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コーヒードクターに聞く

コーヒーを飲めばシミは防げる!?

 齢を取ると気になるシミ。「えっ、いつの間にできた?」と愕然とした経験のある人もいるはずだ。コーヒーには驚くべきことにシミを予防する効果があるという。

 「お肌の大敵」と女性が目の敵にする紫外線。日差しが強い時期には、日傘やアームカバーを用いる女性を多く見かけるし、日焼け止めは日常的に使われるようになっている。

 忌み嫌われる紫外線だが、カルシウム代謝に重要な役目をはたすビタミンDを体内でつくる手助けをする。また、表皮のバリア機能を強化し、カビや細菌、ウイルスなどに対する抗微生物ペプチド(自然免疫反応の1種)を合成するなどよい影響もある。晴れた日に洗濯物やふとんを干すのは、強い紫外線に病原菌を殺す力があるからだ。

 つまり紫外線は、人間など生きものにとってよい側面もあるといえる。

「日焼けは健康によい」は、1980年代に覆された。

 今となっては信じがたいが、「健康によい」と日焼けが推奨されていた時代があった。いつ変わったのだろうか。

 神戸大学名誉教授で医療法人再生未来 再生未来クリニック神戸の院長を務める市橋正光さんは「1980年代の前半まで、日焼けは健康にいいと言われていました」と話す。市橋さんは紫外線による皮膚損傷、発がん、光線過敏症、色素異常症などを長年研究している。

 1968年にイギリスの研究者が「太陽の紫外線を浴びるとがんになる」機序を明らかにしてから、紫外線の研究が注目される。市橋さんは1972年にイギリスへ渡り、ロンドン大学で紫外線の研究をはじめる。同じ年に、日本の化粧品メーカーが国内で国際シンポジウムを開き、「紫外線を浴びると遺伝子に傷がついてがんになる」と報告し、当時の学者、皮膚科医はその事実を知ることになる。

 紫外線への注目がさらに加速したのは、オゾン層の破壊がクローズアップされたことによる。オゾンホールができると、オゾン層で吸収されていた紫外線が地上に届くからだ。

 オーストラリアでは、紫外線による健康被害を予防しようと1980年代に「サン・スマート」プログラムが導入された。子どもへの紫外線予防指導は特に力を入れており、「スリップ・スロップ・スラップ・ラップ(Slip、 Slop、 Slap、 Wrap)」のスローガンのもと、「長そでのシャツを着る」「日焼け止めを塗る」「帽子をかぶる」「サングラスをかける」ことが推奨された。学校には大きな木を植えて木陰をつくり、遊具に屋根をつけた。日本でも紫外線の害に対する認識が深まり、1998年に母子健康手帳から「日光浴」を推奨する記述が削除された。

注意すべき紫外線は、AとBの2種類。

 太陽の光は、「可視光線」と呼ばれる目に見える光のほか、赤外線や紫外線など目に見えない光がある。

 紫外線には3種類ある。UVA(以下、A)、UVB(同B)、UVC(同C)だ。Cはオゾンなどの大気層に吸収されて地表には届かないので除外する。対策を講じなければならないのは、AとBの2種類だ。

 「1日に数時間太陽の光を浴びると日焼けを起こしますが、それはBのしわざです。Bは遺伝子に吸収されやすく、皮膚を構成している細胞の遺伝子に傷をつけるのです。慢性化すると皮膚がんの原因になります」と市橋さん。

 これに対し、エネルギーとしては、Aが遺伝子を傷つける作用はBの1000分の1ほどしかないといわれている。しかし、地表に届く量が多く、決して無害ではない。

「Aは細胞膜や細胞内の物質に吸収されて活性酸素をつくり出します。その活性酸素が、体内で悪さをするのです」

 活性酸素は体に必要な物質だ。殺菌・消毒の役割があり、体内に侵入した細菌やウイルスを撃退するために白血球から放出されている。その一方で体に悪影響を与えてしまう。活性酸素によって体内の細胞や組織が酸化して変質し、機能が衰えると考えられる。

 ややもするとBが注目されがちだが、Aを予防する大切さも広まっている。

「今年から紫外線のAをより効率よく防ぐ効力を明記した日焼け止めが発売されました。従来の『SPF』はBを防ぐものですが、Aを防ぐのは『PA』です。効果の程度を+(プラス)で表していて、数が多いほどAを防ぐ効果が高くなります。従来は3段階でしたがPA++++が追加され4段階になりました」

