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コーヒーと世界遺産 Vol.4

贅の限りを尽くした、コーヒーカップ受け。
トプカプ宮殿博物館

オスマン帝国の政治の中枢であったトプカプ宮殿。1459年に着工し、約16年の歳月をかけて完成。約70万㎡の敷地は行政区、スルタンの居住区、ハレムの3地区に分かれていた。オスマン帝国滅亡後、1924年に博物館として甦り、今に至る。精緻なタイル装飾など、美しい宮殿建築も見どころのひとつ。


 トルコ最大の都市イスタンブール。アジアとヨーロッパ、二つの大陸にまたがるこの街は古くから東西交易の要衝として栄えた。4世紀末から15世紀半ばまでは東ローマ帝国の都がおかれ、その後、20世紀前半まではオスマン帝国の首都であった。古代ローマの遺構とオスマン帝国の歴史的建造物が混在する旧市街は「イスタンブールの歴史地区」として世界遺産に登録され、なかでもオスマン帝国時代に歴代スルタン(皇帝)の居城であったトプカプ宮殿では、宝飾品をはじめ数多くのスルタンの遺産を見ることができる。

オスマン帝国の、栄光と美の遺産。

このコーヒーカップ受けは19世紀に作られた。高さ6㎝、径4㎝。多色の細かい花の文様をあしらったエナメル彩が鮮やか。オスマン朝では、短剣の鞘にも色とりどりの宝石がびっしりとあしらわれるなど、スルタンの持ち物には贅の極みともいえる豪奢なデザインが好まれた。
©Topkapi Palace Museum


「この杯のようなものは〝コーヒーカップ受け〟です。オスマン帝国の宮廷では、コーヒーを入れた小型のカップをこのようなコーヒーカップ受けにのせて供していました」と話すのは、イスラム美術に詳しい桝屋友子先生。

 この地にコーヒーが伝来したのは16世紀。イスタンブールには世界初のカフェが誕生し、宮廷でも愛飲された。

「高さは6センチ。小ぶりながら、金製でエナメル彩(ガラス質の粉末を油などで溶いた顔料を使って絵付けし、低温で焼き付ける。七宝焼きに似た技法)が施され、ルビーやダイヤモンドがちりばめられています。これだけ豪華なものは、スルタンかその一族が使っていたものに間違いないでしょう」

 小さな食器一つにも贅の限りを尽くし、技巧を凝らす。スルタンの優雅で華やかな日々が偲ばれる。

「青く縁取られた部分は月(三日月)と星の透かし彫りになっています。イスラムでは月と星は重要です。昔から天文学や占星術がとても発達していて、星はスルタンの生活と結び付いていました。今も月を中心とした暦を使い、新月の上昇がさまざまな儀式の始まりの時を告げます。ラマダン(イスラム教の断食月)の開始と終了も、新月の確認によって確定するのです。この透かし彫りのように東の地平から徐々に新月が上ってきた後に、スルタンもコーヒーを飲んだのかもしれませんね」

 ラマダン明けに味わったコーヒーの味は、格別だったに違いない。

桝屋友子(ますや・ともこ)
ニューヨーク大学大学院美術研究所にて博士号取得。西アジア、中央アジア、北アフリカにおけるイスラム時代の美術史の研究・調査を、物質資料及び文字資料に基づいて行っている。主な著書に『すぐわかるイスラームの美術』(東京美術)など。

監修・桝屋友子(東京大学東洋文化研究所 教授)/文・牧野容子
更新日:2013/09/9



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