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コーヒードクターに聞く

善玉コレステロールの機能を高めるコーヒー。

赤ワインのポリフェノールが体にいいということは知られているが、コーヒーにもポリフェノールが含まれていることは意外と知られていない。どんな効果があるのだろうか。

 抗酸化作用などの働きを持つポリフェノールは、動脈硬化の予防に効果があるとされている。赤ワインに多く含まれていることから、日本でも赤ワインブームが巻き起こったことは記憶に新しい。

 このポリフェノール、実はコーヒーにも多く含まれている。しかも、コーヒーのポリフェノールは、動脈硬化につながる血管壁に蓄積されたコレステロールを減らす機能を強化する働きがあるというのだ。

 実験を行った防衛医科大学校の近藤春美助教に話をうかがった。

「フレンチパラドックス」で注目、ポリフェノールの効能。

 防衛医科大学校の老年内科に籍を置く理学博士の近藤助教は、ポリフェノールと動脈硬化の研究を行ってきた。以前在籍していたお茶の水女子大学でも、ポリフェノールを研究していたという。

「動脈硬化は高齢の方に最も多い病気のひとつですので、今は老年内科で研究を続けています」(近藤助教)

 ポリフェノールが動脈硬化の予防に効果がある理由を、近藤助教は次のように説明する。

「そもそも赤ワインのポリフェノールが注目された理由は、フランスで心臓や血管など循環器系の疾患で亡くなる人が少ないことにあります。フランス人の食生活は、脂質(脂肪)たっぷりのはずなのに、他国に比べて心血管疾患がひじょうに少ない。そこでフランス人が食事中に飲む赤ワインが注目され、その中に含まれているポリフェノールが研究対象となったのです」

 脂肪の摂取量が多いにもかかわらず、心血管疾患で亡くなる人が少ないのは赤ワインのおかげだとする論文「フレンチパラドックス」の発表によって、ポリフェノールはにわかに脚光を浴びた。以降、脳梗塞や脳溢血、心筋梗塞、大動脈瘤などの動脈硬化性疾患にもポリフェノールが効くのではないかと研究が盛んになったのだ。

 近藤助教がポリフェノールの研究を始めたのは10年以上前のこと。なぜ「コーヒーのポリフェノール」に着目したのか。理由は2つある。

 1つめの理由としては、コーヒーに対する肯定的な研究が次々と発表されたことにある。2008年に、「タバコを吸う男性で、コーヒーを多く飲む人ほど脳梗塞の発症率が低い」や「コーヒーを多く飲む人ほど、冠動脈疾患で死亡する人が少ない」といったコーヒーに対する肯定的な研究が発表されたが、それらの効果をもたらす物質として、コーヒーの中のポリフェノールの名前が挙がっていた。

 もう1つの理由は、コーヒーは世界でもっとも広く飲用されている飲み物だからだ。

「世界中で飲まれているコーヒーですから、体にいい効果があるとわかれば人々の役に立つでしょう。ですから、コーヒーのポリフェノールは研究していく価値があると思ったのです」

コレステロールの善玉と悪玉の違い。

 コーヒーに含まれるポリフェノールがなぜ体にいいのか。
 それを理解するには、人間の生体メカニズムを知る必要がある。下の図を見てほしい。これは動脈硬化のメカニズムを表している。

HDL(High density lipoprotein)は動脈硬化の原因となる余分な コレステロールを引き抜いて肝臓に戻すため「善玉コレステロール」と呼ばれている。

「私たちが食べた食物の脂は、肝臓でコレステロールに合成され、血管から全身に運ばれます。血管はたんなる管ではなく幾層にも分かれていて、層ごとにいろいろな生体メカニズムが働いているのです。動脈硬化は、血管の内部にコレステロールがベタベタとくっついているイメージが強いようですが、実は血管の内側ではなく、血管壁下から血管壁にコレステロールが蓄積します。それが血管を押しつぶすような格好になって、動脈硬化を引き起こすのです」

 図の中にある「HDL」とはHigh density lipoproteinの略で、俗に「善玉コレステロール」と呼ばれているものだ。それに対して「LDL」はLow density lipoproteinの略で「悪玉コレステロール」と呼ばれている。