 Bは新しいシミをつくる能力が高い。Aは逆にシミをつくる能力はとても低いが、すでに存在するシミを濃くする。だからBだけでなくAもしっかり防がなければならない。

なぜシミはできるのか、体の中のメカニズム。

 では、なぜシミはできるのか。

「急性の日焼け反応は赤くなり、2〜3日後に黒くなります。ひどい日焼けをしたら皮がむけますね。それを繰り返すことで、20年ほど経つと顔や手の甲にシミが出てきます。これが最初の老化現象です。『光老化(ひかりろうか)』と呼んでいます」

 30歳を過ぎるころからシワが出はじめ、35歳ごろから良性腫瘍(高齢者に多いイボ)が出現する。60歳くらいになると前がん症(がん前駆症)が現れ、早い人には皮膚がんも出てくる。オーストラリアでは、45歳を過ぎるとおよそ半数の人に前がん症が現れるそうだ。皮膚がんの発生率は日本人の数十倍にのぼる。

「そもそも日本人と欧米人の肌はまったく違うのです。黄色人種の皮膚がんの罹患率は、白色人種に比べると25〜50分の1ほど。黄色人種にはメラニンが多いので紫外線がある程度防御されるからです。ただし、シミは圧倒的に黄色人種の方が多いです」

 シミはメラニンという色素が肌に染みついてできる。皮膚の表面に近い部分を表皮というが、表皮のもっとも下の層にある色素細胞(メラノサイト)でつくられるメラニンが日焼けで増え、皮膚に沈着してシミができるのだ。

「色素細胞は表皮の中にはあまり存在しません。表皮の90%以上は角化細胞です。1個の色素細胞の周囲には約36個の角化細胞があり、色素細胞がつくったメラニンは36個の角化細胞が受け取って表皮へ上がっていきます」

「色素性乾皮症(しきそせいかんぴしょう)」という、難病の研究から。

 ひどい日焼けをすると皮膚がめくれる。それは紫外線があたって傷ついた細胞は傷が治りきらないまま分裂すると異常な細胞が生まれる可能性があり、がんになるのを防ぐためにアポトーシス細胞として捨てているからだ。このように細胞が正常に更新されていればなんの問題もない。しかし、紫外線によって傷ついた細胞は遺伝子に変異を起こし、メカニズムが狂ってしまう。

 図1を見てほしい。左が正常な角化細胞で、右が紫外線によって遺伝子が変異した角化細胞だ。変異した角化細胞はET‐1やαMSH、SCFなど代表的な遺伝子産物(ペプチドやサイトカイン)を色素細胞に送る。色素細胞はそれらを通じて「メラニンをつくれ」という指令を受け取ってメラニンをつくり続ける。角化細胞が正常ならば途中で色素細胞への命令をやめるはずだが、メカニズムが狂っているのでどんどん送ってしまう。

 図2で遺伝子に変異が起きることを説明しよう。これはDNAに傷があるときの複製だ。DNAはアデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、チミン(T)の4種で構成されている。「C=C」は傷を負ったシトシンを表している。

 通常は「CとG」「AとT」がペアになるが、傷を負ったまま分裂した「C=C」は本来Gと結びつかなければいけないのに50%の確率でAと結合する。これが紫外線による変異だ。

「紫外線で負った傷をもったまま細胞が分裂すると、このように間違った遺伝子の細胞ができてしまう。シミや腫瘍はこうしてできていくのです」

 紫外線によって受けたDNAの傷を正しく治せない病気もある。色素性乾皮症だ。

「生後4カ月でシミになり、早ければ4歳、遅くとも10歳過ぎには皮膚がんになって、20歳までにがんが多発し、死亡する病気です。シミは治らないので、とにかく皮膚がんにならないように治療します」

 市橋さんはロンドン大学で学んだあと、この病気になった子どもたちをずっと診療してきた。罹患率は2万5000人〜4万人に1人だ。最近ようやく難病に指定された。

「たとえこの病気にかかっても、徹底的に紫外線を防御すればふつうの子どもと同じように6歳になってもシミはできないのです。この経験から、皮膚のダメージには紫外線がものすごく影響しているとわかったのです」

