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コーヒードクターに聞く

コーヒーを飲む人は糖尿病になりにくい?

日本で増えている糖尿病患者。放置しておくと恐ろしいことになるが、どうやらコーヒーには糖尿病を予防する効果があるらしい。

 糖尿病は現代病の1つとして恐れられている。糖尿病にはいくつかのタイプがあるが、その95%は食べ過ぎや運動不足といった生活習慣が関係する「2型糖尿病」だ。

 これは日本人に限ったことではない。日本を含む先進国だけでなく、アジアやアフリカの途上国でも深刻な事態となっている。

 国際糖尿病連合の報告によると、成人(20~79歳)における世界の糖尿病人口は2011年現在で約3億6600万人。成人人口の約8.3%が糖尿病と推定されている。この数は今後も増えつづけ、2030年には約5億5200万人に達するという。これは成人の10人に1人が糖尿病になる割合である(約9.9%)。

 糖尿病人口上位3か国は第1位が中国、第2位がインド、第3位がアメリカ(図1)。2030年になってもこの順位は変わらないものの、特に中国とインドでは糖尿病が爆発的に増加すると予測されている。

自覚症状がないため、放置されやすい糖尿病。

 国際糖尿病連合の統計によると、2011年時点での糖尿病人口ランキングで、日本は第6位の1070万人だった(図1)。

 また、糖尿病に関連した病気で亡くなる日本人の数は、男性が7738人、女性が6926人、合計1万4664人に上る(厚生労働省2011年人口動態統計[確定数]より)。

 日本人の死因の第1位である悪性新生物(がん)の35万7305人や、第2位の心疾患(19万4926人)、第3位の肺炎(12万4749人)に比べれば数としては多くない。しかし、実際には糖尿病(高血糖)や高血圧による悪影響で心疾患や脳血管疾患となるケースが多いそうだ。

 しかも、健康診断で血糖値が高いという結果が出ても、初期は痛みなどの自覚症状がないため、放置している人が多い。だが、糖尿病を放っておくと合併症を発症するリスクがある。

 人工透析が必要となる「糖尿病性腎症」、視力が弱まり失明の恐れもある「糖尿病性網膜症」、手足がしびれたり筋肉が萎縮するなどの「糖尿病性神経障害」などが合併症だ。

 ただし、これらの合併症は予防できる。仮に糖尿病になったとしても、血糖値が高い状態が5~10年つづかなければ合併症には至らない。

 さらに「2型糖尿病」ならば、食事や運動といった生活習慣に注意してさえいれば、その発症自体を抑えることができる。

 そんな糖尿病の予防にコーヒーが役立つかもしれないという論文が発表された。九州大学大学院 医学研究院の古野純典教授による研究である。

「負荷後2時間血糖値」が糖尿病判定のカギ。

  古野氏の専門は「予防医学」である。病気の予防と健康増進をはかる研究だ。国民がどうしたら健康に、そして長生きできるか。その方法を探すことを目的としている。

 研究分野はがんと生活習慣病全般の疫学だ。疫学とは予防医学を実践するにあたって、どうして病気が起きるのか、またどうして糖尿病が増えたのかという原因を明らかにすることだ。

 古野氏は1986年から退職前の自衛官の健診データを解析していた。研究対象としてコーヒーと出会ったのはその頃である。

 自衛官の肝機能の数値を調べていたところ、コーヒーを飲む人は飲酒によって上がるγ–GTPの数値の上昇度が低いことがわかった。コーヒーにはγ–GTPの上昇を抑制する働きがあることを発見したのだ。古野氏は「それ以来、コーヒーに関心を持ちました」と振り返る。

 さらに、どういう生活をすると糖尿病になりやすいのかを調べていく。その際、コーヒーにも着目していた。

 古野氏らが調べたのは「境界型糖尿病」、いわゆる「糖尿病予備軍」と呼ばれる人たちだ。糖尿病であるか否かは「75-g経口ブドウ糖負荷試験」という特別な試験方法によって判断する。これはWHOが糖尿病の診断基準としているもので、一般向けの健康診断では行われない測定方法だ(一般の健康診断では空腹時血糖値の測定のみ)。