「LDLが悪玉といわれているのは、酸化したLDLを単球から分化したマクロファージが食べて『泡沫化マクロファージ』となり、それが蓄積して動脈血管を肥厚し、動脈硬化巣となるからなのです。ポリフェノールが動脈硬化の予防に効くのは、ポリフェノールにはLDLを酸化させる活性酸素を消去する働きがあるからです」

 ならば、善玉コレステロールと呼ばれるHDLの役割とは何なのか。

「HDLは、血管壁内の泡沫化マクロファージからコレステロールを引き抜いて、肝臓に戻す働きをするのです」

血管の中を流れている HDL は、マクロファージの細胞膜にある「コレステロール輸送タンパク」(ABCG1 や SR-BI)を通じてコレステロールを外に運び出す。

 血管の中を流れているHDLが、どうやってコレステロールを引き抜くのか。それを説明しているのが左の図だ。

「マクロファージの細胞膜には『コレステロール輸送タンパク』があります。『ABCG1』や『SR ー BI』と呼ばれるものですね。実は、これがコレステロールを外に運び出すトンネルのような役割を果たしているのです」

 HDLはコレステロール輸送タンパクを通じて引き抜いたコレステロールを肝臓へと運搬する「逆転送」を行うが、その理由は「人間はコレステロールなしでは生きられない動物だから」である。たとえば、ステロイドホルモンはすべてコレステロールからできている。だから、余分なコレステロールは肝臓に戻して、人間の生体メカニズムに必要なホルモンをつくる材料にしているというわけだ。つまり、HDLは人間にとって、きわめて重要な役割を果たしているのである。

引き抜きの能力を高めるカフェ酸とフェルラ酸。

 HDLには抗酸化作用や抗炎症作用などいくつかの役割があるが、近藤助教は先ほど説明した「コレステロールの引き抜き・逆転送作用」に着目した。

 コーヒーにはポリフェノールの一種「クロロゲン酸」が豊富に含まれている。ただし、クロロゲン酸はコーヒーとして飲まれると体内で代謝されて、「カフェ酸」と「フェルラ酸」となる。

そこで近藤助教はカフェ酸とフェルラ酸およびコーヒーによるマクロファージからのコレステロール引き抜き作用を、次の3つの実験で検討した。
①THP ー 1マクロファージ様培養細胞を用いた実験
②人の単球と血清を用いた実験
③マウスを用いたコレステロール逆転送実験

 まず①は、THP ー 1というマクロファージに見立てた細胞を培養し、そこに印となる放射能を付けたコレステロールを添加する。マクロファージは放射能を付けたコレステロールをどんどん取り込み、24時間後にはコレステロールを含んだマクロファージとなる。つまり、動脈硬化巣のマクロファージのモデルをつくるのだ。

 そこにカフェ酸やフェルラ酸を添加し、HDLも加える。24時間後に細胞と培地を分け、培地中に残った放射能の量を測り、カフェ酸とフェルラ酸の働きでHDLがどれくらいの量のコレステロールを引き抜いたかを調べる。結果は下の図の通り。

カフェ酸、フェルラ酸ともに濃度が高くなるにしたがって、コレステロールの引き抜き能に有意性が認められた。

「カフェ酸とフェルラ酸は、濃度が高くなるにしたがって、放射能の値が高くなりました。つまり、コレステロールを引き抜く能力(引き抜き能)が高まったという結果が得られました」

 また、THP ー 1マクロファージ細胞のコレステロールを外に運び出す輸送タンパク(ABCG1とSR ー BI)の遺伝子とタンパクの発現を調べると、カフェ酸、フェルラ酸ともに増加していた。

 実験②は、3日前からコーヒーを飲んでいない被験者8名(男性6名、女性2名)にインスタントコーヒー10g(5杯相当)を溶かした350mlのコーヒーと、350mlの水を飲ませて、「飲む前」と「飲んでから30分後」に採血して変化を調べるものだ。

 この実験は、被験者の個体差をなくすために「クロスオーバースタディ」という手法を用いた。実験初回は、4名はインスタントコーヒーを、残りの4名は水を飲む。そして6週間後には、前回インスタントコーヒーを飲んだ人には水を、水を飲んだ人にはインスタントコーヒーを飲ませて採血した。

 さらに、採血した血液から単球と血清を取り出し、マクロファージに分化させる。マクロファージにHDLを添加してコレステロールの引き抜き能を測ったところ、明らかな差が出た(下の右図)。

