には赤ん坊を売り払うアイデアまで浮かんでくる。妊娠すると母性があふれると聞いたけれど、重荷ばかりで愛情なんてちっとも湧いてこないじゃないの!

 普通なら口に出さない本音も、ジェナは平気で口に出す。産婦人科医が「おめでとう」と言えば「めでたくないから二度と祝福しないで」と釘を刺す。とはいえ殺伐とした作品ではない。これは監督のエイドリアン・シェリーが自らの妊娠に着想を得て作り出したファンタジックなコメディ映画なのである。ただし、厳しい現実を笑い飛ばすビターなユーモアがたっぷり。まるで甘いパイにはほろ苦いコーヒーが必要だと言わんばかりではないか。

 シェリーは本作を「娘へのラブレター」と表現したが、哀しい悲劇によって遺書にもなった。映画の公開を前に、強盗に殺害されてしまったのだ。女優でもあったシェリーは劇中でウェイトレス仲間のドーンを演じていて、愛らしいキャラで空気を和ませている。また幼い愛娘のソフィアも、ジェナの娘として顔を出す。不幸せなウェイトレスに最高のハッピーエンディングを贈ったシェリーの想いを、在りし日の彼女の姿とともに受けて止めて欲しい。

『恋のためらい フランキー&ジョニー』
DVD発売中 ¥1,500(税込)
発売:パラマウント・ジャパン

『プリティ・ウーマン』のヒットメーカー、ゲイリー・マーシャル監督がオフ・ブロードウェイの人気舞台を映画化した大人のラブストーリー。マンハッタンを舞台に、過去を捨てたい男と未来を信じられない女の不器用な恋模様を描く。

©2002 BY PARAMOUNT PICTURES. All Rights Reserved.

『ウェイトレス ~おいしい人生のつくりかた』
DVD発売中 ¥1,490(税込)
発売:20世紀フォックス ホーム エンターテイメント ジャパン

最低夫のもとから逃げ出すことを夢見る田舎町のウェイトレスが、妊娠や担当医との不倫を通して、真の人生をつかみ取る姿を描く。監督、脚本、出演を兼ねたエイドリアン・シェリーの遺作となった。

©2010 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved. 

文・村山章(映画ライター)
更新日:2013/10/23



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