 図2は75-g経口ブドウ糖負荷試験によるWHOの診断基準を表している。注目してほしいのは縦軸だ。「負荷後2時間血糖値」は通常であれば140を超えることはない。200を超えたら完全に糖尿病だが、140以上200未満は「耐糖能障害」と診断される。

 耐糖能障害=耐糖能が悪い。つまり「ごはんを食べると血糖値が上がりやすくなる」ということだ。

 古野氏らが自衛官のデータを使って耐糖能とコーヒーの関係を調べていたところ、2002年にオランダの学者がコホート研究(大規模追跡調査の解析)を発表した。それは「コーヒーを1日7杯以上飲んでいる人は、2杯程度の人に比べて糖尿病になる危険が半分になる」というものだった。

より厳密な結果を求めて「介入研究」を実施。

 オランダの学者のあとに発表された古野氏らのデータも、コーヒーが耐糖能の悪化を予防することをうかがわせる結果となった。そこで古野氏は次のステップとして、より精度の高い実験を行おうと考える。

「ふつうに生活している人たちにその暮らしぶりを聞いて調べるのは『観察研究』です。しかし、実はひそかにダイエット中だったり、摂取糖分が少ないといったほかの要因が考えられるので、観察研究では確定的な証拠にはならないのです」(古野氏)

 古野氏らが実施することを決めたのは「介入研究」だ。介入研究とは「摂取すべき食品や栄養素などを定めて生活状態を変化させて、その効果を調査する研究」である。研究参加者にある条件を与えて、コーヒーに耐糖能の悪化を抑制する効果がほんとうにあるのかどうかを調べたのだ。

 そのためにまず着手したのは研究参加者を募集すること。朝日新聞や西日本新聞などのメディアに広告を出した。1人につき謝礼4万3000円を払う。問い合わせは276人に上った。ただし、全員を参加させたわけではなく、次の条件をクリアした人だけが参加する資格がある。

① 40~64歳の男性
② BMI(㎏/㎡)25~30
③ 服薬治療中あるいは日常生活が制約される疾病を有していないこと
④ 胃切除歴がないこと
⑤ 過去1年間の空腹時血糖値が100~140㎎/dL、または今回の測定値が90~140㎎/dL
⑥ コーヒーを飲むことはできるが、毎日飲む習慣がないこと

 図3のように、このすべての条件を満たす者に絞り込むと、研究参加者は49人となった。このうち、試験期間中に胆のう炎になったり、耐糖能が悪化して治療が必要になった人など計6人に抜けてもらったが、その他の43人による試験は2008年3月から2009年8月に5期に分けて行われた。

世界的にも例がない16週間におよぶ試験。

 古野氏らの介入研究は、インスタントコーヒーを1日に5杯ずつ、16週間にわたって飲みつづけることで、糖の代謝が改善するのかどうかを検証するものだ。

 参加者を無作為に次の3つのグループに分けた。
①普通のコーヒー(カフェイン含む)群
②デカフェコーヒー(カフェイン抜きのコーヒー)群
③非コーヒー(ミネラル水)群

 図4のように、試験開始前の2週間は全員にカフェインの摂取を禁止した。そして飲用期間開始前と、飲用8週間後、飲用16週間後の3回、空腹時採血と75-g経口ブドウ糖負荷試験を行った。

 16週間の飲用期間中、①普通のコーヒー群と②デカフェコーヒー群はインスタントコーヒーで毎日5杯飲むことを義務づけた。コーヒー1杯につき、インスタントコーヒー粉末小さじ1杯(約1.2~1.3g相当)で、砂糖やミルクは一切入れない。そして、③非コーヒー群にはミネラル水を支給した。