(左)マクロファージをマウスに注射してから 48 時間後までに排出された糞便中の放射能コレステロールの量。フェルラ酸を投与した群は水に比べて37%増加となり、有意差が認められた。
(右)採血した血液からマクロファージに分化させて、コレステロールの引き抜き能を測ったところ、コーヒーを飲んだ後のマクロファージの方が HDL によるコレステロールの引き抜き能が高かった。

「コーヒーを飲用する前の血清から取った単球よりも、コーヒーを飲んだ後の単球の方がHDLによるコレステロールの引き抜き能が高かった。統計学的に有意差が付いているので、水と比べれば劇的に上がったといってよいと思います」

 また、実験①と同様に、遺伝子とタンパクの発現を比べたところ、ABCG1とSR ー BI、どちらも発現が増加していた。

コーヒーのクロロゲン酸が動脈硬化を予防する。

 実験③は、7週齢のマウス18匹を3群に分けて、水、インスタントコーヒー、フェルラ酸をそれぞれ1週間投与(飲用)。そして1週間後に放射能を付けたコレステロールを添加したマクロファージをマウスのお腹に注射した。マクロファージに含まれたコレステロールはマウスのHDLによって全身に運ばれる(HDLによる逆転送)。放射能が付いたコレステロールは肝臓に運ばれて、胆汁から小腸を経て、最終的には糞便中に排出される。そこで血清と肝臓、胆汁、糞便中のコレステロールの放射能量をカウントした。

「血清は24時間後(注射で抜いた)と48時間後(解剖時)に、肝臓と胆汁は48時間後に調べましたが、大きな変化はありませんでした。なぜなら48時間経てば、摂取したものはほとんど排出されているからです。ところが、注射してから48時間後までに排出された糞便中の放射能コレステロールの量は、フェルラ酸投与は水に比べて37%増となり、有意差が認められました(左図)」

 以上3つの実験の結果、コーヒーはマクロファージからのコレステロール引き抜きを促進して、HDLの機能を改善し、動脈硬化性疾患を予防していると考えられる。また、その予防効果にはコーヒーのポリフェノールが寄与する可能性が示唆された。

浅煎りのコーヒーを、1日に数杯ずつ。

 近藤助教は次の実験をハムスターで行う予定だ。というのも、マウスはHDLが多くてLDLが少ないが、人間はHDLが少なくてLDLが多い。そこでHDLが少なくてLDLが多いハムスターを使った実験を考えている。

「私どものグループでは、HDLそのものの量を増やすのにも、コーヒーは紅茶よりも有効だったというデータを得ています」

 その実験では女性が毎日コーヒーを5杯ずつ、2週間連続で飲んだところ、紅茶を飲んだ群よりもHDLが増加したというのだ。

 HDLには薬としての可能性もある。これまで動脈硬化の予防に用いられる薬としては「LDLの低下療法」として用いられる「スタチン」という薬物が主流だった。しかし、世界でもっとも多く使われているこの薬でさえ、得られる予防効果は3割程度。つまり、残りの7割は防ぎきれていない。そこで注目されているのがHDLなのだ。

「スタチンがカバーしきれない7割のリスクを軽減するものの1つとして、HDLが注目されています。『HDLを増加させる』あるいは『HDLの機能を改善する』という性質を持つ薬が、動脈硬化予防の次世代の薬として開発の対象となっているのです」

 また、コーヒーは深煎りすればするほどクロロゲン酸が失われていく性質があると、近藤助教は明かす。

「動脈硬化が心配な方は、浅煎りのコーヒーを、1日に数杯ずつ飲むことをお勧めします」

 世界でもっとも多く飲まれているコーヒーが動脈硬化の予防に役立つのなら、これ以上いいことはない。赤ワインが「フレンチパラドックス」によって注目されたように、コーヒーのポリフェノールが広く知られる日は、すぐそこまで来ているかもしれない。

近藤春美(こんどう・はるみ)
防衛医科大学校内科学講座老年内科助教。博士(理学)。2005年お茶の水女子大学大学院博士後期課程修了。お茶の水女子大学生活環境研究センター研究機関研究員を経て、2007年から現職。日本ポリフェノール学会評議員を務める。

文・前川太一郎 / イラスト・西田ヒロコ
更新日:2011/09/30



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