コーヒーに目を向けたのは、お茶の水女子大の疫学研究。

 市橋さんがコーヒーに着目したきっかけは、お茶の水女子大学教授の近藤和雄さんたちがコーヒー摂取量とシミの関連性を調べた横断研究だ。

「その研究では『コーヒーを日常的に飲んでいる人は肌にシミが少ない』という結果が出たのですが、ある企業から『サイエンスの見地から調べてくれないか』と依頼があったのです」

 それまでコーヒーについてよく知らなかったという市橋さんは、共同研究を行っている岡山理科大学工学部の安藤秀哉教授とともにコーヒー豆に多く含まれているポリフェノール、特にその中のクロロゲン酸に着目した。

「色素細胞がメラニンをつくる過程で、クロロゲン酸がメラニンをつくらせないなんらかの働きをしているのではないかと考えたのです」

 市橋さんは2つの実験を行った。実験1は、培養した角化細胞の中にメラニンを多く含む細胞小器官(メラノソーム)を投入し、角化細胞がどれだけ食べるかを調べたもの(図3)。

 何も与えていない状態(コントロール)ならばメラノソームをたくさん食べるが、コーヒーの生豆を入れると食べる量が極端に抑えられた。また、生豆ではなく煎豆では少し増え、クロロゲン酸のみを与えるとまた少し増える。ということは、クロロゲン酸だけでなく、コーヒーに含まれる他の物質も関係していることがわかる。

「この実験結果は強烈でした」と市橋さんは振り返る。
「『STI』とは、角化細胞がメラノソームを取り込むことを抑える抑制剤で、他の3項目と比べて投入量を8倍にしているのですが、抑制効果はクロロゲン酸よりも低い。コーヒーの効果は相当なものでした」

 実験2は、角化細胞(ケラチノサイト)と色素細胞(メラノサイト)が直接触れないようにフィルター分離培養したもの。角化細胞は「メラニンをつくれ」と色素細胞に指令を出すが、その関係にクロロゲン酸がどのような影響を及ぼすのかを見た(図4)。

「クロロゲン酸が入っていなければ指令はたくさん出て、メラニンをつくっています。ところがクロロゲン酸が入っていると、角化細胞からの指令が少ない。どうやらクロロゲン酸が指令を出すのを抑えているようです。およそ30%抑制しています」

 実験1では「角化細胞がメラノソームを貪食することを抑える」、実験2では「角化細胞が『メラニンをつくれ』という命令を出すことを抑える」ということが明らかになった。

 コーヒーにはさまざまな物質が含まれているので、何がどう影響しているかはわからない。しかし、コーヒーにはたしかにシミを予防する効果があることがわかった。

太陽と上手に付き合い、「抗・光老化」を。

 市橋さんは今も実験を続けている。詳しいプロセスや、皮膚にどれほどの濃度のクロロゲン酸が回れば効果があがるのかなどがわからないからだ。

「コーヒーは興味深いですね。次の段階として、遺伝子についた傷を早く治すような効力がコーヒーにあればよいと考えています。それを証明するために、やることは多いですよ」

 コーヒーは1日に少なくとも3杯、多い日は5〜6杯飲むという市橋さん。シミを予防するためにどのような点に気をつけたらいいのかと尋ねると「太陽と上手に付き合うことです」という答えがかえってきた。

「紫外線はビタミンDをつくるので毎日数分は浴びた方がいいですが、浴びすぎないようにしてください。あとは抗酸化作用の多い食材をとることです。サケやカニ、野菜ならば色の鮮やかな赤いピーマンや紫色のキャベツ、緑色のブロッコリーなどは抗酸化力が増しますよ。もちろんコーヒーは欠かさず飲んだほうがよいでしょう」

 紫外線による「光老化」を防ぎ、シミの出現を遅らせるコツは、日光と食事に注意しつつ、コーヒーを楽しみながら毎日飲むことのようだ。

市橋正光
(いちはし・まさみつ)

神戸大学名誉教授。医学博士。医療法人再生未来 再生未来クリニック神戸院長。1939年徳島県生まれ。神戸大学大学院研究科修了。専門は紫外線による皮膚損傷、発がん、光線過敏症、色素異常症などの研究。

文・前川太一郎 / イラスト・西田ヒロコ
更新日:2013/09/9



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