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コーヒードクターに聞く

コーヒーを飲んでアンチエイジング?

ヒトにあてはめると60代に相当する高齢マウスにコーヒーを飲ませると、老化のスピードをゆるめる効果が見られたという。老化とコーヒーの関係とは?

 階段を少し上るだけで息切れしたり、ちょっとしたことが思い出せなくなったりすると「年はとりたくないけど、どうしようもないよ……」とぼやきたくなるが、あきらめるのはまだ早い。

「老化は止められませんが、老化する速度を遅らせることはできるのですよ」と言うのは東京都健康長寿医療センター研究所の研究部長、石神昭人さんだ。石神さんによると、ヒトの場合は20歳~30歳で老化が始まる。

「1歳児が2歳の誕生日を迎えたときに『老化した』とは言わないですよね。おおよそ20歳までは発生・成長の段階で、成熟期を迎えると老化が始まる。これが老化の正しい考え方なのです」

 加齢と老化は意味が違う。アンチエイジングという言葉が市民権を得たが、訳語として正しいのは「抗老化」。老化は心がけ次第で抵抗できるのだ。

ヒトとマウスの、生存曲線は同じ。

 ヒトの老化は心がけ次第と言ったのは、個人差が大きいからだ。
「50歳になったとき、きちんと体の機能が維持できている人もいれば、70歳くらいのレベルになってしまっている人もいます。遺伝的な要因もありますが、それは25~30%ほど。残りの70~75%は、食生活や運動などの生活・環境要因が影響しているのです」

 老化とは加齢に伴うさまざまな生理機能の低下を指す。だからいったん落ちた機能を元通りに回復させることは無理だが、落ちてしまった機能を維持したり、落ちていくスピードを遅らせることはできる。これがアンチエイジング(抗老化)の本質だ。

 下の図を見てほしい。これはヒトやマウスなどの生存率曲線を描いたもの。最長寿命こそ差があるけれど、生存率はほぼ同じカーブを描いている。つまり、食生活や運動など生活・環境要因を最善の状態に保つことで、ヒトもマウスも最長寿命まで生きられる可能性があるのだ。

最長寿命は、ヒト120歳、マウス40カ月、ハエ100日、線虫30日と差はあるけれど、生存率曲線はほぼ変わらない。生活・環境要因を最善の状態に保ち、曲線を最長寿命へ近づけることを研究者たちは目指している。(石神昭人さん提供資料)

コーヒーに着目した、2つの理由。

 ヒトの老化に大きな影響を及ぼすと考えられているのが「mTOR(エムトール)」と呼ばれる遺伝子だ。

「mTORは、ヒトの細胞すべてに含まれている遺伝子です。mTORをもつたんぱく質が増えたり活性化すると、老化がより進むといわれています。アメリカでは、mTORの活性を妨げる抗生物質『ラパマイシン』をマウスに与えたところ、平均寿命も最長寿命も延びたとする研究報告があります」

 mTORは老化の進行と密接に関連する。そこで石神さんは、老化を制御する研究の一環としてコーヒーに着目した。その理由は2つある。

 1つめは、毎日食べたり飲んだりするもので老化のスピードを抑えられれば理想的。そこで、多くの人が口にするコーヒーを探ろうと考えた。

 2つめは、コーヒーには人の体によい影響を与えることを示唆する先行研究が数多くあるからだ。寿命にかぎっても、カフェインを用いることで酵母(イースト)の寿命が延びたという海外の研究論文があるという。

「これらの理由から『コーヒーにはmTORの活性を抑え、老化のスピードを減速させる効果があるのではないか』と考えたのです」

mTORの活性を、コーヒーが抑えた。

 コーヒー以外にもカフェインを含む飲料は多いので、石神さんはレギュラーコーヒー、カフェインレス・コーヒー(以下、デカフェ)を用いた。実験対象としたのは、20カ月齢以上のマウス。ヒトにあてはめると60代に相当する。前述したようにヒトとマウスの生存率曲線はほぼ同じなので、高齢マウス=高齢者とみなすことができる。

 石神さんは、4カ月間(17週間)にわたり、高齢マウスをレギュラーコーヒーとデカフェ、水(コントロール群)の三群に分けて飼育した。一日に与えたインスタントコーヒーの量は、60代の日本人男性に置き換えて3.3~3.7杯と計算されている。

 その結果、レギュラーコーヒーとデカフェともに起きた現象が2つある。1つは「mTORの活性が抑えられ、その量も減少したこと」。つまり、老化のスピードを遅らせる結果が得られたのだ。mTORの活性を抑えるのは、先行研究で示唆されたカフェインではなく、コーヒーそのものの作用だと考えられるという。

 もう1つは「血液中の脂肪酸が減って、肝臓のATPが増えたこと」。ATPとは細胞中のミトコンドリアが生み出すエネルギー源。つまりレギュラーコーヒーとデカフェは高齢マウスのエネルギー量を増やしたことになる。

 レギュラーコーヒーのみの現象としては、活動期(夜間)の行動量が増えたことが挙げられる。デカフェはさほど変わらなかったので、これはカフェインの影響が考えられる。

「とても興味深い結果です。mTORの活性を抑える物質がカフェインではないことがわかったのです。コーヒーに含まれる何かなのでしょう」
 コーヒーが老化のスピードを遅らせる可能性があることがわかった今、石神さんはコーヒーが高齢マウスの寿命に影響を与えるかどうかを研究中だ。

あえてコーヒーで、リラックスタイム。

 学生時代から老化のメカニズムの解明と制御を研究している石神さんだが、かつては「なぜ人生の終末にかかわる研究なんてしているの?」と不思議がられたという。しかし、当時の将来人口動態推計はすでに高齢社会の到来を予測していた。今は、老化の速度を遅らせて、個々の最長寿命に近づける方法を探っている。

 石神さん自身、コーヒーは毎日3~4杯は飲むが、個人差もあるので過信しすぎてもよくないと考えている。

「今回の実験ではよい結果が出ましたが、体質にもよるのですべての人に効果があるとは言い切れません。ただし、コーヒーにはリラックス効果があります。実は、精神状態が体に及ぼす影響はかなり大きいというデータも出ています。忙しい日々、あえてコーヒーを飲んで一息つくことによって気分転換をする――そうした副次的な効果も欠かせないと思います」

 老化のスピードを抑えるために大事なこととして、外を歩くといった運動を習慣化するほか、石神さんはさまざまなメディアでビタミンCの積極的な摂取を呼びかけている。ビタミンCは水溶性なので溜めることができず、不足しがち。飲料やサプリメントを活用するのもよい方法だと勧めている。

 コーヒーを飲んで、定期的な運動とビタミンCの摂取を心がける。これがアンチエイジングの第一歩となる。

石神 昭人(いしがみ・あきひと)
東京都健康長寿医療センター研究所 老化制御研究チーム 分子老化制御 研究部長。薬学博士。米国国立衛生研究所(NIH)、東京都老人総合研究所、東邦大学准教授などを経て2014年から現職。著書に『ビタミンCの事典』(東京堂出版2011)。

文・前川太一郎 / イラスト・西田ヒロコ
更新日:2016/08/18



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