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コーヒードクターに聞く

毎日飲むコーヒーが、脂肪肝を抑制する。

運動不足でお腹まわりが気になるあなた。脂肪肝ではないだろうか。ところが、うれしいことにコーヒーを毎日飲むことで脂肪肝の発生を抑えられるという。

 脂肪肝とは、肝臓に中性脂肪が多く蓄積された状態のことだ。肝臓に占める中性脂肪が全肝細胞の30%を超えて溜まった状態を脂肪肝と呼ぶ。健康な肝臓と脂肪肝の写真を見比べると一目瞭然だ。脂肪肝の白い部分は中性脂肪である。

 脂肪肝の原因は、運動不足とカロリーオーバー。食べすぎや飲みすぎで肝臓に中性脂肪やコレステロールが溜まってしまうのだ。

 脂肪肝が恐ろしいのは、心筋梗塞や狭心症などの心臓病、脳梗塞など血管系の疾患につながるから。糖尿病、動脈硬化も含め、脂肪肝の人はこれらの病気にかかりやすい。運動不足も禁物だ。近年は30代から40代の人に脂肪肝が増えており、過去10年間で2倍以上増加したといわれている。

「NASH」という名の、恐ろしい脂肪肝。

 脂肪肝とはどういうものなのか。専門家にお話を聞いた。
 消化器、とくに肝臓を専門とする船津和夫さんは、公益財団法人 三越厚生事業団の嘱託医を務める。慶應義塾大学の医学部を卒業し、同大内科消化器科に入局したあと、消化器の疾患を研究するためカナダのトロント大学病理学教室に留学した経験を有する。
 東京歯科大学助教授を経て1995年に財団法人 三越厚生事業団・三越総合健診センター所長に就任。以来、診療と健診、さらには健診センターの問診票やデータを活かして、生活習慣病の疫学的研究に取り組んできた。

 船津さんは、30代から40代に脂肪肝が多く発生するのは、不規則な生活が原因だと指摘する。
 「この年代は働き盛りです。仕事が忙しいため、夕飯を夜10時や11時に食べることも多いでしょう。しかも疲れているので、運動もせず寝てしまう。そうすると肝臓に脂肪が蓄えられてしまうのです」(船津さん)

 空腹時間が長いこともよくないという。昼食を正午から午後1時に食べたとすると、夕飯は10時間も後になる。お腹がへっているので早食いになることも悪影響だ。満腹中枢が指令を出す前に食べ終えるので、ついつい食べすぎてしまう。
 船津さんは脂肪肝の予防策として、夕方に軽食を摂ることを勧める。
 「夕方5時くらいに軽く食べて、夕飯を減らしましょう。また、ゆっくりよく噛んで食べることも大事です」

 知っている人もいるかもしれないが、脂肪肝には大きく分けて2つの種類がある。(図1)
 脂肪肝の原因の1つはアルコールだ。「1日にビール2本以上、日本酒なら2合飲むと脂肪肝は必発します」と船津さんが言うように、アルコールに起因する脂肪肝は多かった。これを「アルコール性脂肪肝」という。

 一方、近年はアルコールをあまり飲まないのに脂肪肝になる人が増えている。これを「非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD(注1))」と呼ぶ。
 判断基準は、1日に摂取するエタノール(アルコール)の量だ。エタノールを20g未満(ビールで400ml未満、日本酒で1合未満)しか摂っていないのに脂肪肝になると、NAFLDと診断される。
 そのNAFLDは、さらに2つに分けられる。たんに中性脂肪が溜まっているだけで、肝機能が低下したとしても軽度なものは「単純性脂肪肝」だ。

 恐ろしいのは、もう一方の脂肪肝「NASH(注2)」である。
 ふつうならば脂肪肝が炎症を起こすことはないという。しかし、なんらかの酸化ストレスや腸管内の毒素(エンドトキシン)が作用することで肝細胞障害が発生し、炎症が起きる。そうすると、炎症によって死んだ細胞の隙間を埋めるように線維化が進み、NASHになるのだ。