「16週間にわたってコーヒーやお茶の飲用を制限されることはとてもたいへんだったと思いますが、おおむね条件は守られていました」と振り返る古野氏。試験結果を厳密化するため、参加者にはアポイントなしで突如訪問し、唾液を摂取して検査するということも行っていた。

 16週間にもわたるこのような介入研究は、それまで行われたことがなかった。あったとしても2週間、4週間といった短期ばかりで、しかも空腹時血糖をメインにしていたため、耐糖能そのものは詳しく調べていない。唯一同じような方法を用いてアメリカで調べたオランダの学者がいたが(2011年に論文発表)、試験期間は半分の8週間だ。その点で古野氏の介入研究は世界的にも貴重なものと言える。

コーヒーを飲む習慣が糖尿病を予防する。

 はたして結果はどうだったのか。古野氏は「おおむね予想通りのものとなりました」と語る。

 図5は、75-g経口ブドウ糖負荷試験で得られた飲用16週後の血糖値の変化率を示している。左側は「負荷後2時間血糖値」で、右側が「血糖値AUC」だ。血糖値AUCとは、血糖値とインスリンの負荷後反応を総合的にみる指標のこと。

 普通のコーヒー群は負荷後2時間血糖値が平均13.1%低下したほか、すべてマイナス(改善)の方向に変化している。非コーヒー群はすべてプラスとなっている。

 それに対してデカフェコーヒー群の負荷後2時間血糖値は差がなかったが、実はこの16週間で腹囲の変化があったという。普通のコーヒー群は平均で1.5cm減り、逆にデカフェコーヒー群は平均1.3cm増えた。腹囲が増えると耐糖能が悪化する。そのため、腹囲の変化を考慮して数値を調整したところ、デカフェコーヒー群はマイナス7.7%となり、普通のコーヒー群のマイナス8.2%と近い値が出た。逆に非コーヒー群は9.0%と増加している。これは参加者全員がもともと耐糖能が悪い人たちなので、プラスの変化につながっているのだ。

 これらの結果から、古野氏は「普通のコーヒーとデカフェコーヒー、双方ともに耐糖能の悪化を予防することが示唆された」と分析している。

 興味深いのは、飲用8週間の時点で調べたときには差がなかったのに対して、16週間後では変化が表れたことだ。

「24週間、32週間と期間を伸ばしていくと、また違った結果が得られるかもしれませんが、少なくとも習慣的にコーヒーを飲むことは耐糖能の悪化を予防するようである、ということがわかりました」

 古野氏は今後もコーヒーの研究はつづけていくつもりだ。介入研究は時間も予算も嵩むのでなかなかできないが、今は観察研究を行なっている。福岡市東区の50~70歳の住民1万3000人を対象とした追跡調査だ。

「コーヒーを飲んでいる人のヘモグロビンA1cを調べています。ヘモグロビンA1cとは、過去2~3か月の血糖の状態を総合的にみることができる糖尿病の指標です。これから詳しく研究します」

 メカニズムはわからない。けれど、コーヒーが糖尿病に対して効能があることははっきりした。「ただし……」と古野氏は釘を刺す。

「糖尿病を予防するために効果が大きいのは食事と運動です。それがもっとも重要であることは変わりません。ですので『コーヒーには軽度の効果はある』というくらいに考えてください。コーヒーは1日に3~4杯飲むことをお勧めします」

 糖尿病は恐ろしい病気だが予防はできる。ならば、食事と運動に気をつけて、その合間にコーヒーを楽しむ――。それが健康で長生きするための1つのライフスタイルといえそうだ。

古野純典
(この・すみのり)

九州大学大学院 医学研究院教授。1949年長崎県生まれ。1974年九州大学医学部卒業。1981年ロンドン大学疫学修士課程修了。福岡大学医学部助教授、防衛医科大学校教授を経て、1995年より九州大学医学部教授。

文・前川太一郎 / イラスト・西田ヒロコ
更新日:2013/03/01



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