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コーヒービジネス最前線

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世界中で愛されるコーヒー。楽しみ方、味わい方は、お国柄によっても千差万別です。コーヒービジネスもまた、その都市ならではのチャレンジを重ね、さまざまな広がりを見せています。SDGsをテーマとしたコーヒービジネスを追うシリーズ、今月は「環境保護」と「子どもの権利の尊重」を同時に掲げるパリの人気店をご紹介。東部の新開発地区にある「スーパーカフェ」です。

すべての世代が美味しく憩い、環境保護も学べるカフェ。

Vol.114 フランス・パリから

車輌の入らない公園前の立地。子どもたちが元気に駆け回る。公園の周囲に高齢者ホームや学校、保育所を配置した、パリの次世代型再開発地区の一角だ。

 新型コロナウィルスの感染拡大に際し、全国で2ヶ月間の外出制限が行われたフランス。この国のコーヒービジネスの中核にあるカフェも、全国一斉休業の憂き目を見た。一方その休業期間中、「家の外の憩いの場所」を失った顧客たちに、カフェの役割が強く再評価された面もある。6月18日の全面再開以来、待ちかねた人々が行きつけの店に駆けつけ、街は活気を取り戻した。
 パリ20区の「スーパーカフェ」は中でも特に、再開を待ち望まれた一軒だ。その理由はここが「環境保護」と「子どもの尊重」という、SDGsの二つのポリシーを実現する貴重な店だから。どちらか一つのテーマを掲げる店は増えているが、二つを兼ね備えている場所は珍しい。特に子どもを大人の付属品ではなく、「同列の客」として迎える店は稀有だ。
 「世代を問わず、誰もが和やかに過ごせる場所が作りたかったんです」
 オーナーのサラ・トレアンさんはそう語る。もともと法律家として働いていたが、2015年にカフェ業に転向した。きっかけは2010年に長女が生まれた際、パリ市内で親子で行ける店の少なさに直面したことだった。「家賃の高いパリでは、ベビーカーで数組分のスペースを取ってしまう子連れ客が歓迎されない理由も理解できます。でも私自身、子どもと一緒に安心して居られる店が欲しかった。なら自分で作ろうと考えたんです」

すべてのフードが大・小ポーションで提案される、「スーパーカフェ」のメニュー表(2020年冬版)。

 開業に当たってサラさんがまず決めたのは、子どもを最初から「一人の客」と設定すること。その柱として、すべての品を大・小の2サイズで展開するメニューを考えた。
 「大人が食べるのと同じものを、子どもたちも味わえるようにするためです」
 フランスのカフェにも「お子様メニュー」を持つ店は多い。しかし内容は「ハムとフライドポテト」などシンプルな定番品1~2種類で、選択の幅が狭いケースがほとんどだ。子どもは親の付属品だから、メニューも「おまけ」扱いでいい……そんな暗黙の了解が形になっているように。そして子どもたちは、どこへ行っても似たものばかりを食べさせられることになる。
 「大人と同じ料理を与えられることは、子どもたちの味覚を広げるきっかけになります」
 色とりどりの旬の野菜、丁寧な調理、ワクワクするような盛り付け。大人のカフェごはんの楽しみを、サイズを二つにするだけで、子どもたちも満喫できるのだ。簡単なようで誰もしてこなかった営業スタイルはすぐにパリジャンの支持を得て、多くのメディアにも取り上げられた。

「スーパーカフェ」のポーションの例。大・小で全く同じ食材・構成・盛り付けとし、量だけを変えている。野菜・たんぱく質・糖質のバランスも考慮されたヘルシーな内容だ。

 このメニュー構成は、「スーパーカフェ」のもう一つのポリシーである環境保護にも呼応する。成人でも食欲や食べる量には個人差があり、残飯によるフードロスは外食産業の大きな課題だ。すべてのメニューをあらかじめ2サイズで展開することで、ロスを最大限防げる。食べ残しを持ち帰るための使い捨て容器を用意するやり方もあるが、その容器がゴミ増加に繋がることを考えると、2サイズ展開はより筋が通っていると言える。
 そしてフードロスへの意識を高めるために、「スーパーカフェ」では食後の片付けを客に託している。
 「片付け棚には分別ゴミ箱を設置しています。もちろん子どもたちにも自分でやってもらいますよ。そうしてゴミのことも、一緒に学んでもらうんです」
 食材は可能な限り有機栽培、それも近隣の生産者から選ぶ。一番近い生産者は徒歩5分のご近所であるスプラウト(新芽野菜)の水耕栽培農家だ。コーヒー豆はフランス国内生産がないため、大手焙煎メーカー「リシャール」の「カフェ・マサヤ・ビオ」をチョイス。サステナビリティと有機栽培、生産者の労働環境改善を掲げ、SDGsに意欲の高い飲食業者に向けたラインナップだ。「もちろんそれだけではなく、美味しいから選んでいるのですけどね!」とサラさん。エスプレッソを中心に、アメリカン、カフェオレ、カプチーノと、パリの定番コーヒーメニューを展開する。

食器の片付けスペースには、分別を楽しく案内する黒板が置かれている。

 これが大事なことなんですが、と、インタビューの最後にサラさんは言った。
 「うちのお店は’子連れ客専用’ではありません。一人で編み物をしたいおばあさんも、読書をする学生も、誰もが憩える店です。そのためにはルールをしっかり決めて、子ども達にも守らせています」
 店の奥には子どもたちの専用スペースを設けているが、それは「そこ以外の場所」を「みんなの場所」と尊重させるためでもある。店内では走らない、大きな声では叫ばない、使ったものは自分で片付ける……店内でも子の監督義務は親にあるが、店に来る客たちも共に見守り、必要に応じて注意をする。誰もが憩える場所には、全員が守るべきルールが必要なのだ。そしてその遵守に努めるべきなのは、もちろん子どもだけではない。ここでは大人も子どもも、同列の客なのだから。
 「多様性の尊重」はSDGsの中でも重要視されるテーマだが、実際に取り入れるには、やり方に工夫がいる。お題目のように唱えるだけではなく、実践するにはどうすればいいか。世代を問わず愛されるパリの人気店には、そのヒントが詰まっている。

広々と安らげる、「スーパーカフェ」の店内。

〈カフェ情報〉
SUPERCAFE
supercafe.fr

*1ユーロ=約120円(2020年7月現在)
文=髙崎順子 パリ市郊外在住
写真=SUPERCAFE,髙崎順子
更新日:2020/8/15



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