 怖いのは、線維化がさらに進行すると肝硬変になり、最後には肝がんになること。
 船津さんは「これまで肝がんの最大の原因はC型肝炎でしたが治療できるようになった今、これからはNASHが主流になっていくと考えられています」と警告する。

 健康診断の受診者のうち、脂肪肝はおよそ35%いる。3人に1人以上の割合だ。さらに非アルコール性のNAFLDは20%で、NASHは2%とされている(図2)。診断は肝臓の組織検査、いわゆる肝生検(かんせいけん)が必要になる。
 NASHを患う人は国内で数十万人から100万人いると見られている。また、NAFLDからNASHに移行するケースもあるので注意が必要だ。

(注1)NAFLD:Non-alcoholic fatty liver disease の略
(注2)NASH:Non-alcoholic steatohepatitis の略

γ‐GTP値から、血圧との関係を検証。

 船津さんが肝臓の研究対象としてコーヒーに着目したのは、三越厚生事業団に移ってからのこと。三越総合健診センターで定期健診を受ける人は、年間およそ1万6000人にのぼる。しかも、企業と契約しているので、10年以上にわたって健診をつづけることが多い。つまり、数千人もの大量かつ継続的なデータが得られるのだ。

 ところが、当時の問診票には、緑茶の設問はあったものの、コーヒーはなかった。コーヒーを楽しむ日本人は増えている。そこで船津さんは「コーヒーを1日に何杯飲むか」という項目をつくった。

 当時、「γ‐GTPの数値が高い人は高血圧が多い」という報道があった。同様に心臓病も多いといわれていた。ところが、γ‐GTPは肝機能を測る代表的な数値である。肝臓と高血圧、心臓病はあまり関連性はないはずだった。しかも、γ‐GTP値が高い状態とは、すなわち脂肪肝を指す。1990年ごろからは「コーヒーは肝障害を改善する」という研究が海外で発表されてもいた。

 船津さんはこれらの情報を組み合わせて「コーヒーを飲むとγ‐GTP値が下がるのなら、血圧も下がるのではないだろうか」と考えた。それがコーヒーを研究するきっかけである。

 まず着手したのは、コーヒーと血圧の関係を見ることだった。
 アルコールを飲む男性42人を集めて、AとB、2つのグループに分けた。A群はフィルターコーヒーを1日2杯以上、1カ月間毎日飲む。B群はコーヒーを飲まない。そして1カ月後、今度はA群がコーヒーを飲まず、B群がコーヒーを飲みはじめる。そうして血圧を測ったところ、コーヒーを飲んでいる間はたしかに血圧が下がっていた。

 船津さんは、コーヒーにはカフェインが含まれるため、血圧は上がるのではないかと思っていた。ところが、結果は逆だった。アメリカの研究によると「カフェインの効果は一過性のもの」。コーヒーを継続して飲んでいる人は体が慣れているので、カフェインが血圧に影響を及ぼすことはないはずだった。

 ということは、血圧には酸化ストレスが関係しているので、コーヒーに含まれるクロロゲン酸などのポリフェノールの抗酸化作用によって血行がよくなり、血圧が下がったのだろうと考えた。この結果を雑誌に掲載すると、大きな反響があったという。

コーヒーは、肝機能を改善する。

 血圧を手はじめに、船津さんは次の研究に進む。三越総合健診センターの受診者たちの豊富なデータからコーヒーと肝機能の関係性を調べたのだ。
 健康な成人4554人を「アルコールを飲む人・あまり飲まない人」「太っている人・太っていない人」「コーヒーを飲まない人・少し飲む人・たくさん飲む人」の12群に分けて肝機能をみた。すると、アルコールの量や肥満の有無にかかわらず、「コーヒーは肝機能を改善する」ことがわかった。(図3)

 実は海外にも同じような結果の研究データがあった。アメリカでは「コーヒーを飲むと肝障害の人でも改善効果がある」、イタリアでは「コーヒーは肝硬変を予防する」というものだ。

 その後、国立がんセンターが「コーヒーを多く飲む人ほど肝がんを予防する」というデータを発表。また、2013年10月に発表されたばかりの最新のメタ解析では「コーヒーを1日に3杯飲むと肝細胞がんのリスクが半分になる」という結果も得られているという。

脂肪肝の発生を、抑えるコーヒー。

 前述のように、海外では以前からコーヒーと肝臓の関係について研究されていたが、当時の日本には調べている研究者がいなかった。2005年から発表しはじめた船津さんはこの分野の先駆者といえる。

 肝臓の研究者として、「コーヒーが肝臓の病気にこれほど効果があるのなら、きっと脂肪肝にも効くはずだ」と考えた船津さん。ところが、海外を見ても脂肪肝とコーヒーに関する研究はなかった。ちょうどNASHが問題化しつつある時期でもあった。

 そこで船津さんは健診受診者のデータを用いて、「単年度調査」と「5年間にわたるコーヒー飲量の推移」という2つの研究を実施した。
 「単年度調査」は、健康な男性1612人の1日当たりのコーヒー飲量(杯数)を1999年度と2004年度で比較し、腹部超音波検査によって把握した脂肪肝との関係を統計学的に検討したのだ。

 各単年度のデータを解析すると、肥満気味でコーヒーを飲む量が少ない人は、痩せていてコーヒーをよく飲む人に比べると脂肪肝が多いという結果が得られた。
 つまり、肥満度は脂肪肝に関係していて、コーヒーはその脂肪肝の発生を抑えている可能性があることがわかったのだ。同時に緑茶も調べたが、脂肪肝の抑制効果は認められなかった。(図4)

コーヒーと脂肪肝の、マッチド・ペア研究。

 2つめの「5年間にわたるコーヒー飲量の推移」は、正常肝から脂肪肝になった人(A群)と、正常肝のままの人(B群)の2群をつくって比較する「マッチド・ペアテスト」によって行なった。

 前記の男性1612人のなかから、1999年度には脂肪肝がなかったのに2004年度には脂肪肝が認められた164人をA群とした。そして健康な人のなかから、A群164人と年齢やBMI(肥満度)、コーヒー飲量が似ている人を328人選び、B群とした。

 1999年から2004年にかけて、A群とB群のコーヒー飲量の推移を比較したところ、この5年間で脂肪肝になった人は「コーヒーを飲む量が減っている」ことがわかった。もちろん、正確を期すために、飲酒量や運動量などコーヒー以外のファクターを取り除く回帰分析も行なっている。
 それにより、コーヒーを飲むことは脂肪肝の発生を抑制しているだろうと結論づけた。(図5)

 船津さんがこの研究成果を発表したのは2005年。ようやく最近になって「コーヒーはNAFLDを抑制する」というデータが出はじめている。

「ほどほど」が、よい付き合い方。

 コーヒーは脂肪肝をはじめ肝臓のいろいろな病気に効果があるという、コーヒー党にはうれしい話を教えてくれた船津さん。ご自身も毎朝カフェオレを飲み、仕事中はインスタントコーヒーや缶コーヒーを飲んでいるそうだ。
 コーヒーとの付き合い方をうかがうと、「毎日、あるいは1日おきに、日に2~3杯に留めておくのがよいでしょう」と教えてくれた。

 人体に対するコーヒーの効果は徐々に明らかになっている。「去年、興味深いデータが発表されました。さまざまな人種におけるコーヒーと寿命の関係を調べた研究です。結果は『コーヒーを飲むほど寿命が長くなる』というものでした」と言う船津さん。しかし、なかには評価がバッティングする研究発表もある。そこで、1日2~3杯ならばメリットがあるだろうと考えているのだ。

 仕事も食事も運動もやりすぎると支障が出る。それと同じように、コーヒーとの付き合い方も「ほどほど」がよいということだ。

船津和夫(ふなつ・かずお)
公益財団法人 三越厚生事業団 嘱託医。医学博士。慶應義塾大学医学部卒業。専門は消化器(肝臓)。東京歯科大学助教授などを経て、1995年財団法人 三越厚生事業団・三越総合健診センター所長に就任。2012年6月から現職。

文・前川太一郎 / イラスト・西田ヒロコ
更新日:2014/02/26



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